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作成日:2026/06/28
【裁判例】派遣契約の中途解除と 賃金・休業手当の支払義務・東京地方裁判所 令和7年3月26日判決
判例解説休業手当派遣

【派遣会社事件】派遣契約の中途解除と
賃金・休業手当の支払義務
東京地方裁判所 令和7年3月26日判決


📌 この記事の要点

・派遣労働者の業務遂行を理由に派遣先が「着台不可」とし派遣契約が中途解除された場合に、派遣元が賃金・休業手当を支払う義務を負うかが争われた事案
・東京地裁は、民法536条2項(危険負担)に基づく賃金全額の請求は否定した(派遣元の帰責事由なし)
・一方、労働基準法26条の休業手当の支払義務は肯定した(使用者側に起因する事情にあたる)
・民法と労基法で「責めに帰すべき事由」の意味が異なることを示す事案


1.働けなかった期間の補償 ― 民法と労基法の二段構え
労働者に働く意思と能力があったのに就労できなかった場合、使用者がどこまで補償するかは、民法536条2項(危険負担)労働基準法26条(休業手当)の二段構えで検討します。両者はいずれも「使用者の責めに帰すべき事由」を要件としますが、その意味内容が異なる点が実務上のポイントです。
民法536条2項の「責めに帰すべき事由」 労働基準法26条の「責めに帰すべき事由」
故意・過失または信義則上これと同視すべき事由。

該当すれば、使用者は賃金全額の支払を拒めない。
民法より広く、不可抗力に当たらない限り使用者側に起因する事情を広く含む(外部起因性・回避可能性等を検討)。

該当すれば、平均賃金の6割以上の休業手当を要する。
2.事案の概要
派遣労働者X(原告)は、派遣元Y(被告)に有期雇用契約(期間1か月)で雇用され、派遣先C社で電話受信等の業務に従事することになりました。業務開始から20日程度経過した時点で、C社からY社に対し、原告の問題点(本人確認が不安定、応答中に無言になる等)を指摘して「着台不可」との連絡がありました。Y社は同日、Xに対し契約終了(労働者派遣契約の終了の趣旨)等を伝え、その約1週間後に他の複数の派遣先(最短で6日後開始)を紹介しました。Y社はXに実稼働分の賃金のみを支払いました。
3.裁判所の判断
裁判所は、賃金全額請求(民法536条2項)と休業手当(労基法26条)とで結論を分けました。

✔ 賃金全額請求(民法536条2項)― 否定

▸ 責めに帰すべき事由の有無は、就労できなかった反対給付リスクを派遣元に負担させるのが正当かという観点で判断する

▸ 着台不可と判定されたこと自体は派遣元(Y)に起因するものではない

▸ Yは他の派遣先を紹介し、就労継続に一定の努力をした。契約期間内に就労可能な派遣先紹介が容易だったとの証拠もなく、新たな派遣先を提供する契約上の義務もない

→ 民法536条2項の帰責事由にはあたらず、休業分の賃金請求は認められない

✔ 休業手当(労働基準法26条)― 肯定

▸ 労基法26条の責めに帰すべき事由は、民法とは異なり、不可抗力に当たらない限り使用者側に起因する事情を広く含む

▸ Xが就労できなくなったのは派遣先からの連絡を契機とするもので、Xに債務不履行があったとの証拠もない

→ 使用者側に起因する事情によるものであり、Yの責めに帰すべき事由にあたるとして、休業手当の支払義務を認めた

4.実務上の留意点
労基法26条の休業手当は、民法上の損害賠償とは異なり、労働者の生活保障の観点から支払を求められる特別の手当です。使用者の立場から不可抗力といえる外部事情に起因するものでない限り、休業手当の支払義務を負うとイメージしておくのが安全です。労基法26条違反は罰則の対象でもあります(30万円以下の罰金。労基法120条1号)。

▼ 派遣元・派遣先が押さえるべき点

派遣元:派遣先からの中途解除で派遣労働者が就労できなくなった場合、賃金全額は免れても、休業手当の支払義務は生じ得る。「使用者の責任ではない」と安易に支払を見送らない

派遣先:派遣契約の中途解除にあたっては、労働者派遣法上、雇用安定措置を派遣契約で定めることが求められる。期間満了前の安易な解除は、残期間分の賃金・休業手当相当額の支払を派遣元から求められることがある

5.まとめ
本判決は、派遣契約の中途解除をめぐり、民法536条2項の賃金全額請求は否定しつつ、労基法26条の休業手当は肯定した点に意義があります。同じ「責めに帰すべき事由」でも民法と労基法で範囲が違うという理解が、誤った不払いを防ぎます。派遣に限らず、休業手当の要否判断は専門的検討が必要です。当法人では、労働紛争への対応労務手続・監査の観点から、休業手当・派遣契約の実務をご支援しています。
🔎 本記事の事案部分は出典資料(弁護士ニュースレター)の記載に基づき再構成しています。判決原本・労働判例での確認は行っていないため、事実関係の細部については確信度「中」としてお取り扱いください。民法536条2項・労働基準法26条の解釈枠組みは公開情報で確認済みです。
休業手当・派遣契約のご相談はこちら ▶社会保険労務士法人T&M Nagoya

📖 根拠法令・参考判例

・民法536条2項(危険負担)
・労働基準法26条(休業手当)、同120条1号(罰則)
・労働者派遣法26条1項(派遣契約で定める雇用安定措置)
・派遣会社事件(東京地方裁判所 令和7年3月26日判決)※出典:弁護士ニュースレターに基づく

※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。記載の事実関係は出典資料に基づく要約であり、結論は個別事情により異なります。具体的な対応にあたっては社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆:三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員)

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号)。中小企業・IPO準備企業の労務監査、就業規則・賃金規程整備、労使紛争対応を中心に使用者側の実務支援を行っています。