「試用期間」と「有期契約」を分ける境界線
―募集要項に「正社員・試用期間」と書いていても、契約書と説明次第で雇止めが認められる ネクスコ東日本トラスティ事件(東京地判 令和6年12月25日)を題材に、採用時の制度設計を労務管理の視点から検討します
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「6か月の試用期間を設けるが、その期間中の雇用形態は契約社員とする」――こうした採用設計は、適性を見極めたいという実務上の要請から少なからず行われています。本稿で取り上げる裁判例は、求人情報で「正社員採用・試用期間6か月」と表示しながら、試用期間中を有期の契約社員契約としていた企業が、期間満了で契約を更新しなかった事案です。裁判所は、これを「試用期間」ではなく純然たる「有期労働契約の期間」と判断し、雇止めを有効と認める方向の判断を示しました。形式と実態、そして「採用時の説明」が、後の契約終了の可否を大きく左右することを示す事例として、当法人の実務的視点を交えて整理します。
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📌 この記事の要点
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本稿で参照する事実は、報道(労働新聞社・令和8年5月25日付)に記載された範囲に限ります。判決原文に明記されていない事情の補足は行いません。
労働者Xは、「正社員採用、試用期間6か月、試用期間中の雇用形態は契約社員」とする求人情報を見て、使用者Yに応募し採用されました。締結された契約書には、@雇用期間の始期・終期が定められていたこと、A更新する場合があり得ること、B契約更新の判断基準(業務量・勤務成績、態度・能力、会社の経営状況、従事している業務の進捗状況)、C雇用形態として「契約社員」であること、が記載されていました。
期間満了の際、Yは「正常かつ安定的な業務の遂行に支障がある」として契約を更新しない旨を通知しました。これに対しXは、㋐募集要項に「試用期間」と表示されていること、㋑正社員登用を予定していると説明されたこと、㋒期間終了により当然に契約が終了するという合意は存在しないこと等を理由に、本件契約は実質的に「試用期間」の定めであるとして留保解約権の行使(=本採用拒否=解雇)の効力を争い、仮に有期契約であったとしても更新の期待が認められ、労働契約法19条により雇止めは認められないと主張しました。
そもそも「試用目的で有期契約を用いること」自体は、判例上、頭から否定されているわけではありません。リーディングケースである神戸弘陵学園事件(最一小判平成2年6月5日)は、期間を定めた契約であっても、その期間が労働者の適性を評価・判断するための「試用期間」であると解される場合には、特段の事情がない限り、期間の定めのない契約に試用期間を付したものと解されるとしました。裏を返せば、「期間満了により契約が当然に終了する」旨の明確な合意があると認められれば、その期間は純然たる有期契約の存続期間と評価されることになります。
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◆ 判断の分岐点(試用期間 / 有期契約)
本件で裁判所が重視したのは、求人での文言(「試用期間」)ではなく、「期間満了で当然に契約が終了する」旨の合意が明示されていたかという点でした。これが近年の判例傾向と整理できます。 本件では、契約締結の過程での説明と契約書の記載により、当該合意が明示されていたと認定され、結論として、本件期間は「試用期間」ではなく「有期労働契約の期間」と判断されました。これに伴い、有期契約の更新期待も否定されています。 |
一方で、同じく「期間の定めのある契約(正社員登用あり)」と契約書に明記されていたにもかかわらず、結論として「試用期間」と判断された近時の裁判例も存在します。報道では、採用手続が進んでオファー面談の直前になって契約社員としての採用であることが知らされ、面談時に本人の質問に対して「試用期間」と回答していたと認定された事例が紹介されています。同じ「契約書に期間の定めあり」でも、採用過程での説明・表示の一貫性次第で結論が逆転し得ることを示すものです。
本件の契約書は、有期契約でありながら「更新する場合があり得る」という、更新の余地を残す表現を含んでいました。結果として企業側に有利な判断となりましたが、当法人としては、この種の「試用目的なのか、更新前提の有期なのか、はたまた正社員登用前提なのかが判然としない二重・三重構造」こそが、最も避けるべき設計であると考えます。文言の曖昧さは、訴訟になればそのまま「どちらにも読める=労働者に有利に解釈され得る」リスクとなります。
制度として整理するなら、次の三類型を混同させずに、いずれかに振り切って設計することが要諦です。
| 設計類型 | 基本構造 | 設計上の留意点 |
|---|---|---|
| A. 無期+試用期間 | 期間の定めのない契約に試用期間(留保解約権)を付す。 | 本採用拒否は解雇権濫用法理が及ぶ。客観的合理性・社会的相当性が必要。 |
| B. 試用目的の有期契約 | 期間満了で当然終了し、適性ありなら別途無期契約を締結する。 | 「期間満了で終了する」旨を契約書・説明で明確に合意すること。更新を匂わせる文言は入れない。 |
| C. 更新前提の有期契約 | 反復更新を予定する純粋な有期雇用。 | 更新基準・上限を明示。雇止め時は労契法19条(更新期待)に留意。 |
なお、厚生労働省「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会報告書」(平成17年)も、試行雇用契約と試用期間の区別を明確にするため、有期労働契約が試用の目的を有する場合には、期間満了後に本採用としての無期契約の締結がない限り、期間満了によって労働契約が終了する旨を明示すべきであると指摘しています。上記Bの設計を採るなら、この指摘に沿った文言整備が不可欠です。
また見落とされがちなのが、有期契約と評価された場合の「期間途中解雇」のハードルの高さです。有期契約の期間途中の解雇には労働契約法17条が適用され、「やむを得ない事由」が必要です。これは通常の解雇(労契法16条)よりも有効と認められる場面が限定されます。したがって、たとえ試用目的の有期契約を設計しても、期間の途中で「能力・適性不足」を理由に切ることは原則として困難であり、原則は期間満了を待って終了とする運用になります。「いつでも切れる」という発想で有期を選ぶと、かえって身動きが取れなくなる点に注意が必要です。
最後に、採用競争力の観点も無視できません。労働力人口が減少するなかで、「有期契約」を入口とする求人は、無期・正社員前提の求人に比べて応募確保で不利になりやすい現実があります。適性見極めの仕組みとして有期を導入する場合は、法的安定性(明確な終了合意)と採用競争力(魅力ある条件提示)のバランスを、自社の人材市場の状況に即して慎重に検討すべきです。
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根拠法令・参照判例
労働契約法16条(解雇)、17条(契約期間中の解雇等)、19条(有期労働契約の更新等)/ 神戸弘陵学園事件(最一小判平成2年6月5日)/ ネクスコ東日本トラスティ事件(東京地判令和6年12月25日)/ 厚生労働省「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会報告書」(平成17年) 免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案への法的助言ではありません。記載内容は作成時点の情報に基づきます。実際の対応は、最新の法令・判例および個別の事実関係を踏まえ、専門家へのご相談のうえご判断ください。 |
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執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員 当法人は「誠実・Think more・伴走」を価値観に、経営者と共に最善の解を導き出すことを使命としています。
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