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📌 この記事の要点 ・有期の常勤講師と無期の専任教員との賃金差(年齢給)が「不合理な格差」にあたるかが争われた事案 |
| 1.事案の概要 |
| 舞台は、学校法人明徳学園が運営する私立京都成章高校(京都市)です。公表された判決の解説および報道によれば、経緯は次のとおりです。 |
| 時期 | 出来事 |
| 平成22年(2010)4月 | 男性(40代)が、本件高校の常勤講師として期間1年の有期労働契約を締結。生徒への教育指導および試験・評価にかかる付帯業務を担当。以後、契約更新を繰り返す。 |
| 令和3年(2021) | 男性が無期労働契約への転換を申し込む。 |
| 令和4年(2022)4月 | 無期労働契約に転換。同月1日付けで、有期の事務職員(常勤嘱託)への配置転換命令がなされる。 |
| 提訴 | 男性が、講師の地位確認・配転命令の効力・専任教員との賃金差を理由とする損害賠償(約1,490万円)を求めて提訴。 |
| 一審 京都地判 令7.2.13 |
地位確認は却下、配転命令は有効とする一方、賃金差は不合理で違法と認め、消滅時効が完成していない平成31年(2019)以降の差額分として約450万円の支払を命じた。 |
| 控訴審 大阪高判 令7.10.14 |
一審判決を変更し、男性(講師側)の請求をすべて棄却。賃金差は不合理とまではいえないと判断した。 |
| 【重要・本件は未確定です】 大阪高裁判決に対し、講師側は上告しています。本記事執筆時点で判断は確定しておらず、今後の最高裁の判断により結論が変わる可能性があります。下級審(高裁)の判断である点にもご留意ください。 |
| 2.一審と控訴審はどこで分かれたか |
| 3つの争点のうち、「職種限定の合意」と「配転命令の効力」は、一審・控訴審ともに学校側の主張を認めました。両者が真っ向から分かれたのは、専任教員との賃金差(年齢給)が不合理かどうかという一点です。 |
| 争点 | 一審(京都地裁) | 控訴審(大阪高裁) |
| @職種を教育職員に限定する合意 | 合意は認められない | 合意は認められない (結論一致) |
| A事務職員への配転命令 | 有効 | 有効(同一労働同一賃金の回避のみを目的としたものとは認められない) (結論一致) |
| B専任教員との賃金差(年齢給) | 不合理=違法 職務内容・責任・配置変更の範囲に賃金差を設けるほどの違いはない |
不合理とまではいえない 職務内容・配置変更の範囲に大きな相違がある |
| 結論 | 約450万円の支払を命じる | 請求をすべて棄却 |
| 3.控訴審が「不合理でない」とした3つの根拠 |
| 大阪高裁は、専任教員と常勤講師との間で賃金額に差を設けること自体には一定の合理性があるとしたうえで、次の(1)〜(3)の事情を総合し、その差は不合理とまではいえないと結論づけました。 |
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(1) 年齢給の「性質・目的」が異なる 専任教員の年齢給は、長期雇用を前提に、法人の基幹的な地位・役割を担う人材の確保と定着を図る目的で定められたもの。これに対し、25歳以上の常勤講師に支給される年齢給は5年を限度に昇給するもので、主として担当教科の授業を行うなど、教育職員としての基本的な職務の遂行に対する職務給を中心とする性質と認められる、とした。 |
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(2) 職務内容・配置変更の範囲に大きな相違がある 管理職・役職には、例外的な場合を除き専任教員が就任しており、役職に就いていない一般の専任教員も、長期継続勤務のなかでいずれこれらの職務を担う現実的可能性があった。また、専任教員が配置転換命令により本件高校と系列校との間を異動した例が10年間で15例あった一方、常勤講師は契約期間中の系列校への異動が想定されていなかった、とした。 |
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(3) 専任教員への「登用の道」が開かれていた 常勤講師も専任教員になることが可能であり、平成24年から令和4年までの間に、常勤講師から専任教員になった者が17名存在した、とした。 |
| そのうえで大阪高裁は、男性の年齢給を、同年齢・同時期に採用された専任教員の年齢給と比べると、いずれも差は30%以内に収まっているとし、この程度の差は、教育職員としての基本的な職務内容に大きな差異がなかったことを考慮しても、労働契約法20条またはパートタイム・有期雇用労働法8条にいう「不合理なもの」とまではいえないと判断しました。 |
