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作成日:2026/05/15
【裁判例】「センター廃止」を理由とした雇止めが無効に 千葉工業大学事件(東京高裁 令和7年10月22日判決) ―理事会決議なき組織再編は手続的瑕疵となる
最新裁判例    雇止め    組織再編
2026年5月11日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya
「センター廃止」を理由とした雇止めが無効に
千葉工業大学事件(東京高裁 令和7年10月22日判決)
―理事会決議なき組織再編は手続的瑕疵となる
📌 本記事の要点
  • 東京高裁は2025年(令和7年)10月22日、千葉工業大学の国際金融研究センター上席研究員(58歳・元経済産業省職員)に対する雇止めを無効とし、第一審判決を支持。控訴審で拡張された賞与請求も認める判決を言い渡した。
  • 判決は「研究センター廃止について議論が尽くされた証拠はない」「理事会決議を経ていない点で手続的不備がある」と厳しく断じた。
  • 入職時に大学側から「3年経過後は任期の定めのない身分(無期雇用契約)となる」旨の説明を受けていたことから、労働契約法19条2号の更新期待の合理性が認められた。
  • 2022年4月以降、判決確定日までの毎月の賃金・各年の賞与・年3%の遅延損害金の支払いを命じた。実損害は数千万円規模に及ぶ見込み。
  • 滋賀県社会福祉協議会事件(最判令6.4.26)と並び、「組織再編・事業廃止」を理由とする労働関係終了のハードルが高いことを示す重要事例。

有期労働契約の雇止めをめぐる判断は、社労士業務における頻出の相談分野です。労働契約法19条に定められた「雇止め法理」は、形式的な契約期間の満了だけで労働関係を終わらせることを認めず、更新の合理的期待が生じている場合には、解雇権濫用法理に類似した厳格な合理性審査を要求します。

とりわけ近年は、事業所・部署・センター等の組織再編に伴う雇止めが訴訟化するケースが目立ち、最高裁の滋賀県社会福祉協議会事件(令和6年4月26日判決)以降、「事業廃止」を理由とする雇用終了の合理性に対する司法のまなざしは厳しさを増しています。

本記事では、学校法人千葉工業大学事件(東京高裁 令和7年10月22日判決)を取り上げ、研究センター廃止を理由とする上席研究員の雇止めが「理事会決議を経ていない手続的瑕疵」「廃止議論の不尽」を理由に無効と判断された事案を、社労士の視点で解説します。

1.事案の概要

(1)当事者と入職経緯

原告(控訴審被控訴人)は、当時58歳の男性、元・経済産業省一般行政職員でした(共同通信報道)。経済産業省において一般行政職員として長年勤務した後、2020年(令和2年)3月、定年の10年前に同省を退官。退官の経緯は、当時の上司の勧めにより、千葉工業大学が新設する「国際金融研究センター」の上席研究員ポストを紹介されたことにあります。

被告(控訴審控訴人)は学校法人千葉工業大学(千葉県習志野市)です。

(2)入職時の説明と雇用契約

原告は2020年4月1日付で千葉工業大学に入職し、同センターの上席研究員に着任。担当業務は「再生可能エネルギーを地域に根付かせる官学産連携プロジェクト」であり、官公庁経験を活かした中長期プロジェクトの中核を担うことが期待されていました。

雇用契約は契約期間1年の有期雇用契約として締結されましたが、入職時には大学側から、「当初3年間は1年ごとの更新となるが、余程の不祥事でもない限り更新され、3年経過後は任期の定めのない身分(無期雇用契約)となる」旨の説明を受けていました(弁護士JP取材記事より)。

(3)雇止め通告から提訴まで

時期 事実経過
2020年4月 入職、国際金融研究センター上席研究員に着任
2021年11月 大学から「センター廃止」「2023年度以降は契約を更新しない」旨の通告
交渉経過 大学側は「期間満了後は更新しない旨の不更新条項つき」で2022年3月末までの契約案を提示。原告は当初の約束通り無期雇用契約とした契約書の提示を求めたが、常務理事名義で「不更新条項付き契約書を提出しないなら2022年3月末をもって雇用終了」と回答
2022年4月 雇止め状態に
2022年8月 東京地裁に提訴(地位確認・未払賃金支払請求)
2025年3月5日 東京地裁が原告勝訴判決
2025年10月22日 東京高裁が大学側の控訴を棄却、原告の賞与請求拡張も認容

2.主要争点

争点@:労働契約法19条1号・2号の適用要件該当性

有期労働契約が雇止めの対象となった場合、労働契約法19条は、(1)労働契約が反復更新されており実質的に無期労働契約と同視できる場合(1号類型)、または(2)労働者において契約更新を期待することが合理的と認められる場合(2号類型)には、解雇法理の類推適用により、客観的合理性と社会的相当性を欠く更新拒絶を無効とします。

本件原告は契約更新の回数が少なく1号類型該当性は争いがありましたが、入職時の「3年経過後の無期化」説明を根拠とする更新期待の合理性(2号類型)が中心争点となりました。

