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作成日:2026/07/21
【裁判例】年俸1,500万円・上位職位の中途採用者の普通解雇を「有効」−アマゾンジャパン事件(東京地判令和7年11月6日)
社会保険労務士法人T&M Nagoya
裁判例解説   普通解雇・勤務成績不良

年俸1,500万円・上位職位の中途採用者の普通解雇を「有効」

アマゾンジャパン事件(東京地判令和7年11月6日)
― ハイクラス人材の解雇で会社が勝てた4つの条件

おはようございます。社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区)の三重英則です。

「高い年収を提示して中途採用した即戦力人材が、期待した働きをしない」――ジョブ型雇用の広がりと専門人材の獲得競争を背景に、この類型のご相談が確実に増えています。日本の解雇規制のもとでは、能力不足・勤務成績不良を理由とする解雇は有効と認められにくい代表格です。そのなかで年俸1,500万円で採用された上位職位者の普通解雇を有効とした裁判例について、何が決め手だったのかを整理していきます。

📌 この記事のポイント

■ 年俸1,500万円・サイニングボーナス(1年目600万円/2年目430万円)で採用された「プリンシパル・プログラム・マネージャー(PPM)」が、勤務成績等を理由に約1年半で普通解雇された事案
■ 東京地裁は、この普通解雇を有効と判断した
■ 決め手は、@職位に対応する高度な職責が明確であったこと、A役割・職責を果たせなかったこと、B上司の指導を受け入れない姿勢が強固で改善の見込みが乏しかったこと、C退職金等の条件を提示した退職勧奨が解雇回避努力と評価されたこと
■ 「年収が高ければ解雇できる」という判決ではない。職責の明確さ・改善機会の付与・解雇回避プロセスが揃って初めて成立した
■ 地裁段階の判断であり、控訴・確定の有無は当法人では確認できていない

1.事案の概要

被告は、米国企業の日本における子会社で、オンラインショッピングストアAmazonを運営する会社です。原告と被告は、令和2年12月を雇用開始日とし、次の条件で労働契約を締結しました。

項目 内容
雇用開始日 令和2年12月
年俸 1,500万円
サイニングボーナス 1年目 600万円/2年目 430万円
職位・職務 A事業部に配置され、プリンシパル・プログラム・マネージャー(PPM)としてチームリーダーを担当
解雇 令和4年5月 普通解雇

A事業部は、被告が運営するオンラインストアを拡大するための各種プログラムの立案・実行を担当する部門です。原告は、解雇は解雇権濫用として無効であり不法行為にも当たると主張して、労働契約上の地位確認・賃金支払・不法行為に基づく損害賠償等を求めて提訴しました(このほか、親会社との株式ユニット報奨契約に基づく株式所有確認請求も行われていますが、本稿では触れません)。

採用から解雇まで、およそ1年5か月。年俸に加えて初年度だけで600万円の一時金を支払った人材を、1年半で解雇したという構図です。

2.東京地裁の判断 ― 解雇は有効

東京地裁は、本件普通解雇を有効と判断しました。判断の骨格は次のとおりです。

◆ 判決が認定した4つの要素

@ 高度なパフォーマンスの発揮を求められる地位であった
被告におけるPPMは、その職位が従業員のなかで8段階のうち上から2番目に位置付けられていました。その職責としては、ステークホルダーの要求を満たすための柔軟性、あらゆるレベルの上位者との協働、チームメンバーのキャリア成長の支援等が求められ、高度なパフォーマンスを発揮することが期待される地位であったと認定されています。

A 役割・職責を果たすことができなかった
原告は、その地位に求められる役割や職責を果たすことができなかったと評価されました。

B 上司の指導を受け入れない姿勢が強固で、改善の見込みが乏しかった
能力不足・勤務成績不良を理由とする解雇において、最後の砦となるのが「改善の可能性」です。本件では、上司の指導を受け入れない姿勢が強固であるとされ、改善の見込みが乏しい場合に当たると判断されました。指導に対する姿勢そのものが、改善可能性を否定する方向に働いています。

C 退職金等の条件を提示した退職勧奨=解雇回避努力
被告は、退職金等の条件を提示して退職勧奨を行ったものの合意に至らず、解雇に踏み切りました。裁判所は、この経緯をもって解雇回避努力がなされたと評価しています。

3.なぜ「有効」となったのか ― 当法人の分析

能力不足・勤務成績不良を理由とする解雇が有効と認められにくいのは、日本の多くの企業が「具体的な職務内容を特定せず」「長期育成を前提に」人を採用してきたからです。職務が特定されていなければ「何ができなかったのか」を立証しづらく、長期育成が前提であれば「もっと教育・配置転換すべきだった」という解雇回避努力の問題が必ず立ちはだかります。

本件は、この構造が反転しています。8段階中上から2番目の職位という位置づけと、そこに紐づく具体的な職責(ステークホルダー対応、上位者との協働、チームメンバーの育成)が明示されていたため、「求められた水準」と「実際の職務遂行」の落差を示す土台がありました。

もっとも、「高い年収で採れば解雇しやすい」と単純化するのは誤りです。年俸1,500万円という数字が単独で解雇を正当化したわけではありません。会社が勝てたのは、次の3つが揃っていたからだと当法人は考えます。

✓ 会社が勝てた3条件

条件1|職責の説明可能性 その報酬に見合う職責が、職位グレードと職務内容として説明できる状態にあった。

条件2|指導の事実と、拒否された事実 上司が実際に指導を行い、それが受け入れられなかったという経緯が示された。指導が存在しなければ「改善の機会を与えていない」となる。

