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作成日:2026/06/04
【裁判例】契約社員への賞与不支給が「不合理」とされた事例−奄美市開発公社事件・鹿児島地裁名瀬支部令和8年3月31日判決
同一労働同一賃金賞与有期契約
契約社員への賞与不支給が「不合理」とされた事例|パート有期法8条と賞与の支給目的の検証
📌 この記事の要点
有期契約労働者に賞与を一切支給しないことが不合理(旧労契法20条=現パート有期法8条)と判断された事例です。
鹿児島地裁名瀬支部令和8年3月31日判決。賞与・諸手当をあわせて約590万円の支払いが命じられました。
大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日)の枠組みを前提としつつ、人材確保・定着目的を裏付ける人事運用の実態が乏しいとして、その目的が否定されました。
「正社員のみに賞与」という取扱いの根拠が、自社の人事運用の実態と整合しているかの点検が不可欠です。

1.同一労働同一賃金と賞与

正社員(無期契約労働者)と非正規(有期契約労働者)との間の待遇差が「不合理」とされるかは、賃金項目ごとに、その性質・支給目的を踏まえ、職務内容・配置変更の範囲・その他の事情を考慮して判断されます。賞与については、大阪医科薬科大学事件(最高裁第三小法廷令和2年10月13日判決)が一つの基準を示しており、実務上、正社員のみに賞与を支給する取扱いの根拠を説明する場面でしばしば参照されます。

旧労契法20条と現行法の関係

本件で問題となった期間は無期転換前であり、旧労働契約法20条が適用されています。同条は現在、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート有期法)8条に引き継がれています。判断の枠組みは基本的に共通しており、現行制度下でも本判決の考え方は参考になります。

2.事案の概要

本件(奄美市開発公社事件・鹿児島地裁名瀬支部令和8年3月31日判決)の被告は、奄美市が全額出資する一般財団法人(奄美市開発公社)で、市の指定管理者として公共施設の管理運営を行う団体です。雇用形態は、派遣職員・固有職員(無期契約労働者)・契約職員(1年単位の有期契約労働者)・臨時職員の4区分が設けられていました。原告は契約職員として雇用され、その後労働契約法18条により無期転換し、退職した者で、無期転換前の有期契約期間について、固有職員に支給される賞与(期末手当・勤勉手当)が契約職員には一切支給されていなかったことが不合理であるとして、差額相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求しました。

職員構成と人事運用の実態

職員構成は、固有職員が約5名、契約職員が約30名、臨時職員が約15名で、契約職員が職員全体の約6割を占めていました。被告は長期間にわたり固有職員の新規採用を行っていませんでした。

3.裁判所の判断

(1)賞与の趣旨・目的

裁判所は、最高裁判例の枠組みを前提に、固有職員に対する賞与が基礎額に支給割合を乗じて支給され業績連動的でないことから、労務の対価の後払い、一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むと認定しました。被告は、固有職員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図る目的があったとも主張しましたが、裁判所は、賞与制度の検討を加えていなかったこと、長期間固有職員の新規採用を行っていなかったこと、既存職員の高齢化に伴う補充として契約職員から登用していたにすぎないこと、固有職員の配置転換も限定的で人材育成・活用を目的とした人事異動とはいえないことを挙げ、この目的を否定しました。

(2)契約職員にも賞与の趣旨が当てはまるか

裁判所は、ほとんどの契約職員が有期契約の更新を繰り返して勤務しており相応に継続的な勤務が見込まれていたこと、固有職員と契約職員の職務内容が現場業務において共通する部分が少なくないこと、契約職員が職員全体の約6割を占め業務に占める割合が大きいことを挙げ、賞与の趣旨は契約職員にも当てはまると判断しました。

(3)結論

固有職員には施設全体の統括責任者として対外的代表業務を担う点や配置転換の範囲が広い点で相違があると認定されたものの、裁判所は、人材確保・定着目的での賞与支給とは認められないこと、賞与の算定基礎となる基本給が固有職員より契約職員の方が低く設定されていることなどから、これらの差異があっても、契約職員に一律に賞与を支給しないことが不合理であるという評価は妨げられないとしました。

なお本判決では、賞与のほか、通勤手当・扶養手当・住居手当の各相違についても不合理と判断されています。認容された約590万円は、これらを含む合計額です。生活保障・福利厚生の趣旨を持つ手当については、契約更新が繰り返され長期継続雇用の実態がある場合、その趣旨が有期契約労働者にも及ぶと評価されやすい点に留意が必要です。

無期転換しても直ちに同一待遇になるわけではない点に注意

旧労契法20条(現パート有期法8条)は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の待遇差を対象とする規定です。本件で不合理と判断されたのも、原告が無期転換する前の有期契約であった期間に関する差異でした。無期転換後は無期契約労働者どうしの比較となり、同条が直接適用される場面ではないため、無期転換したことによって直ちに正社員と同一の待遇になるわけではありません。無期転換者の労働条件は、別途、就業規則・労働契約の定めに従って検討する必要があります。

4.大阪医科薬科大学事件との対比

大阪医科薬科大学事件では、賞与の支給目的として、労務の対価の後払い等に加え、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図る目的が認定されました。この判示は汎用性のあるものですが、あくまで具体的な事実関係を前提とした判断です。本件では、この人材確保・定着目的が否定されました。

【対比】事実関係の違いが結論を分けた
観点 本件(不合理と判断) 大阪医科薬科大学事件(不支給を不合理とせず)
非正規の業務 事業の中核を担う基幹的存在 定型的・簡易で補助的
雇用の継続 更新を繰り返し継続的に勤務 雇用期間に上限あり
人材確保・定着目的 整合する人事運用の実態が乏しく否定 認定された

5.当法人の視点 ―― 「制度の言語化」と「実態との整合」

本判決が示すのは、大阪医科薬科大学事件を根拠に「正社員のみ賞与」を正当化しようとする場合、その判示が自社の事実関係に妥当するかを慎重に検討する必要がある、ということです。本件では、固有職員の新規採用がなく、配置転換も限定的で、登用制度も整備されていないなど、人材確保・定着目的に整合する人事運用の実態が乏しいと評価されました。賞与の支給目的を就業規則・賃金規程で言語化していても、人事運用の実態が伴っていなければ、その目的は認められにくくなります。

特に、有期契約労働者が事業の中核を担い、契約更新を繰り返して長期間勤務している場合は、賞与の趣旨が当てはまると評価されやすくなります。自社の人員構成・更新実態・職務内容・配置転換の範囲・登用制度の有無を点検し、待遇差の説明が実態と整合しているかを確認することが重要です。

賞与・待遇差のチェックポイント
賞与の支給目的を就業規則・賃金規程で明確にしているか
「人材確保・定着目的」を掲げる場合、採用・登用・配置転換の実態が伴っているか
有期契約労働者の業務が基幹的か補助的か、職務内容を客観的に整理しているか
契約更新の実態(継続勤務の見込み)を把握しているか
正社員と非正規の基本給・手当・賞与の差を、合理的に説明できる根拠を準備しているか
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根拠法令・参照判例
  • 旧労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
  • 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条(不合理な待遇の禁止/現行法)
  • 労働契約法18条(無期転換)
  • 参照判例:奄美市開発公社事件・鹿児島地裁名瀬支部令和8年3月31日判決、大阪医科薬科大学事件・最高裁第三小法廷令和2年10月13日判決
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。判例・法令の解釈や個別事案への適用は、事実関係により結論が変わり得ます。実際の対応にあたっては、弁護士・社会保険労務士等の専門家へご相談ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya/社員
特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員
当法人の価値観:誠実・Think more・伴走