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作成日:2026/05/31
【裁判例】「日雇い」「不定期就労」でも雇止め法理は及ぶ ―稼働実態の「安定性・法則性」が更新の期待を生むとき
日雇い・不定期就労   雇止め法理   労契法19条
「日雇い」「不定期就労」でも雇止め法理は及ぶ
―稼働実態の「安定性・法則性」が更新の期待を生むとき
近江アサノコンクリート事件(大阪高判 令和6年2月13日)を題材に、不定期就労者の管理リスクを労務管理の視点から検討します

「日雇い」「スポット」「登録型」「呼べば来てもらう不定期就労」――契約形態としては不安定で、企業側からは「いつでも終了できる」と捉えられがちな働き方があります。ところが、約19年にわたって毎月安定的に稼働してきた日雇労働者について、大阪高裁は雇止め法理(労働契約法19条2号)を類推適用し、満65歳到達直前までの賃金相当額の支払いを使用者に命じました(確定)。形式上「日々の契約」であっても、稼働実態が安定し「法則性」を帯びていれば、有期契約の更新期待と同等の法的保護が及び得ることを示した、実務上極めて重要な裁判例です。当法人の視点から、不定期就労者を抱える企業の留意点を整理します。

📌 この記事の要点
1. 特定日の就労義務がない「日雇い」であっても、長年にわたり毎月安定して稼働してきた実態があれば、雇止め法理(労契法19条2号)が類推適用され得る。
2. 本件では「1か月あたり13〜18日程度の稼働」という稼働の「法則性」が顕著に認められた点が決め手とされた。単に「長く付き合いがある」だけでは足りない可能性がある。
3. 類推適用が認められると、従前と同程度の稼働を前提とした賃金相当額を、長期間にわたり支払う責任が生じ得る(本件では満65歳到達直前まで)。
4. 「契約形態が不安定だから自由に終了できる」という前提は危険。実態の安定性こそが法的評価を決める。

1. 事案の概要

本稿で参照する事実は、報道(労働新聞社・令和8年6月1日付)に記載された範囲に限ります。判決原文に明記されていない事情の補足は行いません。

控訴人(一審原告・労働者)は、平成4年に被控訴人(一審被告・使用者)に正社員として入社し、ミキサー車の運転業務に従事した後、平成11年に退職しました。しかしその後も、日雇労働者として稼働を続けました。その態様は、前日に稼働の可否を確認し、賃金は各稼働日に現金で支払われるというもので、特定日の就労が義務付けられていたわけではありません。もっとも、控訴人は他の日雇労働者に優先して1か月あたり13〜18日程度の稼働を継続し、稼働しない日には日雇労働被保険者として日雇労働求職者給付金を受給していました。

平成29年、被控訴人が職業安定所から、控訴人について日雇労働被保険者から一般被保険者へ切り替える必要がある旨の行政指導を受けたことを契機に、被控訴人と控訴人が加入する労働組合が折衝を行いました。その結果、控訴人を一般被保険者として加入させたうえで、基本給(日当1万9500円)に加え、指導手当(原則月額12万円)が支給されることとなり、賃金総額は1か月あたり50万円近くに達しました。

平成30年7月、当時の被控訴人代表者が逮捕され、所属する生コン協同組合から1か月間の生コン出荷自粛を要請されました。これを受けて被控訴人は同年12月27日、控訴人に対し、「来年1月以降も不確定であり、従来のような雇用は不可能となります」等と記載した書面(本件通知書)と雇用保険被保険者離職票を交付し、以後、控訴人に稼働を求めることはなくなりました。

2. 裁判所の判断 ― 一審を覆し、労契法19条2号を類推適用

一審(大津地判令和4年2月25日)は、労働契約法19条の類推適用の可能性自体は認めつつも、本件では「雇用継続の合理的期待を生じさせる事情があったとまではいえない」として、類推適用を否定しました。

これに対し控訴審(大阪高判令和6年2月13日)は、一審の判断を変更し、労働契約法19条2号の類推適用を肯定しました。そのうえで、令和4年12月末(控訴人が満65歳に到達する直前)までの間は「日々雇用が存在していたもの」として、未払賃金相当額の支払いを命じています(確定)。

