無期雇用でも「同一労働同一賃金」
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📌 この記事の要点
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報道(朝日新聞)によると、訴えていたのは青森県内の50代女性です。テレビ岩手のグループ会社である東北映像(盛岡市)が運営する、青森県十和田市内の場外馬券売り場で勤務していました。2002年に採用され、契約期間は「無期」。週5日勤務で、所定労働時間は午前9時半〜午後5時半(残業あり)と、いずれも正社員と同じでしたが、身分は「嘱託」(のちに契約社員へ変更)とされていたと報じられています。2025年7月末に退職しました。
この女性は、別の場外馬券売り場で同種の仕事をしている正社員と比べ、基本給やボーナス、住宅手当が少なく、家族手当が支給されていなかったとされます。そこで、その差額にあたる約3,600万円の損害賠償を求めて提訴しました。
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ポイントは「無期だが正社員ではない」という区分 この事案の特徴は、女性が有期雇用やパート(=非正規)ではなく、期間の定めのない(無期)フルタイムの労働者でありながら、会社の区分上は「嘱託・契約社員」とされ、正社員との待遇差が生じていた点にあります。労働時間も契約期間も正社員と変わらないのに、区分の違いだけで処遇が異なっていた、という構図です。 |
2018年に成立した働き方改革関連法では「同一労働同一賃金」が掲げられ、パート・有期法などが改正されました。もっとも、この法律が禁じているのは、あくまで有期雇用やパートといった「非正規雇用」と「通常の労働者」との間の不合理な待遇差です(パート・有期法8条=均衡待遇、9条=均等待遇)。同法は2020年4月に施行され、中小企業には2021年4月から全面適用されました。
一方で、「通常の労働者」は幹部候補のいわゆる正社員に限りません。会社が正社員と区別した、勤務地や職務を限定したフルタイムの働き手も含まれ得ます。こうした雇用期限のない労働者同士の待遇差を直接禁じた法律は存在しないのです。厚生労働省の審議会でも法整備を求める声がありましたが、見送られた経緯があると報じられています。
裁判で会社側は「無期雇用間の待遇差に関する法律はない」と反論しました。これは、条文上は確かに筋の通った主張です。争点は、「法律に明文がない待遇差を、裁判所はどこまで違法と評価できるか」という点に絞られていきました。
▼ 「同一労働同一賃金」がカバーする範囲とこぼれ落ちる範囲
| 区分 | パート・有期法8条・9条の対象か |
| パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者(=非正規雇用) | ○ 対象(不合理な待遇差は禁止) |
| いわゆる正社員(無期フルタイム) | ― 比較の基準となる「通常の労働者」側 |
| 正社員以外の無期フルタイム労働者 (限定正社員・無期の嘱託/契約社員・無期転換者など) |
× 直接の対象外(法の空白) 本件はここに該当 |
第一審の青森地裁八戸支部は2025年2月、パート・有期法のような明文規定がない無期雇用の労働者間でも「不合理な差別は許されない」と指摘しました。そのうえで、家族手当・住宅手当の差額と、正社員のボーナスの7割を下回る部分とを合わせ、会社側に約586万円の支払いを命じたと報じられています。基本給の差については、不合理とまではいえないと判断しました。
控訴審の仙台高裁は2025年9月、改正パート・有期法が2020年4月に施行された後、社会が守るべきルールとして「同一労働同一賃金」の公序が確立したと判断したと報じられています。無期雇用間でも不合理な待遇差は許されない、という結論自体は維持しましたが、違法とされた期間が地裁より短くなった結果、賠償額は約193万円に減りました。女性側が上告したものの、最高裁は2026年4月に上告不受理を決定し、高裁判決が確定したとされています。
▼ 第一審と控訴審の比較(報道ベース)
| 項目 | 青森地裁八戸支部(2025年2月) | 仙台高裁(2025年9月/確定) |
| 結論の枠組み | 明文規定がなくても無期雇用間の不合理な差別は許されない | 改正パート・有期法施行後に「同一労働同一賃金」の公序が確立したと整理 |
| 不合理と認めた待遇 | 家族手当・住宅手当の差額/賞与が正社員の7割を下回る部分(基本給差は不合理でないと判断) | 結論は維持(違法とされた期間を短縮) |
| 認容額 | 約586万円 | 約193万円 |
※ 請求額は約3,600万円。上記の認容額・判断内容は朝日新聞の報道に基づくものであり、判決文の原文に直接当たって確認したものではありません。引用・社内検討の際は判決原本・確定情報の確認をおすすめします。
この判決は「無期雇用同士でも待遇差は違法になり得る」というインパクトの大きさから、企業実務への影響が注目されています。ただし、当法人としては、経営者の皆さまに次の2点を冷静にお伝えしたいと考えます。
(1)「最高裁で確定」=「最高裁判例ができた」ではありません
今回確定したのは、最高裁が上告を「不受理」とした結果です。上告不受理は、最高裁が事件の中身を審理して法令解釈を示したものではなく、「高裁の判断をそのまま確定させる」という手続上の決定にすぎません。したがって、「公序が確立した」という理由づけが、全国の裁判所を一律に拘束する最高裁判例として確立したわけではない、という整理が正確です。同種事案で別の裁判所が異なる結論を出す可能性は、なお残されています。
(2)それでも、企業がとるべき対応の方向性は変わりません
仮にこの判断が最高裁判例ではないとしても、「職務・勤務地・労働時間が正社員と実質的に同じ無期フルタイム労働者に、区分の名称だけを理由に手当や賞与の差を設ける」という運用は、紛争に発展しやすい典型的なリスクであることは間違いありません。とりわけ家族手当・住宅手当といった生活関連手当や、賞与の支給水準は、過去の最高裁判例(ハマキョウレックス事件・日本郵便事件など)でも不合理性が問われやすい項目です。「法律に明文がないから大丈夫」という発想は、もはや安全とはいえない局面に入っていると考えます。
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✓ 経営者・人事担当者の点検チェックポイント
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当法人では、雇用区分ごとの待遇差が「実態の違いで説明できるか」を起点に、賃金・手当・賞与の設計を点検する給与監査や、雇用区分の定義を整理する就業規則の見直しを支援しています。「正社員以外の無期フルタイム」を抱える企業ほど、いまのうちに自社の状況を客観的に確認しておく価値があります。
関連サービス:給与監査顧問/就業規則作成・改訂/労務手続代行・労務手続監査
無期フルタイム労働者の待遇差点検・就業規則の見直しを、専門家がサポートします。 |
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【主な根拠法令・参考判例】 ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)8条(均衡待遇)・9条(均等待遇)/2020年4月1日施行、中小企業は2021年4月1日全面適用 ・民法90条(公序良俗) ・参考:ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件(最判平30.6.1)、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件(最判令2.10.13)、日本郵便事件(最判令2.10.15)、名古屋自動車学校事件(最判令5.7.20) 【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律判断・労務対応を保証するものではありません。本件事案の事実関係・判決内容は報道に基づく記載を含み、判決原本により確認したものではありません。実際の対応にあたっては、必ず社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。 |
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この記事の執筆者 三重 英則 社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員 |