作成日:2026/06/25
【裁判例】【卸売業ルートセールス事件】入社4〜5か月後の通知書で 「明確化」された固定残業代は有効か・大阪地方裁判所 令和7年11月21日判決
| 判例解説固定残業代賃金 |
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【卸売業ルートセールス事件】入社4〜5か月後の通知書で 「明確化」された固定残業代は有効か 大阪地方裁判所 令和7年11月21日判決
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📌 この記事の要点
・職能給の一部・営業手当を固定残業代とする運用で、入社時には金額が明確でなかった事案 ・大阪地裁は、就業規則(給与規定)の労働契約規律効により固定残業代が契約条件になっていたとし、入社4〜5か月後の労働条件通知書・給与内訳表の交付で金額が明確になったとして有効と判断 ・ただし変形労働時間制は否定され、約87万円・約150万円(付加金を除く)の支払が命じられた ・出典の弁護士も「限界的な事案」と評価。実務上の推奨はできないが、明確区分性の判断材料が契約締結時の書類に限られないことを示す事例
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| 1.「入社時に金額が決まっていなかった」固定残業代 |
| 固定残業代が有効とされるには、通常の賃金部分と割増賃金部分を判別できること(明確区分性)が土台となります。では、その金額が雇用契約の締結時には明確でなく、入社から数か月後に交付された書類で初めて具体化した場合はどうなるのか――本件は、その点が問われた事案です。 |
| 被告は食品・酒類・消耗品の卸売業を営む会社、原告2名(A・B)は平成28年に入社しルートセールスに従事していました(いずれも退職済み)。給与規定では、職能給の一部および営業手当を時間外労働等への充当分とする旨が定められていました。 |
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▼ 賃金制度の概要
▸ 営業手当:定額の「みなし時間外手当(休日・深夜を含む)」として支給(当初2万円、後に3万円)
▸ 職能給:給与規定で、その40〜60%(後に20〜60%・職種別個別決定)を時間外みなし分とする旨を規定
▸ 原告A:入社から約5か月後に労働条件通知書の交付を受けた(職能給7万3000円のうち3万2000円が時間外充当分等と明記)
▸ 原告B:平成29年4月頃に給与内訳表の交付を受けた(定額時間外分の金額等を明記)
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| 裁判所は、就業規則(給与規定)の労働契約規律効により、営業手当および職能給の一部を固定残業代として支払うことが労働条件になっていたとしたうえで、その金額の明確化について次のように判断しました。 |
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✔ 「明確になった」と認められた理由
@ 営業手当:給与規定の規律効により、時間外・休日・深夜労働への固定残業代として支払う契約条件になっていたと認められる
A 職能給の一部:規律効により職能給の40〜60%を固定残業代とすることが労働条件であり、幅をもたせた定めは具体的金額の決定を会社に委ねる趣旨と解される
B 事後の明確化:雇用契約締結時に金額を明確に合意した的確な証拠はないものの、原告Aは契約から約5か月後の労働条件通知書、原告Bは約4か月後の給与内訳表により、固定残業代の金額が明確になったと認められる
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| 以上から、営業手当および職能給の一部は固定残業代(割増賃金の支払)と認められました。一方で、本件では変形労働時間制が否定され、会社は原告2名に対し、それぞれ約87万円・約150万円(付加金を除く)の支払を命じられています。 |
| 4.注意 ― 固定残業代が有効でも他の論点で敗訴し得る |
| 本件では固定残業代の有効性は認められましたが、変形労働時間制が否定された結果として未払いが生じています。固定残業代の有効性は、労働時間制度全体の適法性とあわせて初めて意味を持ちます。一つの論点だけを整えても、別の論点で支払を命じられることがある点に注意が必要です。 |
| 出典の解説でも、本件は「限界的な事案」と評価されています。職能給に40〜60%という幅をもたせる定め方は、労働者が自分の残業代部分を計算・検証しにくく、本来は望ましい設計ではありません。本判決は、明確区分性の判断材料が雇用契約締結時の書類(雇用契約書・労働条件通知書・就業規則)だけに限られない可能性を示すものですが、これを一般的な運用のお手本とすることはできません。 |
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▼ 安全な運用のために
▸ 入社時に明確化する:固定残業代の金額と相当する時間数を、雇用契約書・労働条件通知書で入社時点から明示する
▸ 幅のある定めを避ける:『○〜○%』のような幅をもたせず、金額・時間数を一義的に定める
▸ 労働時間制度全体を点検:変形労働時間制・割増賃金の計算など、固定残業代以外の論点もあわせて適法性を確認する
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| 本判決は、事後交付された書類により固定残業代の金額が明確になったと認めた点で実務上参考になりますが、あくまで限界的な事例です。安全策は、入社時点で金額・時間数を明確に定めること。固定残業代と労働時間制度を一体で点検することが、未払いリスクの回避につながります。当法人では、就業規則・賃金規程の整備と給与計算の両面から、固定残業代・労働時間制度の適法性チェックをご支援しています。 |
| 🔎 本記事の事案部分は出典資料(弁護士ニュースレター)の記載に基づき再構成しています。判決原本・労働判例での確認は行っていないため、事実関係・金額の細部については確信度「中」としてお取り扱いください。固定残業代の法的枠組み(明確区分性・対価性)は公開情報で確認済みです。 |
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📖 根拠法令・参考判例
・労働基準法37条(割増賃金)、同32条の2(1か月単位の変形労働時間制) ・労働契約法7条(就業規則の労働契約規律効) ・卸売業ルートセールス事件(大阪地方裁判所 令和7年11月21日判決)※出典:弁護士ニュースレターに基づく ・(参考)日本ケミカル事件(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決)――固定残業代の対価性
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| ※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。記載の事実関係は出典資料に基づく要約であり、結論は個別事情により異なります。具体的な対応にあたっては社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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執筆:三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号)。中小企業・IPO準備企業の労務監査、就業規則・賃金規程整備、労使紛争対応を中心に使用者側の実務支援を行っています。 |