◆ 判断の決め手 ―「法則性」の存在

本判決は、長年にわたり同一使用者のもとで稼働実績を積み重ねた日雇労働者について、労契法19条2号の類推適用を認めたものと報じられています。

ポイントは、単に「稼働期間が長年にわたっていた」というだけでなく、「1か月あたり13〜18日程度の稼働」という稼働実態の「法則性」が顕著に認められたこと。だからこそ「今後も同じ法則に従って稼働が継続するはずだ」という期待は、有期労働契約の更新期待と異ならず、法的保護に値すると判断されました。

3. 当法人の視点 ― 「契約形態」ではなく「稼働実態」で評価される

この裁判例から企業が読み取るべき最大の教訓は、「契約の形式が不安定であること」と「いつでも自由に終了できること」は、まったく別物であるという点です。日雇い・スポット・登録型・業務の都度発注といった形態を採っていても、現実の稼働が長期にわたり安定し、しかも一定の「リズム(法則性)」を帯びていれば、相手方には合理的な継続期待が生じ、その期待は雇止め法理の類推によって保護され得ます。

実務上、特に注意すべきは次の類型です。これらは「都合よく呼べる人材」として重宝される一方、関係が長期化・固定化するほど、終了時のリスクが静かに積み上がっていきます。

リスクが高まる要素 なぜ継続期待につながるか
就労の長期化 年単位で関係が続くほど「これからも続く」という期待の合理性が高まる。
稼働の規則性・固定化 「毎月◯日前後」など稼働日数・パターンが安定すると、本件の「法則性」に該当し得る。
優先的な発注・処遇 他の不定期就労者より優先して仕事を回している場合、特別な継続関係と評価されやすい。
処遇の安定化・手当付与 月額手当の付与や保険切替など処遇が安定すると、「恒常的な雇用」に近い実態と評価され得る。

もっとも、本判決の射程を過大に捉えるべきではありません。本件は「13〜18日」という顕著な法則性が認定された事案であり、稼働が散発的・不規則で、稼働日数にまとまったパターンが見出せない場合にまで、当然に同じ結論になるとは限りません。実際、19条2号の類推適用という構成については、「どの日が契約日(=稼働日)で、どの日がそうでないのか」という法律効果の特定をめぐって、なお検討の余地があるとの指摘もあります。個別事案の評価は、稼働実態の具体的な記録に強く依存します。

したがって、当法人としては、不定期就労者を継続的に活用している企業に対し、次の二方向での備えを推奨します。第一に、「真に不定期で終了させ得る関係」を維持したいなら、稼働を意図的に固定化させない運用(発注の都度性の確保、稼働実態の記録の整備、優先発注の見直し)を講じること。第二に、関係が事実上恒常化しているなら、むしろ正面から有期または無期の雇用契約に整理し、終了ルール(更新基準・上限・終了事由)を契約と規程で明確化すること。曖昧なまま長期化させることが、最も高い「隠れた負債」を生みます。

✔ 不定期就労者の管理チェックポイント
同一の不定期就労者との関係が、年単位で長期化していないか。
毎月の稼働日数・稼働パターンが、事実上固定化(法則化)していないか。
特定の人に優先的に発注し、実態として「常用」に近づいていないか。
稼働実態(依頼・諾否・稼働日・賃金)の記録を残しているか。
関係を終了させる際、突然の一方的打ち切りになっていないか(事前協議・予告の有無)。
恒常化した関係を、有期・無期の雇用契約として整理する選択肢を検討したか。
不定期就労・日雇い・スポット人材の管理に不安はありませんか
「契約形態が不安定だから大丈夫」は通用しません。稼働実態の点検と、契約・規程の整備を当法人がご支援します。
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関連サービス
労務手続代行・監査(雇用区分・就労実態の点検)
就業規則作成・改訂(雇用区分・終了ルールの整備)
労働紛争解決(雇止め・契約終了をめぐる対応)
根拠法令・参照判例

労働契約法19条(有期労働契約の更新等/特に2号)/ 近江アサノコンクリート事件(大阪高判令和6年2月13日、原審:大津地判令和4年2月25日)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案への法的助言ではありません。記載内容は作成時点の情報に基づきます。実際の対応は、最新の法令・判例および個別の事実関係を踏まえ、専門家へのご相談のうえご判断ください。

執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
当法人は「誠実・Think more・伴走」を価値観に、経営者と共に最善の解を導き出すことを使命としています。