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📌 この記事の要点 @ 社内の歓送迎会や飲み会への参加・その後の行動でも、「事業主の支配下」にあったと評価されれば労災(業務災害)と認められる。 |
「会社の飲み会は自由参加だから、その帰りに事故があっても会社は関係ない」——多くの経営者がそう考えがちです。しかし、最高裁はこの前提を覆す判断を示しています。本稿では、歓送迎会に参加した従業員が、会場からの移動中に交通事故で死亡した事案について、労災(業務災害)の成否が争われた裁判例を、確認できる判決内容に基づいて整理し、当法人の実務的な視点を加えてご紹介します。
被災されたのは、金型へのクロムメッキ加工等を営む会社(従業員7名)で営業企画等の業務を担当していた男性従業員(以下「被災者」)です。被災者は、親会社から100%子会社である同社へ出向して勤務していました。事案の経過は、判決で確定された事実によれば概ね次のとおりです。
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■ 事実経過(判決認定) ・12月のある日、部長が子会社の研修生の歓送迎会の開催を提案。被災者以外の従業員は参加すると回答したが、被災者は業務多忙を理由に当初辞退した。 |
被災者の妻が労災保険(遺族補償給付・葬祭料)を請求したところ、行橋労働基準監督署長は「業務上の事由による死亡に当たらない」として不支給を決定しました。妻はこれを不服として、処分の取消しを求めて提訴しました。
一審の東京地方裁判所(平成26年4月14日判決)および控訴審の東京高等裁判所(平成26年9月10日判決)は、いずれも妻の請求を退けました。その理由は、歓送迎会への参加に業務遂行性を認められないという点にあります。歓送迎会は従業員有志による私的な会合であり、参加を命じられていたとはいえず、不参加による不利益もうかがわれない以上、参加するかどうかは被災者の自由であったと評価し、終了後の運転についても私的な会合の後に任意に行われたものと判断しました。
これに対し最高裁は、原判決を破棄して自ら判断を下し(破棄自判)、業務遂行性を認めて妻の請求を認容しました。最高裁はまず、業務災害として労災保険給付の対象となるためには、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において災害が発生したことが必要であるという、十和田労働基準監督署長事件(最高裁第三小法廷 昭和59年5月29日判決)以来の枠組みを前提としました。
そのうえで、本件の歓送迎会は、研修の目的を達成するために会社が企画した行事の一環であり、研修生と従業員との親睦を通じて会社・親会社と子会社との関係強化に寄与するもので、会社の事業活動に密接に関連して行われたものと評価しました。これを踏まえ、被災者は事故の際になお会社の支配下にあったと認定しています。判決が重視した具体的事情は、次のとおり整理できます。
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■ 「会社の支配下」と認定した主な根拠 ・被災者は、事業活動に密接に関連する歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれていた。 |
最高裁は、事故による死亡と運転行為との間に相当因果関係があることも明らかであるとして、本件の死亡は業務上の事由による災害に当たると結論づけました。
【表】下級審と最高裁で判断が分かれたポイント
| 着眼点 | 一審・控訴審(請求棄却) | 最高裁(請求認容) |
|---|---|---|
| 歓送迎会の性質 | 従業員有志による私的な会合 | 会社が企画した行事の一環で、事業活動に密接に関連 |
| 参加の任意性 | 参加は命じられておらず、不参加の不利益もなく、自由だった | 参加しないわけにはいかない状況に置かれていた |
| 終了後の運転 | 私的会合の後に任意に行った運転 | 業務再開のため工場へ戻る過程で、上司に代わり送迎した行為 |
| 結論 | 業務遂行性なし(労災不認定) | 業務遂行性あり(労災認定) |
※「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配下にあったといえるかどうかという観点であり、これと「業務起因性」(業務と災害との因果関係)の双方が認められて初めて業務災害として労災給付の対象となります。
この判決から、当法人として経営者の皆様にお伝えしたい実務上の要点は次のとおりです。重要なのは、本判決が「飲み会はすべて労災になる」と述べたものではないという点です。あくまで、事故に至るまでの一連の行動を総合的に評価し、本件では会社の支配下にあったと認定した事例判断です。逆にいえば、運用次第で結論は変わりうるということを意味します。
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✓ 社内行事の労務管理チェックポイント @ 「自由参加」は形式だけで決まらない:就業規則や案内に「任意」と書いてあっても、上司が繰り返し参加を促す、不参加が事実上許されない雰囲気がある等の運用があれば、「参加せざるを得ない状況」と評価されうる。 |
社内行事は従業員の親睦や定着に資する一方で、運用を誤れば労災や安全配慮義務をめぐる紛争の火種にもなります。「参加は任意」という建前を実態として担保する運用、飲酒を伴う場合の移動手段の整備、行事と業務の切り分けなど、就業規則や社内ルールの整備とあわせて点検しておくことが、経営者にとってのリスク管理になります。当法人では、就業規則の整備や労務手続の点検を通じて、こうしたリスクに備える伴走支援を行っています。
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【根拠法令・参照判例】 ・労働者災害補償保険法 第1条、第12条の8第2項 |
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【出典】 ・本稿執筆の契機となった報道:弁護士JPニュース「上司にしつこく誘われ“飲み会”参加、帰りに事故死で労災下りず…地裁・高裁『敗訴』の妻が最高裁で『逆転勝訴』したワケ」(弁護士・林孝匡、2025年6月8日配信) |
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【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を行うものではありません。労災認定は個々の事案の具体的事情に基づく総合的な判断によるため、結論が異なる場合があります。実際の対応にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。記事内容は執筆時点の情報に基づきます。 |
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執筆者:三重 英則 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 |