条件3|解雇回避のプロセス いきなり解雇せず、退職金等の条件を提示した退職勧奨を経ている。

逆に言えば、高年俸で採用しながら職務内容が曖昧で、指導記録もなく、退職勧奨も経ずに解雇すれば、年収がいくら高くても解雇は無効となる可能性が高いということです。この点を取り違えないでください。

4.実務への示唆 ― ハイクラス採用の「入口」で設計する

(1) 「何を期待して、いくらで採るのか」を書面で明確にする

高年俸で採用するなら、その報酬に対応する職責・成果水準を、労働契約書・オファーレター・職務記述書(ジョブディスクリプション)に具体的に書き込んでおくことが決定的です。本件で職位グレードと職責の内容が認定の出発点になったことは、その裏返しです。高い年俸を払いながら職務内容が曖昧なままでは、後に「何ができなかったのか」を立証できません。就業規則・契約書面の整備と一体で設計してください。

(2) 成果不足は「記録」でしか立証できない

能力不足・勤務成績不良を理由とする解雇で会社が敗れる最大の原因は、「成果が出ていない」という評価を裏づける客観的記録がないことです。目標設定、中間評価、達成度、面談記録、改善指示とその後の経過――これらを時系列で残せているかが勝敗を分けます。ハイクラス人材ほど「言わなくても分かるはず」と管理が緩みがちですが、それが後に立証の穴になります。

(3) 「指導を行った事実」と「拒否された事実」を残す

本件で改善見込みの乏しさを基礎づけたのは、単なる成績の低さではなく指導に対する本人の姿勢でした。会社側にとって重要なのは、指導を実際に行い、それが受け入れられなかった事実を記録に残すことです。指導の不存在は、そのまま解雇回避努力の不足に直結します。

(4) 段階を踏む ― 退職勧奨を飛ばさない

成果不足が明らかでも、いきなり解雇に踏み切れば社会通念上の相当性を欠くと判断されるリスクが高まります。指導・注意 → 改善機会の付与 → 改善しない場合の退職勧奨 → 最終手段としての解雇という段階を踏み、各段階を記録に残すこと。本件で退職金等の条件提示を伴う退職勧奨が解雇回避努力と評価された点は、この手順の実務的価値を裏づけています。なお、退職勧奨は進め方を誤れば違法な退職強要と評価されうるため、労働紛争解決支援の観点から事前設計が必要です。

(5) サイニングボーナスの返還条項は別途の検討を要する

入社一時金を支払う場合、早期退職時の返還条項をどう設計するかも実務では頻出の論点です。返還条項は、その内容によっては労働基準法16条(賠償予定の禁止)との関係が問題となりうるため、設計には慎重さが必要です。なお、本件でサイニングボーナスの返還が争われたかどうかは、当法人では確認できていません。本項は一般論を述べるにとどめます。

5.現時点で確認できていない事項

◆ 推測で埋めない ― 確認できていない点

・判決全文は裁判所ウェブサイトで確認できておらず、本稿は労働専門紙掲載の判例解説に基づいています。

・勤務成績不良と評価された具体的事実(どの業務がどの水準に届かなかったか)は確認できていません。

・退職勧奨で提示された金銭条件の水準は確認できていません。

控訴の有無・判決の確定の有無は確認できていません。本判決は地裁段階の判断としてお読みください。

6.おわりに

本件は、「日本では解雇できない」という通念に一定の留保を付す事案です。ただしその留保は、「高い年収を払えば自由に解雇できる」という意味ではまったくありません。会社が解雇を有効とできたのは、職責を説明でき、成績不良と指導拒否の事実を示し、退職勧奨という解雇回避のプロセスを踏んだからです。

ハイクラス人材の採用をご検討中の経営者に、当法人が必ずお尋ねしていることが2つあります。

✓ その年収に見合う職責を、契約書で具体的に書けていますか。

✓ 成果が出なかったとき、それを立証できる記録の仕組みがありますか。

高く採ることと、成果が出なかったときに適法に対応できることは、採用の入口で同時に設計しておくべき事柄です。出口だけを後から何とかしようとしても、たいていは間に合いません。ハイクラス人材の採用条件設計・退職勧奨の進め方・解雇の可否判断は、当法人の高難度業務対応型顧問でも多くご相談をいただく領域です。

🔎 本記事の確信度について

事件名・裁判所・判決年月日・年俸額・サイニングボーナス額・職位・採用時期・解雇時期・結論(解雇有効)・判決理由の骨子は、労働専門紙掲載の判例解説で確認しています(確信度:高)。一方、判決全文・当事者の詳細な主張・控訴および確定の有無は確認できていません(確信度:不明)。第3章以降の分析は、確認できた判決の骨子を踏まえた当法人の見解であり、判決そのものの認定ではありません。

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【根拠法令・参考情報】
・労働契約法16条(解雇)
・労働基準法16条(賠償予定の禁止)、20条(解雇の予告)
・アマゾンジャパン事件(東京地判令和7年11月6日)/労働新聞 令和8年7月20日第3553号14面 掲載
・厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」

【免責事項】
本記事は2026年7月13日時点で確認できた情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。本判決は地裁段階の判断であり、控訴・確定の有無は確認できていません。具体的な人事措置の可否については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。
この記事を書いた人
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号 第160175号

名古屋市中区を拠点に、労働紛争解決、IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、団体交渉対応など高難度の労務案件を専門としています。「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」を使命に、伴走型の支援を提供しています。