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作成日:2026/06/16
【裁判例】「名誉顧問」の解任は不当解雇か? ―大成建設前会長訴訟にみる労働者性の判断軸(東京地裁令和8年6月8日判決)
裁判例解説 労働者性
「名誉顧問」の解任は不当解雇か?
―大成建設前会長訴訟にみる労働者性の判断軸(東京地裁令和8年6月8日判決)
2026.06.16|社会保険労務士法人T&M Nagoya
2026年6月8日、大手ゼネコン・大成建設の前会長が「名誉顧問を解任されたのは不当解雇だ」として地位確認などを求めた訴訟で、東京地裁は請求を棄却する判決を言い渡したと報じられました。一見すると大企業の経営紛争ですが、ここには中小企業の現場でも日常的に問題となる「この人は法律上の『労働者』なのか」という労働者性の根本論点が凝縮されています。顧問・相談役・業務委託といった契約形態を設計するうえで経営者・人事担当者が押さえるべきポイントを、本判決を素材に整理します。
📌 この記事の要点
・東京地裁は2026年6月8日、大成建設前会長による名誉顧問の地位確認請求を棄却(報道)
・「具体的な業務や稼働時間について会社の指示を受けず、自ら判断して活動していた」ことから労働契約の成立を否定
・月160万円という報酬額や肩書きではなく、指揮命令・時間的拘束の有無という「働き方の実態」で労働者性が判断された
・顧問・相談役・業務委託など「労働者か否か」の線引きを誤ると、未払残業代・社会保険の遡及加入・解雇規制の適用など重大なリスクに直結する
1. 何が起きたのか ― 事案の概要
報道によれば、事案の概要は次のとおりです。
【当事者・判決】
・原告:大成建設の前会長・山内隆司氏(79歳)。同社の代表取締役社長・会長を歴任し、2021年まで経団連副会長も務めた人物
・被告:大成建設株式会社
・裁判所:東京地裁(畦地英稔裁判官)
・判決日:2026年6月8日
・結論:原告の請求を棄却(名誉顧問の解任は有効)

【時系列(報道ベース)】
・2023年4月 名誉顧問に就任し、同年7月から月額160万円の報酬を受領(共同通信の判決報道による。なお提訴時の日本経済新聞報道では訴状に基づき「2023年7月に就任」とされており、就任時期の細部には報道間で差異があります)
・その後、会社の業績低迷を理由に社長の辞任を繰り返し要求。2024年6月の株主総会でも経営陣を批判
・2024年7月 会社が名誉顧問職を解く
・2025年4月 山内氏が「解任は経営陣の責任を問うたことへの報復であり不当だ」として東京地裁に提訴
これに対し東京地裁は、「名誉顧問の就任は労働契約にあたらない。したがって不当解雇の問題は生じない」という判断枠組みで、請求を退けました。
2. 判決の核心 ― なぜ「労働契約ではない」と判断されたのか
報道によれば、判決が労働契約の成立を否定した決め手は、山内氏が「具体的な業務や稼働時間について会社から指示を受けず、自ら判断して活動していた」という点にあります。

つまり裁判所は、@業務内容について指揮命令を受けていたか、A稼働時間が管理・拘束されていたかに着目し、いずれも否定しました。月160万円という高額の報酬を受け取っていても、働き方の実態が「指揮命令下での労務提供」といえない以上、それは労働契約に基づく賃金ではなく、委任・準委任型の契約に基づく報酬と評価される――というロジックです。
「労働者性」判断のおさらい ― 使用従属性
労働基準法・労働契約法上の「労働者」かどうかは、契約書の名称ではなく実態で判断されます。中心となるのは、いわゆる「使用従属性」の有無です。判断要素の枠組みは、昭和60年の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」が示したものが現在も実務の基準とされており、概要は次のとおりです。
判断要素 主なチェックポイント
指揮監督下の労働か 仕事の依頼を断る自由があるか/業務の進め方について指揮命令を受けているか/勤務場所・勤務時間を拘束されているか/本人以外による代替(再委託)が可能か
報酬の労務対償性 報酬が「労働の対価」として時間に応じて支払われているか(時間給・欠勤控除の有無など)
補強要素 機械・器具の負担関係や報酬額にみる事業者性/他社業務への従事が制約される専属性/源泉徴収・社会保険料控除など公租公課の取扱い 等
本件で報道された事実関係に照らすと、業務内容も稼働時間も自らの裁量で決めていたという点が、労働者性を否定する方向に強く働いたとみられます。名誉顧問という象徴的・名誉的な肩書きの実態が、まさに「会社の指揮命令を受けずに自由に振る舞う」ものであったことが、結果として本人の請求を退ける根拠になった、と読み解くことができます(この段落は当法人の見解です)。
3. 中小企業にとって他人事ではない理由
「大企業の会長と名誉顧問」というテーマは中小企業の労務とは縁遠く見えますが、労働者性の論点は、企業規模を問わず日常的に発生します。たとえば次のようなケースです。

・退任した元役員を「顧問」「相談役」として残すケース
オーナー家の高齢者を「名誉会長」等として処遇するケース
・退職した熟練社員に業務委託(顧問契約)として技術指導を依頼するケース
フリーランス・個人事業主として外部人材を活用するケース

