作成日:2026/05/13
【法改正】2026年10月1日施行決定 カスハラ対策義務化までに 経営者がやるべきこと
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LABOR MANAGEMENT
2026年10月1日施行決定 カスハラ対策義務化までに 経営者がやるべきこと
2026年5月|社会保険労務士法人T&M Nagoya
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「お客様からの暴言で、入社2年目の従業員が辞めてしまった」——こうしたご相談がここ1〜2年で急増しています。これまで企業の自主的取り組みにとどまっていたカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策は、2026年10月1日からついに法的義務に変わります。
改正労働施策総合推進法は2025年6月に成立・公布され、関連指針(厚生労働省告示)も2026年2月に公布済みです。施行まで残り5か月。本記事では、義務化の全体像と、当法人がクライアント企業へお伝えしている実装手順を整理します。
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📌 本記事の要点
・改正労働施策総合推進法は2025年6月11日公布、2026年10月1日施行が確定 ・カスハラが初めて法律で定義され、事業主に雇用管理上の措置義務が課される ・違反時は報告徴求・助言・指導・勧告・公表の対象に ・残り5か月で就業規則改訂・対応マニュアル整備・相談窓口設置が必要
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CONTENTS
1. なぜ今カスハラ対策が「義務」なのか——改正の全体像 2. 改正法が定めるカスハラの法定定義 3. 事業主に求められる雇用管理上の措置 4. 自治体条例の動向——名古屋圏の経営者が押さえるべき点 5. 就業規則に盛り込むべき3条項とモデル条文 6. 現場運用でつまずきやすい3つの落とし穴 7. 施行までのタイムライン 8. 当法人が支援できること
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1. なぜ今カスハラ対策が「義務」なのか——改正の全体像
改正労働施策総合推進法(通称:カスハラ対策法)は、2025年6月4日に参議院本会議で可決・成立し、同月11日に公布されました。施行日を定める政令により、施行は2026年10月1日と確定しています。
これまでカスハラ対策は厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年)に基づく自主的取組にとどまっていましたが、改正法施行後は、パワハラ・セクハラと並ぶ「事業主の措置義務」となります。労働者を1人でも雇用していれば対象です。
▼ 改正前後の比較
| 項目 |
現行ルール(〜2026/9/30) |
改正後ルール(2026/10/1〜) |
| カスハラ防止措置 |
努力義務(厚労省マニュアルベース) |
雇用管理上の措置義務 |
| カスハラの法的定義 |
法律上の定義なし |
改正法33条1項に明記 |
| 不利益取扱い禁止 |
明文の規定なし |
改正法33条2項に明記 |
| 違反時の措置 |
行政措置なし |
報告徴求・助言・指導・勧告・公表 |
| 対象事業主 |
— |
労働者1人以上の全事業主 |
求職者等への セクハラ対策 |
対象外(雇用関係内のみ) |
対象拡大(同時に義務化) |
※ 関連指針:「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公布)
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2. 改正法が定めるカスハラの法定定義
改正後の労働施策総合推進法33条1項は、カスハラを次の3要素で定義しています。
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【カスハラの法定定義】
@ 職場において行われる、顧客・取引相手・施設利用者その他事業に関係を有する者の言動であって A 労働者の業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより B 労働者の就業環境が害されること
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2022年の厚労省マニュアルの定義とほぼ整合していますが、重要なのは「事業に関係を有する者」と広く対象を捉えている点です。BtoB取引における取引先からのカスハラ(いわゆるBtoBカスハラ)も射程に入ります。元請から下請への高圧的な態度、施設利用者からの過剰要求なども対象となり得ます。
指針(告示第51号)では、判断にあたり言動の目的・経緯・業種業態・態様・頻度・継続性・労働者の心身の状況等を総合考慮するとされており、現場での「正当なクレームか/カスハラか」の線引きは、結局のところ個別事情の総合判断となります。
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3. 事業主に求められる雇用管理上の措置
指針が事業主に求める措置は、パワハラ防止措置と同じ枠組みです。骨格は次の5点に整理できます。
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@ 事業主の方針等の明確化と労働者への周知・啓発 A 相談に応じ適切に対応するための体制の整備(窓口設置) B カスハラ発生時の事後の迅速かつ適切な対応(被害者への配慮を含む) C 併せて講ずべき措置(プライバシー保護・不利益取扱い禁止の周知) D 顧客等への対応マニュアル整備・従業員教育
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これらに加え、事業主の方針には「労働者への安全配慮」を明示し、被害者の心身の状況に応じた配慮(業務担当変更・産業医面談等)まで踏み込むことが求められます。労働契約法5条の安全配慮義務との連動を意識した設計が不可欠です。
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4. 自治体条例の動向——名古屋圏の経営者が押さえるべき点
国の義務化に先行して、自治体レベルでの条例制定が急速に進んでいます。2025年4月1日には、東京都・北海道・群馬県・三重県桑名市で同時にカスハラ防止条例が施行されました(都道府県レベルの条例化は全国初)。
特に注目すべきは三重県桑名市の条例です。悪質な行為者に対して警告を行い、改善がない場合は氏名等を公表するという制裁措置が盛り込まれており、罰則を持たない東京都条例とは一線を画します。中京圏の経営者にとって、桑名市は地理的にも近く、取引先・顧客動向への影響を踏まえた検討が必要です。
愛知県内でも今後の条例化の動きが想定されますが、いずれにせよ2026年10月の国法施行により、全国一律で雇用管理上の措置義務がかかります。条例の有無を待つ理由はありません。
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5. 就業規則に盛り込むべき3条項とモデル条文
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条項@
