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作成日:2026/06/10
【裁判例】「飲み会だから労災にならない」は誤り ─歓送迎会後の事故死を労災と認めた最高裁判決
裁判例解説|労災・業務遂行性

「飲み会だから労災にならない」は誤り
──歓送迎会後の事故死を労災と認めた最高裁判決

国・行橋労働基準監督署長(テイクロ九州)事件/最高裁第二小法廷 平成28年7月8日判決

📌 この記事の要点

@ 社内の歓送迎会や飲み会への参加・その後の行動でも、「事業主の支配下」にあったと評価されれば労災(業務災害)と認められる。
A 最高裁は、地裁・高裁が「私的な会合」として退けた事案を破棄し、妻の請求を認容した(逆転)。
B 判断を分けたのは、参加の任意性・会社の事業との関連性・会社車両の使用・上司の意向といった具体的事情の総合評価である。
C 経営者にとっては、「自由参加」という建前があっても、運用次第で会社の法的責任が生じうるという実務上の警鐘となる判決である。

「会社の飲み会は自由参加だから、その帰りに事故があっても会社は関係ない」——多くの経営者がそう考えがちです。しかし、最高裁はこの前提を覆す判断を示しています。本稿では、歓送迎会に参加した従業員が、会場からの移動中に交通事故で死亡した事案について、労災(業務災害)の成否が争われた裁判例を、確認できる判決内容に基づいて整理し、当法人の実務的な視点を加えてご紹介します。

1. 事案の概要

被災されたのは、金型へのクロムメッキ加工等を営む会社(従業員7名)で営業企画等の業務を担当していた男性従業員(以下「被災者」)です。被災者は、親会社から100%子会社である同社へ出向して勤務していました。事案の経過は、判決で確定された事実によれば概ね次のとおりです。

■ 事実経過(判決認定)

・12月のある日、部長が子会社の研修生の歓送迎会の開催を提案。被災者以外の従業員は参加すると回答したが、被災者は業務多忙を理由に当初辞退した。
・歓送迎会当日、部長が改めて参加を打診。被災者は、翌日が提出期限の営業戦略資料の作成を理由に断った。
・これに対し部長は、参加を重ねて促し、資料が完成していなければ歓送迎会終了後に一緒に作成する旨を伝えた。
・午後6時30分頃に宴会開始。被災者は工場で資料を作成していたが、作業着のまま会社の車で会場へ向かい、午後8時頃に到着した。
・被災者は席上、総務課長に「終わったら工場に戻って仕事をする」旨を伝え、研修生から勧められた酒は断った。
・午後9時過ぎに歓送迎会が終了。被災者は、酩酊した研修生をアパートへ送り、その後工場へ戻る予定で会社の車を運転した。
・アパートへ向かう途中、対向車線を走行中の大型貨物自動車と衝突。頭部外傷により午後9時50分頃に死亡した。
・飲食代金は会社の福利厚生費から支払われた。会社およびアパートはいずれも飲食店の南方向に所在し、会社とアパートの距離は約2kmであった。

被災者の妻が労災保険(遺族補償給付・葬祭料)を請求したところ、行橋労働基準監督署長は「業務上の事由による死亡に当たらない」として不支給を決定しました。妻はこれを不服として、処分の取消しを求めて提訴しました。

2. 一審・控訴審の判断──「私的な会合」として請求棄却

一審の東京地方裁判所(平成26年4月14日判決)および控訴審の東京高等裁判所(平成26年9月10日判決)は、いずれも妻の請求を退けました。その理由は、歓送迎会への参加に業務遂行性を認められないという点にあります。歓送迎会は従業員有志による私的な会合であり、参加を命じられていたとはいえず、不参加による不利益もうかがわれない以上、参加するかどうかは被災者の自由であったと評価し、終了後の運転についても私的な会合の後に任意に行われたものと判断しました。

3. 最高裁の判断──原判決を破棄し、労災と認定

これに対し最高裁は、原判決を破棄して自ら判断を下し(破棄自判)、業務遂行性を認めて妻の請求を認容しました。最高裁はまず、業務災害として労災保険給付の対象となるためには、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において災害が発生したことが必要であるという、十和田労働基準監督署長事件(最高裁第三小法廷 昭和59年5月29日判決)以来の枠組みを前提としました。

そのうえで、本件の歓送迎会は、研修の目的を達成するために会社が企画した行事の一環であり、研修生と従業員との親睦を通じて会社・親会社と子会社との関係強化に寄与するもので、会社の事業活動に密接に関連して行われたものと評価しました。これを踏まえ、被災者は事故の際になお会社の支配下にあったと認定しています。判決が重視した具体的事情は、次のとおり整理できます。

