作成日:2026/06/23
【裁判例】【貨物運送業A社事件】無効になった固定残業代―賃金規程を「作り直す」ときの不利益変更の壁・大阪地方裁判所 令和7年11月28日判決
| 判例解説固定残業代就業規則 |
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【貨物運送業A社事件】無効になった固定残業代―― 賃金規程を「作り直す」ときの不利益変更の壁 大阪地方裁判所 令和7年11月28日判決
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📌 この記事の要点
・トラック運転手に支払われていた固定残業代(業績給に含むとされた手当)が、先行訴訟で割増賃金と認められなかった事案の「その後」 ・会社は賃金規程を改定したが、その不利益変更の合理性が争われた ・大阪地裁は、変更の必要性の説明不足・労働者との交渉不足・実質的なコスト削減目的などから、就業規則変更の合理性を認めなかった(労働契約法9条本文) ・旧給与を前提に割増賃金を計算し、約500万円の割増賃金と300万円超の付加金の支払が命じられた
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| 1.固定残業代が無効になった「その後」が問題になる |
| 固定残業代が訴訟で無効と判断されると、会社は同じ問題が繰り返されないよう賃金規程を作り直す必要に迫られます。ところが、無効だった手当を有効な制度に組み替えようとすると、今度は就業規則の不利益変更という別の壁にぶつかります。本件は、まさにその難しさが正面から問われた事案です。 |
| 被告は貨物自動車運送事業を営む会社、原告は平成26年8月に入社したトラック運転手です。入社時の労働条件通知書には、業績給(本件手当)に一定の時間外手当を含む旨が記載されていました。 |
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▼ 賃金制度の変遷
▸ 平成30年4月以降:「業績給」の名称を「時間外割増」に変更
▸ 令和2年5月頃(本件賃金改定):賃金規程を改定。新給与と旧給与を並行して計算し高い方を支給、旧給与が高い場合は差額を「調整給」として支給
▸ 改定後:固定時間外・歩合時間外を「時間外手当40時間分」として支給し、40時間を超えた場合は差額を支給する仕組みに
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| これに先立つ先行訴訟では、業績給(本件手当)について、通常の労働時間の賃金が含まれており対価性・判別性を欠くとして割増賃金の支払とは認められず、会社が一審認容額等を弁済したことで決着していました(控訴審は弁済を理由に請求棄却・令和5年5月18日)。本件は、その後の賃金規程改定の効力等が争われたものです。 |
| 3.争点 ― 無効な固定残業代を含む賃金規程の改定は有効か |
| 中心的な争点は、先行訴訟で否定された固定残業代を含む賃金規程を改定した「本件賃金改定」が、就業規則の不利益変更として合理性を備え、労働条件を変更する効力を持つか(労働契約法9条・10条)という点です。 |
| 裁判所はまず、旧給与の本件手当について、先行訴訟と同様に割増賃金の支払とは認められない(歩合給と認定)としました。そのうえで、本件賃金改定による不利益と、変更の合理性を次のように検討しました。 |
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✔ 合理性が否定された主な理由
@ 不利益の程度が著しい:新給与の歩合給が旧給与より10万円以上引き下げられ、調整額の計算も旧給与の割増賃金部分を十分に反映しておらず、不足が月10万円程度に及んだ
A 変更の必要性の説明不足:会社は「不利益変更にあたらない」等と述べるにとどまり、変更の必要性・合理性が十分に説明されていない
B 実質的な目的:社会保険労務士から『名称変更だけでは残業代と認められない法的リスクは残る』との助言を受けたことが契機であり、法的リスク回避(実質的にはコスト削減)の目的が認められた
C 交渉の不足:労働者側と十分に交渉した形跡が認められない
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| 以上から、裁判所は本件賃金改定に合理性は認められないとして、労働契約の内容を変更する効力はない(労働契約法9条本文)と判断しました。その結果、旧給与を前提に割増賃金が計算され、約500万円の割増賃金と300万円超の付加金の支払が命じられました。 |
| 5.実務上の留意点 ― 是正のつもりが新たな紛争を生む |
| 本判決が示すのは、固定残業代が無効とされた後の「是正」が、不利益変更という新たな論点を生むという構造的な難しさです。無効な手当をそのまま基本給に組み入れれば大幅なコストアップになり、総額を変えずに制度だけ差し替えれば不利益変更の問題が生じます。 |
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▼ 賃金規程を作り直すときの実務ポイント
▸ 目的の整理:「コスト削減」ではなく、賃金制度の適正化という変更の必要性・合理性を客観的に説明できるようにする
▸ 激変緩和:調整給・調整期間など、不利益を緩和する措置を設計する
▸ 同意の取得・交渉:可能な限り個別同意を得る、従業員代表との協議・説明を尽くすなど、合理性を基礎づける要素を積み上げる
▸ 名称変更だけで済ませない:手当の名称を変えるだけでは固定残業代の有効性は確保できない(対価性・明確区分性の実質が必要)
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| 固定残業代の制度設計は、入口(有効性)だけでなく、いったん無効とされた後の「やり直し」まで見据える必要があります。自社の賃金規程に同種のリスクがないか、また是正が必要な場合に不利益変更の合理性をどう確保するかは、専門的な検討が欠かせません。当法人では、就業規則・賃金規程の整備や、固定残業代をめぐる労働紛争への対応をご支援しています。 |
| 🔎 本記事の事案部分は出典資料(弁護士ニュースレター)の記載に基づき再構成しています。判決原本・労働判例での確認は行っていないため、事実関係・金額の細部については確信度「中」としてお取り扱いください。固定残業代・不利益変更の法的枠組み(労働契約法9条・10条、対価性・明確区分性)は公開情報で確認済みです。 |
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📖 根拠法令・参考判例
・労働契約法9条・10条(就業規則による労働条件の不利益変更) ・労働基準法37条(割増賃金)、同114条(付加金) ・貨物運送業A社事件(大阪地方裁判所 令和7年11月28日判決)※出典:弁護士ニュースレターに基づく ・(参考)日本ケミカル事件(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決)――固定残業代の対価性
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| ※本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言を構成するものではありません。記載の事実関係は出典資料に基づく要約であり、結論は個別事情により異なります。具体的な対応にあたっては社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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執筆:三重 英則(社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員)
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員(SRP認証番号 第160175号)。中小企業・IPO準備企業の労務監査、就業規則・賃金規程整備、労使紛争対応を中心に使用者側の実務支援を行っています。 |