作成日:2026/06/24
【裁判例】勤続月数で増える固定残業代は有効 ―"対価性"を補強する制度設計とは・福岡高等裁判所宮崎支部 令和7年8月27日判決
| 判例解説固定残業代賃金 |
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【N社事件】勤続月数で増える固定残業代は有効 ―― "対価性"を補強する制度設計とは 福岡高等裁判所宮崎支部 令和7年8月27日判決
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📌 この記事の要点
・勤続月数に応じて固定残業時間数(金額)が増える賃金制度の有効性が争われた事案 ・従業員側は「実質は基本給の昇給であり、残業代としての対価性がない」と主張 ・高裁は、勤続に応じて残業が増える傾向が一定程度あること等から、定額残業代を有効と判断 ・一方、出張時の事業場外みなし労働時間制は否定された(労働時間管理は依然として必須)
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| 1.厳しく見られる固定残業代――それでも有効とされた制度 |
| 固定残業代(定額残業代)の有効性は、近年の裁判例で厳しく判断される傾向にあります。とりわけ「基本給に残業代が混ざって判別できない」「残業代としての対価性がなく、実質は昇給ではないか」という点が争われます。本件は、勤続月数に応じて固定残業時間数が増える仕組みについて、従業員側が対価性を争った事案で、結論として制度が有効と認められました。 |
| 従業員(原告)が会社(被告)に対し、未払い賃金等を請求しました。主な争点は、@勤続月数に連動する定額残業代の有効性と、A出張時の事業場外みなし労働時間制の適用の2点でした。会社の賃金規程では、勤務月数に応じて固定残業時間数(および金額)が段階的に増える仕組みが採られていました。 |
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▼ 勤続月数と固定残業時間数(会社の仕組み)
勤続0か月=0時間/2か月=13時間/6か月=14時間/12か月=15時間/18か月=17時間
24か月=19時間/30か月=21時間/36か月=24時間/48か月=30時間
60か月=33時間/72か月=36時間/96か月=40時間/108か月=42時間
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| これに対し従業員側は、勤務月数が増えても必ずしも仕事量が増えるとは限らず、固定残業代が基本給の昇給の代替として用いられているにすぎないため、残業代としての対価性がなく無効だ、と主張しました。 |
| 3.裁判所の判断 ― 定額残業代を有効と認めた理由 |
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✔ 高裁が有効と判断した3つの理由
@ 勤続と残業増の相関:勤続月数に応じて残業時間が増加する傾向が一定程度あることは否定できず、その実態に合わせた制度設計は不合理とはいえない
A 「昇給がなかった」ことは無効の理由にならない:会社の人事評価制度では昇給・維持・降給が決まる仕組みであり、平均的な能力発揮で必ず昇給するわけではない。昇給がなかった事実から、固定残業代が昇給の代替であるとはいえない
B 実労働時間との乖離に寛容:設定された時間数より実際の残業が少ない月(充足率60%台)があっても、その程度の乖離では対価性は否定されない
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| これらを踏まえ、裁判所は本件の定額残業代を有効と判断しました。固定残業代の制度設計において、使用者側に一定の裁量を認めた判断といえます。 |
| 一方で、従業員が休日に出張して参加する合同企業説明会等のイベントについて、会社が適用していた事業場外みなし労働時間制は否定されました。定額残業代が有効でも、実際の労働時間が定額分を超えていれば差額の支払義務が生じます。「定額残業代があるから安心」とはならず、客観的な労働時間管理は引き続き不可欠です。 |
| 5.実務上の留意点 ―「対価性」を制度設計で補強する |
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▼ 設計のポイント
▸ 対価性の根拠を説明できるようにする:金額や時間数の根拠を、業務量・職責・勤続といった実態と紐づけて説明できるようにしておく
▸ 人事評価制度を整え、規程どおり運用する:基本給は能力評価で、固定残業代は業務負荷で決まるという区分けを機能させる
▸ 明確区分性を確保する:通常の賃金部分と固定残業代部分を判別できる形で定める
▸ 労働時間管理を怠らない:実労働が定額分を超えていないかを客観的記録で把握する
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| 本判決は、固定残業代に対して使用者側に勇気づけられる判断を示した一方、事業場外みなしの否定という敗訴論点も含んでいます。制度の有効性は「契約書に書く」だけでなく、対価性・明確区分性の実質と、労働時間管理の運用が一体となって支えるものです。自社の固定残業代制度の点検は、就業規則・賃金規程の整備や給与計算の観点から専門的に行うことをお勧めします。 |
| 🔎 本記事の事案部分は出典資料(弁護士ニュースレター)の記載に基づき再構成しています。判決原本・労働判例での確認は行っていないため、事実関係・数値の細部については確信度「中」としてお取り扱いください。固定残業代の法的枠組み(対価性・明確区分性、事業場外みなしの判断枠組み)は公開情報で確認済みです。 |
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📖 根拠法令・参考判例
・労働基準法37条(割増賃金)、同38条の2(事業場外労働のみなし労働時間制) ・N社事件(福岡高等裁判所宮崎支部 令和7年8月27日判決)※出典:弁護士ニュースレターに基づく ・(参考)日本ケミカル事件(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決)――固定残業代の対価性 ・(参考)テックジャパン事件(最高裁第一小法廷 平成24年3月8日判決)――明確区分性
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| ※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。記載の事実関係は出典資料に基づく要約であり、結論は個別事情により異なります。具体的な対応にあたっては社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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執筆:三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号)。中小企業・IPO準備企業の労務監査、就業規則・賃金規程整備、労使紛争対応を中心に使用者側の実務支援を行っています。 |