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作成日:2026/06/01
【裁判例】事業場外みなし制の適用が認められた差戻し審判決と実務上の留意点−協同組合グローブ事件の差戻し審(福岡高裁令和7年8月28日)
労働時間事業場外みなし制残業代
外勤・直行直帰の労働時間管理|事業場外みなし制の適用が認められた差戻し審判決と実務上の留意点
📌 この記事の要点
事業場外みなし制(労基法38条の2第1項)は、事業場外で労働時間を算定し難いときに所定労働時間労働したものとみなす制度です。
近年の下級審はみなし制の適用を厳しく否定する傾向にありましたが、協同組合グローブ事件の差戻し審(福岡高裁令和7年8月28日)は適用を肯定しました。
業務日報は「自己申告」にすぎず、その正確性が客観的に担保されているかが判断の分かれ目とされました。
把握できる日に個別に残業代を支払っていた事実は、みなし制全体の適用を否定する根拠にはならないと判断されました。
決め手は就業規則の条文整備ではなく「業務実態の設計」です。

1.事業場外みなし制とは何か

労働基準法は、労働者が労働時間の全部または一部を事業場の外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときは、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度を設けています(労基法38条の2第1項)。外回りの営業や直行直帰の外勤など、使用者の具体的な指揮監督が及びにくい働き方を想定した制度です。

もっとも、海外旅行の添乗員について適用を否定した阪急トラベルサポート事件(最高裁第二小法廷・平成26年1月24日判決)以降、下級審裁判例は、業務日報の提出があり携帯電話を所持していれば労働時間は算定可能であるとして、みなし制の適用をほぼ否定する流れが続いていました。クラウド勤怠やスマートフォンの普及がこの傾向を強めていたといえます。

2.事案の概要 ―― 協同組合グローブ事件

被告は、外国人技能実習に係る監理団体です。元従業員は指導員として、九州各地の実習実施者を月2回以上訪問し、技能実習生の送迎・生活指導・通訳等の業務に従事していました。訪問の予約は従業員自身がスケジュール管理し、会社から随時の具体的な指示・報告は求められず、直行直帰も自由でした。勤怠管理はタイムカードではなく、月末に始業・終業時刻・休憩・訪問先を記載した業務日報を提出する方法によっていました。

退職後に未払残業代請求訴訟が提起され、第一審・差戻し前の控訴審はいずれもみなし制の適用を否定しました。しかし最高裁(令和6年4月16日判決)は、業務日報の正確性が客観的に担保されているかの具体的検討が尽くされていないとして、原判決を破棄し、福岡高裁に差し戻しました。本記事で取り上げるのは、その差戻し審(福岡高裁令和7年8月28日判決)です。

3.差戻し審判決のポイント

(1)業務日報は「自己申告」にすぎない

差戻し審は、本件の業務日報を、性質としては自己申告としての意味を持つものと位置づけました。そのうえで、訪問先が多数の実習実施者・医療機関・役所等にわたり、これらが訪問日時を詳細に記録・保管しているとは通常想定されないため、事後に訪問先へ確認して正確性を検証することは現実的に困難であるとし、業務日報の正確性が客観的に担保されているとはいえないと判断しました。

(2)一部の残業代を支払っていた事実の評価

会社は、具体的な指示があった日・同行した日・内勤の日については実労働時間を把握し、個別に残業代を支払っていました。従来の裁判例では、この「一部支払の事実」がみなし制否定の根拠の一つとされることがありました。しかし差戻し審は、一部の日について業務日報に基づき残業手当を支払っていた事実は、その限度で残業時間を算定していたにすぎず、業務日報全体の正確性が客観的に担保されていたと評価することはできないと明確に述べています。把握できる日だけ誠実に支払うという運用が、かえって適用否定の材料とされてきた従来の流れを修正した点で、実務上重要な判示です。

(3)結論

以上を踏まえ、差戻し審は、業務が多岐にわたること、従業員自身によるスケジュール管理、随時の具体的指示・報告の不存在から、使用者が事業場外での勤務状況を具体的に把握することは容易ではなかったと評価し、事業場外みなし制の適用を肯定しました。認容額は第一審の約29万円から約22万円に減額されています。

4.判断枠組み ―― 枠組み自体は変わっていない

注意したいのは、本判決が判断の「枠組み」を変えたわけではないという点です。考慮要素は、阪急トラベルサポート事件が示した「業務の性質・内容やその遂行の態様・状況等」「業務に関する指示および報告の方法・内容やその実施の態様・状況等」と同じです。本判決は、この枠組みのもとで業務実態を具体的に分析した結果、適用を肯定したものと理解するのが正確だと考えます。

【整理】事業場外みなし制の適用の分かれ目
  適用が認められやすい方向 適用が認められにくい方向
訪問先・日程の決定 従業員の裁量に委ねている 会社が指定・管理している
随時の指揮命令・報告 求めていない/応答義務を課していない チャット等で随時指示・即時応答を求める
事後確認の可否 訪問先等への確認が現実的に困難 客観的記録で正確性を検証できる
クラウド勤怠・位置情報 業務と私的時間の判別ができない 位置情報等で労働実態を把握できる
クラウド勤怠を導入していても結論は変わり得ます

クラウド型の勤怠管理システムを導入していても、位置情報等から業務時間と私的時間を判別できない実態があれば、なお「労働時間を算定し難いとき」に当たり得ます。逆に、システムによって労働実態を把握できる場合は、みなし制の適用は否定される方向に働きます。ツールの有無だけで形式的に判断するのではなく、実態に即した検討が必要です。

5.当法人の視点 ―― 実務で押さえるべきこと

本判決は使用者側にとって追い風と受け止められがちですが、形式的にみなし制を導入すれば適用される、という誤読は禁物です。本件でも会社は、業務日報の訂正、訪問指導記録の作成、把握できる日の個別払いなど、労働時間を把握する合理的な努力を尽くしていました。みなし制を適用する場合でも、使用者には「通常合理的に期待できる方法」で労働時間を把握する努力が引き続き求められます。残業代の支払を免れる目的で形式だけ整える運用は、適用を認められません。

また本判決により、把握できる日に個別に残業代を支払うことがみなし制全体の適用否定の根拠にならないことが明確になりました。誠実な運用をためらう必要はありません。導入を検討する際は、労働条件通知書・就業規則にみなし制の適用対象業務とみなし労働時間を明記しているか、労使協定(みなし労働時間が所定労働時間を超える場合)の締結状況はどうかを、併せて点検することをお勧めします。

自社の業務実態チェックポイント
訪問先・日程の設定を従業員の裁量に委ねているか
スマートフォンやチャットツールによる随時の指揮命令・応答義務を課していないか
事後の報告内容の正確性を、顧客等への確認により担保することが実際上困難か
労働条件通知書・就業規則にみなし制の対象業務・みなし労働時間を明記しているか
(みなし時間が所定を超える場合)労使協定を締結し届け出ているか
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根拠法令・参照判例
  • 労働基準法38条の2第1項(事業場外労働のみなし労働時間制)
  • 労働基準法施行規則24条の2(労使協定等)
  • 参照判例:協同組合グローブ事件・福岡高裁令和7年8月28日判決(差戻し審)、最高裁第三小法廷令和6年4月16日判決、阪急トラベルサポート事件・最高裁第二小法廷平成26年1月24日判決
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。判例・法令の解釈や個別事案への適用は、事実関係により結論が変わり得ます。実際の対応にあたっては、弁護士・社会保険労務士等の専門家へご相談ください。記載内容は執筆時点の情報に基づきます。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya/社員
特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員
当法人の価値観:誠実・Think more・伴走