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作成日:2026/05/07
【裁判例】三菱UFJ銀行事件 ― 年収3,000万円「ジャパンストラテジスト」の整理解雇有効 職種限定合意があっても「配転打診」は必要
最新裁判例 ジョブ型雇用

三菱UFJ銀行事件 ― 年収3,000万円「ジャパンストラテジスト」の整理解雇有効
職種限定合意があっても「配転打診」は必要 ― ポスト滋賀県社協事件のスタンダード

2026年5月4日 | 社会保険労務士法人T&M Nagoya
📌 本記事のポイント
三菱UFJ銀行が行った年収3,000万円超の専門職男性の整理解雇を、東京地裁(令和6年9月20日)が有効とし、東京高裁(令和6年12月)も維持して確定した。
契約書に明文条項がなくとも、職務内容の特殊性・賃金水準等から「黙示の職種限定合意」が認定された。
職種限定合意があっても整理解雇4要素は適用される。配転命令権はないが、配転を「打診」する解雇回避努力は必要とされた。
滋賀県社会福祉協議会事件最高裁判決(令和6年4月26日)を整理解雇場面に適用した、ジョブ型雇用の実務指針となる重要判決。

はじめに ― ジョブ型雇用時代の「出口設計」が問われる時代へ

「ジョブ型雇用を導入したい」――。働き方改革と人的資本経営の文脈で、近年これほど経営者から相談を受けるテーマも少ないでしょう。職務記述書を整え、職種限定で人材を採用し、市場価値に連動した報酬を設計する。多様な働き方を実現する切り札として期待されてきた手法です。

しかし、当法人が必ずお伺いするのは「その職務がなくなったら、どうしますか?」という問いです。ジョブ型雇用は、業務消滅時の雇用終了をどう設計するかという最大の難題を抱えています。従来のメンバーシップ型雇用では「配転による雇用継続」が日本型労働法の根幹でしたが、職種を限定した契約のもとでは、その前提が崩れます。

この難問に対する重要な司法判断として注目されているのが、三菱UFJ銀行事件です。年収3,000万円超のジャパンストラテジストとして10年以上勤務した男性に対する整理解雇について、東京地裁(令和6年9月20日判決)が有効とし、東京高裁(令和6年12月)が維持し、上告なく確定しました。日本経済新聞をはじめ各紙が「ジョブ型解雇の新基準」として大きく報じた本件は、ジョブ型雇用の出口設計を考えるすべての企業が押さえるべき判決です。

1. 事案の背景

(1) 当事者と契約形態

原告X氏は、平成24年(2012年)5月、三菱UFJ銀行(以下「Y銀行」)との間で「特別嘱託」(総合職とは異なる雇用区分)として有期雇用契約を締結し、平成28年(2016年)4月から無期雇用契約に移行しました。Y銀行はX氏の入社に合わせて「ジャパンストラテジスト」業務を新設したとされています。

担当業務は、東京を拠点に円金利・日本経済に関する英文レポートを国内外の機関投資家向けに発信するアナリスト業務であり、X氏の年収は当初年2,000万円超、令和2年以降は年収3,000万円超の高水準となっていました。

▼ 裁判所が「黙示の職種限定合意」を認定した根拠
@ 総合職とは別個の「特別嘱託」という独自の雇用区分
A 10年以上にわたり同一の専門業務に従事
B 英文発信能力・市場分析能力という高度な専門性要件
C 一般行員と隔絶した高額報酬(年収3,000万円超)
契約書に職種限定の明文条項がなくとも、これらの事情を総合考慮すれば「黙示の職種限定合意」が認定されうるという、実務上極めて重要な判断です。

(2) 整理解雇に至る経緯

令和5年8月以降、Y銀行は市場業務の戦略再編を進め、円金利リサーチ機能をグループ内の証券会社(三菱UFJモルガン・スタンレー証券等)に集約する方針を決定。これに伴い、Y銀行内のジャパンストラテジスト業務そのものが廃止されることとなりました。

Y銀行はX氏に対し、複数の選択肢を提示しています。

▼ Y銀行が提示した解雇回避策
グループ会社(証券会社)への移管先での受入打診
年収2,000万円程度の為替セールス職への配置転換の提案
約4,600万円(年収約1.5年分)の再就職支援金を伴う合意退職案

X氏はこれらをいずれも拒否し、ジャパンストラテジスト業務の継続を求めましたが、Y銀行は令和5年6月26日付で整理解雇を通告。X氏は地位確認等を求めて提訴し、これが本件です。

2. 判決の要旨 ― 4つの判断ポイント

ポイント@ 黙示の職種限定合意の認定

裁判所は前述のとおり、契約書に明文条項がなくとも、雇用区分・職務歴・専門性・報酬水準を総合して、X氏とY銀行との間に黙示の職種限定合意が成立していたと認定。これは、令和6年4月26日最高裁判決(滋賀県社会福祉協議会事件)の判断枠組みを継承するものです。

ポイントA 職種限定合意があっても整理解雇4要素は適用される

裁判所は、職種限定合意の存在が整理解雇の有効性を否定する事情にはならないとしつつ、整理解雇には@人員削減の必要性、A解雇回避努力、B人選の合理性、C手続の妥当性の4要素が適用されると明示しました。ジョブ型雇用であっても、業務消滅イコール解雇自由ではなく、4要素の充足が必要であることが確認されています。

ポイントB 解雇回避努力としての「配転打診義務」

最も実務上重要な判断です。裁判所は、職種限定合意がある場合、会社は本人の同意なく配置転換を命じる権限はないとしつつ、解雇が労働者にもたらす不利益の大きさを踏まえると、配置転換を打診するなどの解雇回避努力を行うのが相当であると判示しました。