カスハラの定義
改正法33条1項の定義に沿い、「顧客等の言動であって、社会通念上許容される範囲を超えたものにより従業員の就業環境が害されるもの」と規定します。具体例として、暴言・暴行・不当要求・長時間拘束・SNSでの誹謗中傷等を例示列挙すると現場で運用しやすくなります。
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【モデル条文】
本規程において「カスタマーハラスメント」とは、顧客、取引先、施設利用者その他会社の事業に関係を有する者からの言動であって、その手段または態様が社会通念上相当な範囲を超え、従業員の就業環境を害するものをいう。
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条項A
会社が従業員を守る義務
対応マニュアル整備・相談窓口設置・カスハラに対応した従業員への不利益取扱い禁止を明記します。労働契約法5条の安全配慮義務の履行を就業規則上で明示することで、従業員の心理的安全と会社の法的リスクヘッジを同時に実現できます。
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【モデル条文】
会社は、従業員がカスタマーハラスメントを受けた場合、速やかにその安全を確保するとともに、必要な保護措置を講ずる。会社にカスタマーハラスメントに関する相談を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことを理由として、従業員に対し解雇その他の不利益な取扱いをしない。
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条項B
取引拒絶・退店要請の根拠
悪質な顧客に対し、取引を継続しない判断ができる旨を明文化します。これがあるかないかで、現場マネージャーの動きやすさが大きく変わります。経営者の理念としての「お客様第一」と、現場の判断基準としての「悪質顧客との関係終了」を両立させる根拠条項です。
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【モデル条文】
会社は、カスタマーハラスメントを行った顧客等に対し、警告・退去要請・取引の停止または解除その他の必要な措置を講ずることができる。
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6. 現場運用でつまずきやすい3つの落とし穴
就業規則を整えても、運用段階で機能不全に陥るケースが少なくありません。当法人がクライアント企業を支援する中で、特に頻出するつまずきポイントを3つ挙げます。
@ 「お客様第一主義」の社風と現場マニュアルの矛盾 経営者の理念と現場対応指針が矛盾していると、従業員はどちらに従えばよいか判断できず、結局は我慢を強いられます。「お客様第一」と「従業員保護」は両立するという経営者自身のメッセージ発信が不可欠です。
A 通報窓口を作っても上司が握りつぶす ライン外の独立した相談ルートがないと、機能しません。社内窓口に加え、外部窓口(社労士・弁護士)の併用が有効です。
B 対応した従業員のメンタル不調を見逃す カスハラ対応後のフォロー面談・産業医連携を仕組みに組み込むことが重要です。一度の重度カスハラ対応が、PTSDや適応障害につながった裁判例も存在します。
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7. 施行までのタイムライン
残り約5か月。次の順序での整備を推奨します。
| 時期 |
取り組み内容 |
| 2026年5〜6月 |
指針(告示第51号)の精読、自社業種でのカスハラ実態の現状把握、経営者方針の策定 |
| 2026年6〜7月 |
就業規則改訂(3条項追加)、対応マニュアル作成、相談窓口の体制設計 |
| 2026年8〜9月 |
就業規則の意見聴取・労基署届出、管理職研修、全従業員への周知、想定問答訓練 |
| 2026年10月1日 |
改正法施行。以降、相談事案の記録・対応・フォロー面談の運用フェーズへ |
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8. 当法人が支援できること
社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、カスハラ対策義務化に向けた以下のご支援を行っています。経営者の理念と現場運用を矛盾なくつなぐ設計を、業種特性に応じてオーダーメイドで構築します。
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・就業規則のカスハラ条項追加・改訂(モデル条文の自社カスタマイズ) ・対応マニュアル作成支援(歯科医院・運送業・小売・サービス業など業種別) ・管理職向け/全従業員向け 社内研修の実施 ・外部相談窓口としての受託(独立性確保) ・カスハラ事案発生時の初動対応コンサルティング ・指針対応のアセスメント(自社の整備状況の総点検)
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OUR MISSION
経営者と共に歩き、最善の解を導き出す
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2026年10月の施行まで残り5か月。カスハラ対策の就業規則改訂・運用設計について、まずは無料相談をご利用ください。
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根拠法令・関連通達
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・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正後33条・34条) ・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(2025年6月11日公布) ・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第17号) ・事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号) ・労働契約法5条(安全配慮義務) ・東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(2025年4月1日施行) ・北海道・群馬県・三重県桑名市カスタマーハラスメント防止条例(2025年4月1日施行)
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【免責事項】本記事は2026年5月時点の法令・指針に基づく一般的な実務指針であり、個別事案への適用については別途検討が必要です。具体的なご対応については当法人までご相談ください。最新の施行状況は厚生労働省の公表情報を併せてご確認ください。
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AUTHOR
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 社員 特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
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