トップ
事務所案内
お問合せ
労務コンテンツ一覧
サービス案内
人事労務ニュース
リーフレット
リンク先
IPO労務監査・改善
M&A労務監査
労働問題解決
高難度業務対応
就業規則作成・改定
給与監査顧問
給与計算代行
手続代行・手続監査
裁判例紹介・ブログ
作成日:2026/05/26
【裁判例】「準委任契約だから労働者ではない」は通用するか−大阪大学事件控訴審(大阪高裁 令和8年5月15日判決)に学ぶ契約実態の総点検
労 務 監 査 / 業 務 委 託 リ ス ク
「準委任契約だから労働者ではない」は通用するか
大阪大学事件控訴審(大阪高裁 令和8年5月15日判決)に学ぶ契約実態の総点検
2026年5月25日 社会保険労務士法人T&M Nagoya

「うちは業務委託で出してるから、労基法も労契法も関係ないですよね」――顧問先からそう言われたとき、当法人がまず確認するのは契約書の文言ではなく、現場の「指揮」と「報酬の決まり方」です。2026年5月15日、大阪高裁が言い渡した国立大学法人大阪大学事件の控訴審判決は、まさにこの「契約名称ではなく実態」という労働法の大原則を、一審の判断を覆す形で鮮明に示しました。本件で問題となったのは「業務委託契約」ではなく、より厳密には「委嘱契約」(その法的性質は準委任契約)です。「準委任なら指揮監督されていないはず」という大学側の建付けは、実態の前にあっけなく崩されました。本稿では、中小企業・IPO準備企業の経営者・人事担当者に向けて、この判決が示す「契約形式リスク」を労務監査の現場でどう読み解くかを、当法人の実務的視点から整理します。

📌 本記事の要点

本件は「業務委託」一般ではなく「委嘱契約(準委任契約)」と称された有期契約。大学は「労働契約ではない」と主張し無期転換を拒否したが、高裁は労働者性を肯定。
高裁の判断は二段構造。@労働者性の認定(指揮監督と労務対償性)、A雇止めの権利濫用無効(労契法19条)の双方を踏まえ約1,500万円の支払いを命令。
中小企業・IPO準備企業にとって、業務委託・準委任契約の実態棚卸しは喫緊の課題。労務監査では「指揮監督」「報酬算定基準」「専属性」の3点を最初に検証。
労働者性の判断基準(昭和60年労基研報告)は約40年ぶりの見直し議論が進行中。従来より労働者性が認められやすくなる方向での改定可能性。

1. 事案の概要 ── 「委嘱契約」という選択がもたらしたもの

原告と契約形態

原告は大阪大学で語学等を担当してきた非常勤講師4人。4人と大学との契約は、形式上「委嘱契約」と称され、大学側はその法的性質を「準委任契約(民法656条)」であると整理していました。つまり「労働契約ではなく、独立して業務を遂行する者への委任である」という建付けです。契約は半年から1年単位で反復更新され、4人はいずれも通算5年(うち2名は10年)を超えて勤務してきました。

無期転換申込みと雇止め

原告4人は2021年〜2022年にかけて、労働契約法18条に基づき無期労働契約への転換を申し入れました。これに対し大学側は「これは労働契約ではない。準委任契約期間は労契法18条の通算契約期間に算入されない」として転換を拒否。2023年3月、契約期間満了による雇止めに踏み切りました。

争点の構造

争点は二段階で構成されます。第一段階:労働者性の認定。委嘱契約期間中も、原告4人は労基法・労契法上の「労働者」と認められるか。第二段階:雇止めの有効性。労働者性が認められた場合、通算5年超の有期契約に対する雇止めは、労契法19条(雇止め法理)に照らして有効か。一審・二審で結論が真逆になった原因は、まさに第一段階の労働者性の評価にありました。

