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「うちは業務委託で出してるから、労基法も労契法も関係ないですよね」――顧問先からそう言われたとき、当法人がまず確認するのは契約書の文言ではなく、現場の「指揮」と「報酬の決まり方」です。2026年5月15日、大阪高裁が言い渡した国立大学法人大阪大学事件の控訴審判決は、まさにこの「契約名称ではなく実態」という労働法の大原則を、一審の判断を覆す形で鮮明に示しました。本件で問題となったのは「業務委託契約」ではなく、より厳密には「委嘱契約」(その法的性質は準委任契約)です。「準委任なら指揮監督されていないはず」という大学側の建付けは、実態の前にあっけなく崩されました。本稿では、中小企業・IPO準備企業の経営者・人事担当者に向けて、この判決が示す「契約形式リスク」を労務監査の現場でどう読み解くかを、当法人の実務的視点から整理します。 |
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1. 事案の概要 ── 「委嘱契約」という選択がもたらしたもの |
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原告と契約形態原告は大阪大学で語学等を担当してきた非常勤講師4人。4人と大学との契約は、形式上「委嘱契約」と称され、大学側はその法的性質を「準委任契約(民法656条)」であると整理していました。つまり「労働契約ではなく、独立して業務を遂行する者への委任である」という建付けです。契約は半年から1年単位で反復更新され、4人はいずれも通算5年(うち2名は10年)を超えて勤務してきました。 無期転換申込みと雇止め原告4人は2021年〜2022年にかけて、労働契約法18条に基づき無期労働契約への転換を申し入れました。これに対し大学側は「これは労働契約ではない。準委任契約期間は労契法18条の通算契約期間に算入されない」として転換を拒否。2023年3月、契約期間満了による雇止めに踏み切りました。 争点の構造争点は二段階で構成されます。第一段階:労働者性の認定。委嘱契約期間中も、原告4人は労基法・労契法上の「労働者」と認められるか。第二段階:雇止めの有効性。労働者性が認められた場合、通算5年超の有期契約に対する雇止めは、労契法19条(雇止め法理)に照らして有効か。一審・二審で結論が真逆になった原因は、まさに第一段階の労働者性の評価にありました。 |
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2. 一審と控訴審で結論が分かれた理由 |
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同じ事案に対し、大阪地裁(2025年1月)と大阪高裁(2026年5月)はまったく逆の結論に至りました。両者の判断の違いを当法人で整理すると、次のとおりです。
※裁判長は大島雅弘氏(判決言渡しは龍見昇氏が代読)。事件番号:令和7年(ネ)第441号。報道情報を当法人で整理。 |
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3. 高裁が労働者性の決め手とした2要素 |
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大阪高裁は、昭和60年12月19日付の労働基準法研究会報告(労基研報告)が示す使用従属性の判断基準に沿って、次の2点を重視しました。実務的に重要なのは、いずれも「専門職としての裁量があるかどうか」ではなく「組織的に管理されているかどうか」が問われた点です。 |
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なお高裁は、労働者性を肯定したうえで、雇止めの有効性についても踏み込んでいます。報道によれば、本件雇止めを「権利を濫用したもので無効」と判断しました。これは労契法19条に定める雇止め法理――継続更新による合理的期待の保護――を踏まえた判断と読むのが自然です。「労働者性」を入口として、「雇止め法理」が結論を確定させる二段構造で大学側の主張が崩されたことになります。 |
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4. 当法人の視点 ── 中小企業・IPO準備企業への射程 |
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「大学の非常勤講師の話は、うちには関係ない」――そう感じた経営者の方こそ、慎重に読み解いていただきたい判決です。なぜなら、本件で大学側が用いた契約スキーム――「労働契約ではない委嘱(準委任)契約として人材を活用する」――は、中小企業の現場でもしばしば見られるからです。当法人が労務監査・IPO労務監査の現場で実際に遭遇するパターンを挙げると、次のような例が典型です。
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特にIPO準備企業においては、業務委託・フリーランス活用は柔軟な人材確保の手段として広く採用されています。しかし、上場審査の労務デューデリジェンスでは、この「契約形式と実態の乖離」が頻出論点として精査されます。本判決のような結論が出れば、未払賃金・社会保険遡及加入・労働保険・有給休暇等が一括して問題となり、上場スケジュールに直接影響します。M&A労務監査においても同様で、買収先の業務委託契約に労働者性の問題が潜んでいれば、表明保証違反や買収価格調整の論点となり得ます。 本判決が中小企業・IPO準備企業に突きつける問いは明快です。「貴社の業務委託・準委任契約は、契約書ではなく実態において、本当に労働契約と区別されているか」。この問いに即座に「Yes」と答えられる企業は、実はそう多くありません。 |
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5. 業務委託・準委任契約の実態棚卸し ── 当法人が労務監査で確認する5観点 |
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本判決を踏まえ、当法人が労務監査・IPO労務監査の現場で業務委託・準委任契約の実態棚卸しを行う際に重視している5つの観点を、実務的なチェックポイントとして提示します。 |
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6. 見落とせない潮流 ── 「労働者性」判断基準そのものの見直し |
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最後に、本判決を読むにあたって押さえておきたい中長期の潮流があります。労働者性の判断基準そのものが、現在、約40年ぶりに見直しの俎上に載っているという事実です。 2025年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」は、現在の労働者性判断の依拠する昭和60年労基研報告について「働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない部分も生じている」と指摘し、見直しの必要性を明言。2025年5月には厚生労働省が「労働基準法における『労働者』に関する研究会」を設置し、検討が本格化しています。 論点には、人的指揮命令だけでなく経済的従属・交渉力格差の考慮、立証責任のあり方(推定規定の導入)などが含まれており、改定の方向性によっては、現状よりも労働者性が認められやすくなる可能性があります。本判決はその潮流のなかで、すでに「実態重視」のラインを高裁が明確に引いた事例として、実務上の重みを持つことになります。 |
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※本記事は2026年5月22日時点で確認できる報道等の公開情報に基づき作成しています。本判決は控訴審判決であり、上告等により判断が変動する可能性があります。判決全文の公表により、本記事の記述と判旨の細部に違いが生じる可能性があります。具体的な事案への対応は、最新の判決文・通達・専門家への相談を踏まえてご判断ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案に対する法的助言を構成するものではありません。 |
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