これらはいずれも「労働者なのか、それとも委任・請負(事業者)なのか」という線引きが問題になります。そして、その線引きを誤ると、企業には次のような重大な影響が及びます。
線引きを誤った場合の主なリスク
・労働者と認定された場合の残業代・割増賃金の未払い(労働基準法37条)
社会保険・労働保険の適用漏れと遡及加入の負担
・解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用による「契約解除=不当解雇」リスク
・労災保険の適用関係の混乱(業務上災害発生時に紛争化しやすい)
4. 実務への示唆 ― 「肩書き」ではなく「実態」を設計する
@ 顧問・相談役・名誉職は「契約の性質」を明確にする
「顧問」「相談役」「名誉顧問」といった肩書きには法律上の定義がありません。労働契約なのか、委任契約なのかを契約書で明示し、かつ運用の実態をそれに一致させることが重要です。本件のように、実態が「自由裁量」であれば、委任型(労働契約ではない)と整理しやすくなります。
A 委任・業務委託として整理するなら、指揮命令・時間拘束を持ち込まない
委任・業務委託として整理したいのであれば、始業・終業時刻や勤務場所を拘束しない、個別業務の諾否の自由を確保する、業務遂行の方法を細かく指示しない――といった運用を徹底する必要があります。逆に、出勤を義務づけ、業務を細かく指示し、時間管理をしていれば、契約書に「業務委託」と書いてあっても労働者と認定されかねません(実態優先の原則)。
B “逆方向のリスク”にも注意 ― 偽装委任・偽装請負
本件は労働者性が否定された事案ですが、逆に、実態は労働者なのに「顧問契約・業務委託」の形式で社会保険や残業代の負担を免れようとするケースは、行政・司法から厳しく見られています。たとえばホテル支配人の業務委託契約をめぐるスーパーホテル事件では、東京地裁が2025年7月に労働者性を否定したと報じられていますが、原告側は控訴しており確定していません。業務委託をめぐる司法判断は事案ごとの事実関係に大きく左右され、結論の予測は容易ではありません。「契約書の形式」だけを根拠に安心するのは極めて危険です。
C 高齢人材・退任役員の処遇設計の相談は今後増える
70歳までの就業確保措置(高年齢者雇用安定法10条の2・努力義務)の広がりや、オーナー経営者の世代交代の局面で、「役員でも従業員でもない高齢人材をどう処遇するか」という課題は、今後さらに増えると考えられます。契約形態の選択は、労務管理・社会保険・税務(顧問報酬の取扱い)に横断的に影響するため、設計段階からの専門家の関与が有効です。
✅ 自社の「顧問・相談役・業務委託」チェックポイント
☐ 契約書で「労働契約か、委任・請負か」の性質が明示されているか
☐ 出勤日・勤務時間を会社が指定・管理していないか(委任・委託の場合)
☐ 個別の業務依頼を断る自由が実際に保障されているか
☐ 報酬の決め方が「時間の対価」になっていないか(委任・委託の場合)
☐ 契約書の建前と現場の運用実態が一致しているか、定期的に点検しているか
5. 本記事の事実関係の確認状況
判決日(2026年6月8日)・裁判所(東京地裁)・請求棄却という結論・「労働契約にあたらない」という判断の骨格は、読売新聞・共同通信など複数の報道で一致して確認しています。報酬月額160万円や就任・解任の時系列は判決報道に基づくものですが、就任時期について提訴時報道との間に差異があるなど、細部には留保があります。

また、判決原文は本記事執筆時点で公表を確認できていません。労働者性を否定した詳細な理由づけ(諾否の自由・専属性・事業者性などの個別要素の評価)は、判決全文または労働判例誌への登載を待つ必要があります。控訴により判断が変わる可能性もあり、確定した判断ではない点にご留意ください。
6. まとめ
大成建設・名誉顧問解任訴訟は、「肩書きや報酬額ではなく、働き方の実態(指揮命令・時間的拘束の有無)で労働者性が決まる」という労働法の基本原則を、改めて示した事例といえます。

この原則は、月160万円の名誉顧問にも、パート・アルバイトにも、ひとしく適用されます。重要なのは、企業が意図する契約形態(労働契約にしたいのか、委任にしたいのか)と、現場の運用実態とを一致させることです。「契約書にこう書いたから大丈夫」ではなく、「実態がそうなっているか」を定期的に点検する――それが、本件から導かれる普遍的な教訓だと当法人は考えます。
顧問・相談役・業務委託の契約設計、労働者性の点検は
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根拠法令・参考資料
・労働基準法9条(労働者の定義)、37条(割増賃金)
・労働契約法2条1項(労働者の定義)、16条(解雇権濫用法理)
・高年齢者雇用安定法10条の2(70歳までの就業確保措置・努力義務)
・労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)
・読売新聞オンライン「大成建設前会長の名誉顧問の地位確認請求を棄却『労働契約にあたらず』…東京地裁」(2026年6月8日・Yahoo!ニュース配信)
・共同通信「大成建設前会長の請求棄却 名誉顧問解雇は『有効』」(2026年6月8日・Yahoo!ニュース等配信)
・デイリースポーツonline「大成建設前会長の請求棄却」(2026年6月8日・共同通信配信)
・日本経済新聞「大成建設を山内隆司前会長が提訴 解雇無効を主張」(2025年5月28日)
※判決原文は本記事執筆時点で未確認のため、本記事は上記報道に基づいて構成しています。
【免責事項】本記事は2026年6月12日時点の報道・公開情報に基づき作成しています。本判決は控訴により変更される可能性があり、確定した判断ではありません。個別の契約形態の設計・労働者性の判断は事案ごとの事実関係により結論が異なりますので、必ず最新の情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、当法人は責任を負いかねます。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
SRP認証番号:第160175号

「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションに、IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス・労働紛争解決・就業規則整備など、企業の労務管理体制の構築を幅広くサポートしています。顧問・業務委託など契約形態の設計についても、お気軽にお問い合わせください。

社会保険労務士法人T&M Nagoya(名古屋市中区丸の内2-14-4/TEL 052-211-7430)