■ 「会社の支配下」と認定した主な根拠

・被災者は、事業活動に密接に関連する歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれていた。
・工場での自己の業務を一時中断して途中参加し、終了後に業務を再開するために工場へ戻ろうとしていた。
・歓送迎会は事業場外で開催され、飲食代は会社の福利厚生費から支払われ、送迎は会社の車両で行われた。
・研修生をアパートへ送る行為は、本来は部長が予定していたものであり、上司に代わって行われたものといえる。
・事業場外開催・アルコール提供・送迎についての明示的指示がなかったことを考慮しても、なお会社の支配下にあったと評価できる。

最高裁は、事故による死亡と運転行為との間に相当因果関係があることも明らかであるとして、本件の死亡は業務上の事由による災害に当たると結論づけました。

【表】下級審と最高裁で判断が分かれたポイント

着眼点 一審・控訴審(請求棄却) 最高裁(請求認容)
歓送迎会の性質 従業員有志による私的な会合 会社が企画した行事の一環で、事業活動に密接に関連
参加の任意性 参加は命じられておらず、不参加の不利益もなく、自由だった 参加しないわけにはいかない状況に置かれていた
終了後の運転 私的会合の後に任意に行った運転 業務再開のため工場へ戻る過程で、上司に代わり送迎した行為
結論 業務遂行性なし(労災不認定) 業務遂行性あり(労災認定)

※「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配下にあったといえるかどうかという観点であり、これと「業務起因性」(業務と災害との因果関係)の双方が認められて初めて業務災害として労災給付の対象となります。

4. 経営者が押さえるべき実務上のポイント

この判決から、当法人として経営者の皆様にお伝えしたい実務上の要点は次のとおりです。重要なのは、本判決が「飲み会はすべて労災になる」と述べたものではないという点です。あくまで、事故に至るまでの一連の行動を総合的に評価し、本件では会社の支配下にあったと認定した事例判断です。逆にいえば、運用次第で結論は変わりうるということを意味します。

✓ 社内行事の労務管理チェックポイント

「自由参加」は形式だけで決まらない:就業規則や案内に「任意」と書いてあっても、上司が繰り返し参加を促す、不参加が事実上許されない雰囲気がある等の運用があれば、「参加せざるを得ない状況」と評価されうる。
会社の費用負担・車両の使用は関連性を高める:費用を福利厚生費で負担し、送迎に社用車を使うほど、会社の事業活動との結びつきが強いと判断されやすい。
業務との連続性に注意:行事の前後で業務が継続している場合(本件では資料作成のための帰社)、行事も含めて一連の業務とみなされる可能性がある。
飲酒後の運転・送迎の指示は重大リスク:上司が送迎を予定していた、あるいは事実上代わりに行わせた状況は、会社の関与を裏づける事情になりうる。安全配慮義務の観点からも、飲酒を伴う行事後の運転は厳に避ける体制が必要。

社内行事は従業員の親睦や定着に資する一方で、運用を誤れば労災や安全配慮義務をめぐる紛争の火種にもなります。「参加は任意」という建前を実態として担保する運用、飲酒を伴う場合の移動手段の整備、行事と業務の切り分けなど、就業規則や社内ルールの整備とあわせて点検しておくことが、経営者にとってのリスク管理になります。当法人では、就業規則の整備や労務手続の点検を通じて、こうしたリスクに備える伴走支援を行っています。

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【根拠法令・参照判例】

・労働者災害補償保険法 第1条、第12条の8第2項
・労働基準法 第79条(遺族補償)、第80条(葬祭料)
・国・行橋労働基準監督署長(テイクロ九州)事件/最高裁第二小法廷 平成28年7月8日判決(平成26年(行ヒ)第494号、破棄自判)。一審:東京地裁 平成26年4月14日判決/控訴審:東京高裁 平成26年9月10日判決
・十和田労働基準監督署長事件/最高裁第三小法廷 昭和59年5月29日判決(業務遂行性の判断枠組み)

【出典】

・本稿執筆の契機となった報道:弁護士JPニュース「上司にしつこく誘われ“飲み会”参加、帰りに事故死で労災下りず…地裁・高裁『敗訴』の妻が最高裁で『逆転勝訴』したワケ」(弁護士・林孝匡、2025年6月8日配信)
・判決内容の確認:労働基準判例検索(全国社会保険労務士会連合会)/最高裁判所判例情報等の一次情報に基づく
※本稿は上記報道を出発点としつつ、判決で確定された事実および確認可能な一次情報に基づいて当法人が独自に整理・分析したものです。

【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を行うものではありません。労災認定は個々の事案の具体的事情に基づく総合的な判断によるため、結論が異なる場合があります。実際の対応にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

執筆者:三重 英則

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
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