💡 ポスト滋賀県社協事件のスタンダード
配転命令権はないが、配転打診義務はある」――。これがジョブ型雇用における整理解雇場面の標準フレームワークとして、本判決により明確化されたものと考えられます。

ポイントC 解雇回避努力のハードル評価

注目すべきは、裁判所がY銀行の解雇回避努力を「打診で足りる」と評価し、メンバーシップ型雇用に比してそのハードルを相対的に緩やかに評価した点です。X氏が高度専門職で労働市場での競争力が高いこと、また高額の支援金が提示されていたことが、ハードル評価の文脈で考慮されたと解されます。

3. ジョブ型雇用における配転と解雇のフレームワーク

滋賀県社協事件最高裁判決と本件三菱UFJ銀行事件を統合すると、ジョブ型雇用における配転と解雇のルールは次のように整理できます。

場面 配転命令権 配転の打診 解雇回避努力
通常時 なし 任意
業務消滅・整理解雇時 なし 義務 必要(4要素)

4. 実務への示唆 ― 企業が今すぐ整備すべきこと

(1) ジョブ型雇用導入時の契約設計

✓ チェックポイント
職種限定合意の明確化:「職務記述書記載の職務に限定する」旨を契約書に明記し、紛争予防を図る
業務消滅時の手続規定:業務廃止・組織再編時の手続(配転打診プロセス、再就職支援等)を就業規則に規定
退職パッケージの事前設計:高額専門職には、業務消滅時の退職金上乗せ・再就職支援金等を事前設計

(2) 整理解雇に踏み切る前の必須プロセス

ジョブ型・メンバーシップ型を問わず、整理解雇を検討する場合、当法人が顧問先に推奨するプロセスは次のとおりです。

@ 業務消滅の客観的根拠の整理:取締役会決議・経営会議資料など、業務廃止の意思決定プロセスを文書化
A 配転候補職務の洗い出しと打診:本人のスキル・希望に応じた他職務候補をリストアップし、書面で打診
B グループ会社への転籍可能性の検討:自社単体ではなく、企業グループ全体での雇用継続可能性を探る
C 退職パッケージの提示:業界水準を踏まえた再就職支援金・退職金上乗せを書面で提示
D 本人との十分な協議:複数回・書面記録付きの面談を実施

(3)「打診」と「命令」の使い分け

職種限定合意がある場合、会社には配転命令権がない(滋賀県社協事件最高裁判決)一方で、配転打診義務はある(本件三菱UFJ銀行事件)。打診は本人の同意があれば実施可能ですが、同意がない場合は強制できません。打診をした事実は、解雇回避努力の充足を示す重要な証拠となります。

打診を行う際は、次の3点を必ず実施してください。

書面による打診:口頭ではなく書面で打診し、提示日付・職務内容・労働条件を明記
本人の検討期間の保障:少なくとも1〜2週間の検討期間を与える
拒否回答の文書化:本人が拒否した場合、その回答を書面で記録

(4) 高度専門職と一般職の区別

本判決は、X氏が高度専門職で労働市場での競争力が高いことを、解雇回避努力評価の文脈で考慮しています。逆に言えば、労働市場での再就職が困難な一般職・低賃金職には、より手厚い解雇回避努力が求められる可能性が示唆されています。当法人としては、解雇対象者の労働市場における競争力を客観的に評価し、それに応じた解雇回避努力を設計することを推奨いたします。

5. おわりに ― 「ジョブ型」を看板倒れにしないために

ジョブ型雇用は、職務の専門性と市場価値に応じた人事制度として、人的資本経営時代の重要な選択肢です。しかし、職種限定合意の法的効果を正しく理解せずに「ジョブ型」の看板だけを掲げると、業務消滅時に予想外の紛争を招くおそれがあります。

三菱UFJ銀行事件は、ジョブ型雇用と整理解雇の交錯領域における重要な判断として、人事担当者・経営者が必読の判決です。ゴールデンウィーク明けに「ジョブ型雇用を検討中」とご相談を受けたら、まず本判決を共有し、契約設計と業務消滅時のプロセスを具体的に詰めていただきたいと考えます。

経営者の皆様におかれては、ジョブ型雇用が「解雇しやすい雇用」ではなく、専門性に応じた契約と、業務消滅時の出口設計を一体で考える雇用であることをご確認いただき、納得感のある制度運用を進めていただきたく存じます。

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根拠法令・参考資料

【判例】
●三菱UFJ銀行事件・東京地判令和6年9月20日(労働経済判例速報2579号15頁)/東京高判令和6年12月(上告なく確定)
●滋賀県社会福祉協議会事件・最二小判令和6年4月26日

【参考条文】
●労働契約法第16条(解雇権濫用法理)
●民法第1条第2項・第3項(信義則・権利濫用)

【参考資料】
●日本経済新聞「ジョブ型社員、解雇は容易? 三菱UFJ判決が示した『新条件』」(2025年11月)
●労働新聞社「三菱UFJ銀行事件(東京地判令6・9・20)」
●弁護士 師子角允彬「三菱UFJ銀行事件」(労働経済判例速報2579号15頁解説)
【免責事項】本記事は2026年5月4日時点の情報に基づき作成しております。判決の解釈・実務対応については個別事情により異なりますので、具体的事案については当法人または専門家にご相談ください。本記事の利用により生じた損害について、当法人は責任を負いかねます。
執筆
監修
三重 英則 / Mie Hidenori
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士・経営心理士・経営法曹会議賛助会員
〔IPO労務監査/M&A労務デューデリジェンス/ジョブ型雇用導入支援/職務記述書整備〕
所在地:愛知県名古屋市中区/https://www.mh5.jp/