2. 一審と控訴審で結論が分かれた理由

同じ事案に対し、大阪地裁(2025年1月)と大阪高裁(2026年5月)はまったく逆の結論に至りました。両者の判断の違いを当法人で整理すると、次のとおりです。

比較項目 一審・大阪地裁
(2025年1月)
控訴審・大阪高裁
(2026年5月15日)
労働者性 否定(業務遂行に裁量があると評価) 肯定。授業の進め方・採点基準の統一など「幅広い指揮監督」に服していたと認定
指揮監督 講師の専門裁量を重視 カリキュラム・授業計画・成績評価の基準統一など、組織的管理を重視
報酬の性質 委任に対する報酬と評価 授業時間に応じて算定されており「労務対償性」が強く推認される
雇止め そもそも労働契約ではないため労契法19条の問題は生じず 「権利を濫用したもので無効」と判断
結論 請求棄却 無期労働契約上の地位確認、未払賃金等約1,500万円の支払命令

※裁判長は大島雅弘氏(判決言渡しは龍見昇氏が代読)。事件番号:令和7年(ネ)第441号。報道情報を当法人で整理。

3. 高裁が労働者性の決め手とした2要素

大阪高裁は、昭和60年12月19日付の労働基準法研究会報告(労基研報告)が示す使用従属性の判断基準に沿って、次の2点を重視しました。実務的に重要なのは、いずれも「専門職としての裁量があるかどうか」ではなく「組織的に管理されているかどうか」が問われた点です。

@ 業務遂行上の指揮監督

授業計画の作成、授業の進め方、採点基準の統一など、大学側による組織的な指示・基準設定が及んでいた点を、高裁は「幅広い指揮監督」と評価しました。専門性の高い「講師」職であっても、組織が定める標準に従って稼働している以上、独立した受託者とは評価できないという論理です。中小企業の現場でも、「業務マニュアル」「品質基準」「報告フォーマット」の指定は、それ自体が指揮監督の根拠となり得ます。

A 報酬の労務対償性

報酬が「一定の授業時間に応じて算出」されていた点について、高裁は労務対償性(賃金性)を強く推認させる事情と評価しました。請負・準委任であれば、本来は「成果物」または「事務処理の完了」が報酬と対応するはずですが、稼働時間に対して報酬が支払われているなら、それは実質的に「労働の対価」――すなわち賃金であるという判断です。これは業務委託・準委任契約を組む際の報酬設計の急所と言えます。

なお高裁は、労働者性を肯定したうえで、雇止めの有効性についても踏み込んでいます。報道によれば、本件雇止めを「権利を濫用したもので無効」と判断しました。これは労契法19条に定める雇止め法理――継続更新による合理的期待の保護――を踏まえた判断と読むのが自然です。「労働者性」を入口として、「雇止め法理」が結論を確定させる二段構造で大学側の主張が崩されたことになります。

4. 当法人の視点 ── 中小企業・IPO準備企業への射程

「大学の非常勤講師の話は、うちには関係ない」――そう感じた経営者の方こそ、慎重に読み解いていただきたい判決です。なぜなら、本件で大学側が用いた契約スキーム――「労働契約ではない委嘱(準委任)契約として人材を活用する」――は、中小企業の現場でもしばしば見られるからです。当法人が労務監査・IPO労務監査の現場で実際に遭遇するパターンを挙げると、次のような例が典型です。

⚠ こういうケースは要注意

▸ 元従業員を「業務委託」に切り替えて、業務内容と稼働パターンはほぼ同じまま継続している

▸ 業務委託・準委任の名目で、出社時間・場所・業務手順が事実上拘束されている

▸ 報酬が「月額固定」または「時給×稼働時間」で算定されており、成果物・業務単位ではない

▸ 専属性が高く、当該事業者からの収入が受託者収入の大半を占めている

▸ 社会保険加入を回避する目的で、形式的に業務委託化している

特にIPO準備企業においては、業務委託・フリーランス活用は柔軟な人材確保の手段として広く採用されています。しかし、上場審査の労務デューデリジェンスでは、この「契約形式と実態の乖離」が頻出論点として精査されます。本判決のような結論が出れば、未払賃金・社会保険遡及加入・労働保険・有給休暇等が一括して問題となり、上場スケジュールに直接影響します。M&A労務監査においても同様で、買収先の業務委託契約に労働者性の問題が潜んでいれば、表明保証違反や買収価格調整の論点となり得ます。

本判決が中小企業・IPO準備企業に突きつける問いは明快です。「貴社の業務委託・準委任契約は、契約書ではなく実態において、本当に労働契約と区別されているか」。この問いに即座に「Yes」と答えられる企業は、実はそう多くありません。