争点A:センター廃止の合理性

大学側は、「国際金融研究センターの廃止」を雇止めの実質的根拠としました。雇用終了の事由としてセンター廃止が成り立つためには、(a)廃止の経営判断自体が合理的であること、(b)廃止に至る手続が法人内部のガバナンスに照らして適正であることが要求されます。

争点B:未払賃金・賞与・遅延損害金の範囲

雇止めが無効とされた場合、原告は2022年4月以降の賃金・賞与の支払いを請求できるかが争点となります。控訴審では、地裁判決後に新たに発生した賞与分も含めて請求を拡張しています。

3.裁判所の判断

(1)第一審:東京地方裁判所 令和7年3月5日判決

東京地方裁判所は、原告の請求をほぼ全面的に認容し、「原告は被告に対して期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあること」を確認しました。

地裁判決の中核となった判示事項は次のとおりです。

  • 入職時に大学側から「特段の問題がない限り3年経過後は無期化」との説明があり、原告の更新期待には合理的根拠が認められる(労働契約法19条2号該当)
  • 雇止めの理由とされた「センター廃止」については、廃止の合理性に疑義があり、客観的合理性・社会的相当性のいずれも認められない
  • 雇止めは無効であり、令和4年4月以降も有期労働契約は更新されたものとみなす

(2)控訴審:東京高等裁判所 令和7年10月22日判決

大学側は判決を不服として控訴しましたが、東京高裁は控訴を棄却し、第一審の判断を維持しました。さらに、原告が控訴審で拡張した賞与分の請求についても認める判決を言い渡しました。

東京高裁判決の中核的な判示は、次の3点に集約されます。

@ 入職時の「無期化説明」と更新期待の合理性

東京高裁は、原告が経済産業省を定年10年前に退官してまで応募した経緯、入職時に大学側担当者から「3年経過後は任期の定めのない身分(無期雇用契約)となる」旨が説明されていた事実、原告が再生可能エネルギー国際金融プロジェクトという中長期プロジェクトに従事していた事実などを総合し、「契約更新が期待できる合理的な理由がある」と認定しました。

A センター廃止の手続的・実質的合理性の欠如

東京高裁は、判決理由において次のように厳しく断じました。

「研究センターの廃止それ自体についての議論が尽くされたことを認めるに足りる証拠はない」
「被告は、理事会の決議を経ることなく、理事長や常任理事らで決めた研究センターの廃止を推し進めているにすぎず、研究センターの廃止について理事会の決議を経ていない点において、手続的な不備があるものといわざるを得ない」

学校法人における重要事項の決定は、寄附行為および学校教育法に基づき理事会の議決事項とされるのが通常であり、研究センターの廃止という重要事項について理事会決議を経ない決定は、ガバナンス上の重大な欠陥として評価されました。

B 賃金・賞与・遅延損害金の支払命令

東京高裁は、令和4年4月以降、控訴審判決確定日までの毎月の賃金、各年の賞与、ならびにそれぞれに対する年3%の遅延損害金の支払いを命じました。賞与分は控訴審で請求が拡張された部分も含めて認容されています。

4.判決の理論的意義 ― 滋賀県社協事件との対比

本件判決は、最高裁・滋賀県社会福祉協議会事件(令和6年4月26日判決)と並んで、「組織再編・事業廃止を理由とする労働関係終了」のハードルを高める方向の判例として位置づけられます。

論点 滋賀県社協事件(最判令6.4.26) 千葉工大事件(東京高判令7.10.22)
労働者の地位 職種限定合意のある福祉用具技術職 入職時「3年経過後の無期化」説明を受けた上席研究員
処分の形式 配転命令 有期契約の雇止め
使用者の主張 事業廃止に伴う配転 センター廃止に伴う雇止め
裁判所の判断 職種限定合意違反で配転権限なし 手続的瑕疵と議論不尽で雇止め無効
本質的な共通点 「組織決定」を理由とする労働条件変更・雇用終了の合理性審査の厳格化

両判決は、「経営判断(組織再編・事業廃止)であれば、労働者の同意や合理的期待は劣後する」という一部実務界の感覚に対し、明確に否定の姿勢を示したものとして、社労士は重く受け止める必要があります。

5.実務への示唆 ― 6つのポイント

✓ 本判決から学ぶ実務対応のポイント

@採用時の口頭説明が「更新期待」を生む
入職時に「数年後の無期化」「契約は基本的に更新する」「長期的に活躍してほしい」といった口頭説明や面接時の発言は、労働契約法19条2号の更新期待の合理性を裏付ける重要な事実となります。採用面接の記録(議事メモ)の作成、雇用契約書への更新の有無・判断基準の明記、採用担当者への教育、入職時オリエンテーション資料への契約期間・更新条件の明示が必須です。

A組織再編・事業廃止の意思決定は手続を尽くす
事業所・部署・プロジェクトの廃止を理由に雇止めを行う場合、廃止決定の手続的正当性が事後的に厳しく審査されます。法人ガバナンスの規定(株主総会・取締役会・理事会等)に基づく決議を経ない「経営トップの独断的決定」は、雇止めの合理性を否定する決定打となります。重要組織の廃止は定款・寄附行為に従った正式な機関決定、廃止理由の文書化、当該部署の労働者への配転・他部署活用の検討、機関決議の議事録の適切な保管が必要です。