| 4.なぜ注目されるのか――最高裁が残した「宿題」 |
| 有期労働者と無期労働者の労働条件の差が不合理かどうかは、問題となった労働条件ごとに、その性質・目的に照らし、@職務の内容、A職務内容・配置の変更の範囲、Bその他の事情を考慮して判断されます(パート・有期法8条)。 最高裁は、賞与(大阪医科薬科大学事件・最判令2.10.13)、退職金(メトロコマース事件・最判令2.10.13)、各種手当・休暇(日本郵便事件・最判令2.10.15)などについて判断を示してきました。しかし、「基本給」そのものの不合理性については正面から判断しておらず、いわば“宿題”として残されてきたといわれます。 一審の京都地裁判決は、この基本給(年齢給)の性質・目的を分析して不合理と判断した点で注目を集めました。控訴審の大阪高裁は、同じ判断枠組みを用いながら、「職務内容・配置変更の範囲」の差を重視して逆の結論に至ったわけです。 ここから読み取れる実務上の要点は明確です。――「同じような仕事をしている」という一事だけでは、賃金差の不合理性は決まらない。転勤・職種変更・昇進可能性といった“配置変更の範囲(=使用者の配転権の範囲)”の差が、賃金差を正当化する重要な要素となる、ということです。 |
| 5.経営者・人事担当者が今すぐ点検すべきこと |
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▸ 賃金差を「労働条件ごと」に説明できるか:基本給・手当・賞与・退職金は性質・目的が異なる。「正社員だから高い」ではなく、項目ごとに差の理由を言語化しておく。 ▸ 「配置変更の範囲」の差を制度・運用・実績で裏づけているか:転勤・職種変更・昇進の有無は、就業規則や辞令、実際の異動・登用の実績として残ってはじめて説得力を持つ。本件でも「10年で15例の異動」「17名の登用」という具体的実績が決め手となった。 ▸ 無期転換者・限定正社員の処遇設計に注意:無期転換しても職務・配置が有期時代と変わらない場合や、ジョブ型雇用・エリア限定社員のように正社員側の「配置変更の範囲」を狭める制度を導入する場合は、有期・非正規との差の合理性が揺らぐ可能性がある。 ▸ 比較対象の取り方を意識する:本件では「同年齢・同時期に採用された専任教員」との比較で差が30%以内に収まる点が考慮された。誰と比べてどの程度の差なのかという比較の枠組みを整理しておく。 |
| 6.まとめ |
| 本判決は、職務内容に大きな差がない場合でも、「配置変更の範囲」の相違によって賃金差が不合理とまではいえないとされ得ることを示した点に意義があります。一審と控訴審で結論が分かれたとおり、同一労働同一賃金は評価が割れやすい領域です。自社の正規・非正規の処遇差が説明できる状態かどうかは、個別の検証が欠かせません。当法人では、給与監査顧問や就業規則の作成・改定、上場準備段階のIPO労務監査の観点から、賃金制度・処遇設計の点検をご支援しています。 |
| 🔎 本件は控訴審判決であり、講師側が上告しているため未確定です(確信度:高)。事案の経緯・認容額・当事者属性は、判決の解説(労働新聞)および報道(日本経済新聞・京都新聞)で確認していますが、無期転換の申込時期は資料により記載差があり、本記事では年のみ記載しています。最高裁の係属・処理状況は本記事執筆時点で確認できていません。民法・労契法20条・パート・有期法8条の解釈枠組みおよび最高裁先例は公開情報で確認済みです。 |
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📖 根拠法令・参考判例 ・パートタイム・有期雇用労働法 第8条(不合理な待遇の禁止) |
| ※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。本件は控訴審判決であり確定していません。記載の事実関係は公表資料・報道に基づく要約であり、結論は個別事情により異なります。具体的な対応にあたっては社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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執筆:三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員) 特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号)。中小企業・IPO準備企業の労務監査、就業規則・賃金規程整備、労使紛争対応を中心に使用者側の実務支援を行っています。 |