5. 業務委託・準委任契約の実態棚卸し ── 当法人が労務監査で確認する5観点

本判決を踏まえ、当法人が労務監査・IPO労務監査の現場で業務委託・準委任契約の実態棚卸しを行う際に重視している5つの観点を、実務的なチェックポイントとして提示します。

観点@ 諾否の自由 ── 仕事を「断れる」関係性か

個別の業務依頼に対して、受託者は明確に「断る」ことができるか。実態として断ることが難しい運用になっていれば、使用従属性の根拠となります。「いつもの仕事」が暗黙の前提となっていないかを確認します。

観点A 指揮監督 ── 業務の進め方を「指示」しているか

業務マニュアル、品質基準、報告フォーマット、進捗報告の義務付け、作業手順の指定など、業務遂行プロセスに踏み込んだ指示が日常的に行われていないか。本判決でも、この観点が決定打となりました。

観点B 時間的・場所的拘束性

勤務時間・出社場所が事実上指定されていないか。リモート可であっても「平日9時〜18時はオンライン待機」「定例ミーティング必須」といった運用は、拘束性の根拠になり得ます。

観点C 報酬の労務対償性 ── 「成果」か「時間」か

報酬が成果物・業務単位で決まっているか、それとも稼働時間や月額固定で決まっているか。本判決の決め手の一つがここでした。時給×時間で報酬が決まる業務委託は、それ自体が労働者性を強く推認させる事情です。

観点D 専属性・経済的従属

受託者の収入の大半が当該事業者からのものになっていないか、他社との取引が事実上禁じられていないか。専属性が高いほど、独立性の評価は弱まります。フリーランス新法(2024年11月施行)の取引条件明示義務とも整合的に運用できているかも併せて確認します。

6. 見落とせない潮流 ── 「労働者性」判断基準そのものの見直し

最後に、本判決を読むにあたって押さえておきたい中長期の潮流があります。労働者性の判断基準そのものが、現在、約40年ぶりに見直しの俎上に載っているという事実です。

2025年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」は、現在の労働者性判断の依拠する昭和60年労基研報告について「働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない部分も生じている」と指摘し、見直しの必要性を明言。2025年5月には厚生労働省が「労働基準法における『労働者』に関する研究会」を設置し、検討が本格化しています。

論点には、人的指揮命令だけでなく経済的従属・交渉力格差の考慮、立証責任のあり方(推定規定の導入)などが含まれており、改定の方向性によっては、現状よりも労働者性が認められやすくなる可能性があります。本判決はその潮流のなかで、すでに「実態重視」のラインを高裁が明確に引いた事例として、実務上の重みを持つことになります。

業務委託・準委任契約の実態に不安はありませんか

当法人は、IPO労務監査・M&A労務監査・労務手続代行を通じて、
業務委託契約の実態リスク診断を数多く手掛けてきました。
本判決を受けての契約実態の総点検をご希望の経営者・人事ご担当者は、お気軽にご相談ください。

無料相談のお申し込みはこちら ▶

▼ 関連サービス
IPO労務監査・改善支援労務手続代行・監査就業規則作成・改訂M&A労務監査

■ 根拠法令・参照判例等

・労働基準法9条(労働者の定義)

・労働契約法18条(有期労働契約の無期転換ルール)

・労働契約法19条(雇止め法理)

・民法656条(準委任)

・労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)

・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法、2024年11月1日施行)

・国立大学法人大阪大学事件・大阪高裁令和8年5月15日判決(令和7年(ネ)第441号、報道情報による)

※本記事は2026年5月22日時点で確認できる報道等の公開情報に基づき作成しています。本判決は控訴審判決であり、上告等により判断が変動する可能性があります。判決全文の公表により、本記事の記述と判旨の細部に違いが生じる可能性があります。具体的な事案への対応は、最新の判決文・通達・専門家への相談を踏まえてご判断ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案に対する法的助言を構成するものではありません。

執 筆 者

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員

経営者と共に歩き、最善の解を導き出す ―― 誠実・Think more・伴走

© 社会保険労務士法人T&M Nagoya