B契約終了通告のタイミングと事前協議
労働基準法および「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)に基づき、契約期間が1年を超えるか3回以上更新された有期労働契約については、契約期間満了の30日前までの予告が必要です。しかし、形式的に予告期間を満たしていても、労働者と使用者の信頼関係の維持・誠実な事前協議の有無が、雇止めの社会的相当性審査に影響します。配転・他部署移籍・再就職支援などの代替策の提示、協議経過の記録、合意形成の努力の可視化が重要です。

C研究機関・学校法人・公益法人の特殊性
学校法人・公益法人・医療法人等は、寄附行為や定款によって理事会決議事項が定められており、重要事項の決定には機関決定が要求されます。本件は、まさにこのガバナンス要件を満たさなかった点が雇止め無効の決定打となりました。寄附行為・定款で定められた理事会決議事項の確認、学校法人ガバナンス改革に関する近年の制度改正(2023年改正私立学校法等)への対応、評議員会・監事の関与プロセスの整備が望まれます。

D雇止め無効時の使用者の経済的負担
本件では、雇止め発生時(令和4年4月)から控訴審判決確定日まで、約3年6か月分の賃金・賞与・遅延損害金(年3%)の支払いが命じられました。仮に賃金月額70万円・賞与年300万円と仮定しても、実損害は3,000万円を優に超える規模となります。雇止めの安易な実行は、後日の労務リスクとして甚大な経済的負担を企業にもたらします。

Eシニア人材・専門人材の有期雇用に潜むリスク
本件原告は、官公庁の元職員という高度な専門性を持つシニア人材でした。近年、企業ではシニア人材・専門人材の中途採用に有期労働契約を活用するケースが増えていますが、本件のように「中長期プロジェクトへの参画」「無期化の口頭約束」がある場合、契約更新の合理的期待が容易に認められる傾向があります。中途採用シニア人材の契約条件の詳細な文書化、プロジェクト終了時の取扱いの契約書への明記、プロジェクト変更時の再配置可能性の事前検討が求められます。

6.「ジョブ型雇用」時代の有期雇用設計

本判決は、いわゆる「ジョブ型雇用」の時代における有期労働契約の設計に対しても重要な示唆を与えます。専門人材を特定プロジェクトに有期雇用で迎える場合、企業側は以下の点を契約書面で明確化する必要があります。

明確化すべき事項 記載すべき内容
契約更新の有無・判断基準 更新の可能性、更新の判断基準(プロジェクト継続性、業績、能力評価等)、最終契約年度(無期化前提か)
プロジェクト終了時の取扱い プロジェクト変更時の再配置可能性、契約終了時の取扱い、他部署への異動可否
採用時の口頭説明と契約書の整合性 採用面接記録の作成、契約書記載と異なる説明をしないことの徹底、入職時オリエンテーション資料の整備

7.まとめ ― 社労士は「組織再編×雇止め」をどう支えるか

本判決は、有期雇用契約を活用する企業・法人にとって、「組織再編・事業廃止」を理由とする雇止めの司法的ハードルが極めて高いことを改めて示しました。

当法人の役割は、雇止めが訴訟化した後の対応支援にとどまらず、雇止めに至る前の段階で、契約設計・採用説明の管理・組織再編プロセスの法的整備に積極的に関与することにあります。

特に、研究機関・学校法人・公益法人など、長期プロジェクトに有期雇用人材を投入する事業形態では、「期間の定めのある契約」であっても実質的には無期雇用に近い労使関係が形成されることが少なくありません。当法人は、こうした実態を見据えた契約設計と運用支援を通じて、顧問先のレピュテーション・リスクと経済的損失を未然に防ぐお手伝いをいたします。

経営者と共に歩く伴走者として、本判決の教訓を顧問先と共有し、有期雇用の適正運用を支える――それが当法人に求められる本質的な仕事です。

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【根拠法令・参考資料】
・労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)
・労働基準法第14条第2項(有期労働契約の締結基準)
・「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)
・学校教育法、私立学校法(学校法人ガバナンス)
・学校法人千葉工業大学事件・東京高等裁判所令和7年10月22日判決
・同 第一審:東京地方裁判所令和7年3月5日判決

【参考報道】
・弁護士JPニュース「千葉工大『研究員雇い止め』訴訟 高裁が大学側の控訴棄却で『未払い賃金』支払い命じる」(2025年10月23日)
・共同通信「千葉工大雇い止め無効判決 研究員勝訴、東京高裁」(2025年10月22日配信・各社掲載)

【関連判例】
・東芝柳町工場事件(最判昭和49年7月22日)― 雇止め法理の出発点
・日立メディコ事件(最判昭和61年12月4日)― 臨時的有期雇用の雇止め
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【免責事項】
本記事は判決公表時点の報道情報および公開情報に基づく一般的な解説です。判決の詳細・確定状況については最新の公式情報をご確認ください。個別事案の対応は弁護士等の専門家にご相談ください。
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員

中小・中堅企業の経営者と共に歩き、最善の解を導き出す ― 誠実・Think more・伴走