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📌 本記事のポイント
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「ジョブ型雇用を導入したい」――。働き方改革と人的資本経営の文脈で、近年これほど経営者から相談を受けるテーマも少ないでしょう。職務記述書を整え、職種限定で人材を採用し、市場価値に連動した報酬を設計する。多様な働き方を実現する切り札として期待されてきた手法です。
しかし、当法人が必ずお伺いするのは「その職務がなくなったら、どうしますか?」という問いです。ジョブ型雇用は、業務消滅時の雇用終了をどう設計するかという最大の難題を抱えています。従来のメンバーシップ型雇用では「配転による雇用継続」が日本型労働法の根幹でしたが、職種を限定した契約のもとでは、その前提が崩れます。
この難問に対する重要な司法判断として注目されているのが、三菱UFJ銀行事件です。年収3,000万円超のジャパンストラテジストとして10年以上勤務した男性に対する整理解雇について、東京地裁(令和6年9月20日判決)が有効とし、東京高裁(令和6年12月)が維持し、上告なく確定しました。日本経済新聞をはじめ各紙が「ジョブ型解雇の新基準」として大きく報じた本件は、ジョブ型雇用の出口設計を考えるすべての企業が押さえるべき判決です。
原告X氏は、平成24年(2012年)5月、三菱UFJ銀行(以下「Y銀行」)との間で「特別嘱託」(総合職とは異なる雇用区分)として有期雇用契約を締結し、平成28年(2016年)4月から無期雇用契約に移行しました。Y銀行はX氏の入社に合わせて「ジャパンストラテジスト」業務を新設したとされています。
担当業務は、東京を拠点に円金利・日本経済に関する英文レポートを国内外の機関投資家向けに発信するアナリスト業務であり、X氏の年収は当初年2,000万円超、令和2年以降は年収3,000万円超の高水準となっていました。
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▼ 裁判所が「黙示の職種限定合意」を認定した根拠
契約書に職種限定の明文条項がなくとも、これらの事情を総合考慮すれば「黙示の職種限定合意」が認定されうるという、実務上極めて重要な判断です。
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令和5年8月以降、Y銀行は市場業務の戦略再編を進め、円金利リサーチ機能をグループ内の証券会社(三菱UFJモルガン・スタンレー証券等)に集約する方針を決定。これに伴い、Y銀行内のジャパンストラテジスト業務そのものが廃止されることとなりました。
Y銀行はX氏に対し、複数の選択肢を提示しています。
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▼ Y銀行が提示した解雇回避策
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X氏はこれらをいずれも拒否し、ジャパンストラテジスト業務の継続を求めましたが、Y銀行は令和5年6月26日付で整理解雇を通告。X氏は地位確認等を求めて提訴し、これが本件です。
裁判所は前述のとおり、契約書に明文条項がなくとも、雇用区分・職務歴・専門性・報酬水準を総合して、X氏とY銀行との間に黙示の職種限定合意が成立していたと認定。これは、令和6年4月26日最高裁判決(滋賀県社会福祉協議会事件)の判断枠組みを継承するものです。
裁判所は、職種限定合意の存在が整理解雇の有効性を否定する事情にはならないとしつつ、整理解雇には@人員削減の必要性、A解雇回避努力、B人選の合理性、C手続の妥当性の4要素が適用されると明示しました。ジョブ型雇用であっても、業務消滅イコール解雇自由ではなく、4要素の充足が必要であることが確認されています。
最も実務上重要な判断です。裁判所は、職種限定合意がある場合、会社は本人の同意なく配置転換を命じる権限はないとしつつ、解雇が労働者にもたらす不利益の大きさを踏まえると、配置転換を打診するなどの解雇回避努力を行うのが相当であると判示しました。
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💡 ポスト滋賀県社協事件のスタンダード
「配転命令権はないが、配転打診義務はある」――。これがジョブ型雇用における整理解雇場面の標準フレームワークとして、本判決により明確化されたものと考えられます。
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注目すべきは、裁判所がY銀行の解雇回避努力を「打診で足りる」と評価し、メンバーシップ型雇用に比してそのハードルを相対的に緩やかに評価した点です。X氏が高度専門職で労働市場での競争力が高いこと、また高額の支援金が提示されていたことが、ハードル評価の文脈で考慮されたと解されます。
滋賀県社協事件最高裁判決と本件三菱UFJ銀行事件を統合すると、ジョブ型雇用における配転と解雇のルールは次のように整理できます。
| 場面 | 配転命令権 | 配転の打診 | 解雇回避努力 |
|---|---|---|---|
| 通常時 | なし | 任意 | ― |
| 業務消滅・整理解雇時 | なし | 義務 | 必要(4要素) |
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✓ チェックポイント
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ジョブ型・メンバーシップ型を問わず、整理解雇を検討する場合、当法人が顧問先に推奨するプロセスは次のとおりです。
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職種限定合意がある場合、会社には配転命令権がない(滋賀県社協事件最高裁判決)一方で、配転打診義務はある(本件三菱UFJ銀行事件)。打診は本人の同意があれば実施可能ですが、同意がない場合は強制できません。打診をした事実は、解雇回避努力の充足を示す重要な証拠となります。
打診を行う際は、次の3点を必ず実施してください。
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本判決は、X氏が高度専門職で労働市場での競争力が高いことを、解雇回避努力評価の文脈で考慮しています。逆に言えば、労働市場での再就職が困難な一般職・低賃金職には、より手厚い解雇回避努力が求められる可能性が示唆されています。当法人としては、解雇対象者の労働市場における競争力を客観的に評価し、それに応じた解雇回避努力を設計することを推奨いたします。
ジョブ型雇用は、職務の専門性と市場価値に応じた人事制度として、人的資本経営時代の重要な選択肢です。しかし、職種限定合意の法的効果を正しく理解せずに「ジョブ型」の看板だけを掲げると、業務消滅時に予想外の紛争を招くおそれがあります。
三菱UFJ銀行事件は、ジョブ型雇用と整理解雇の交錯領域における重要な判断として、人事担当者・経営者が必読の判決です。ゴールデンウィーク明けに「ジョブ型雇用を検討中」とご相談を受けたら、まず本判決を共有し、契約設計と業務消滅時のプロセスを具体的に詰めていただきたいと考えます。
経営者の皆様におかれては、ジョブ型雇用が「解雇しやすい雇用」ではなく、専門性に応じた契約と、業務消滅時の出口設計を一体で考える雇用であることをご確認いただき、納得感のある制度運用を進めていただきたく存じます。
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ジョブ型雇用導入・職務記述書整備のご相談
当法人は、ジョブ型雇用導入支援、職種限定契約の設計、退職パッケージ設計まで伴走支援いたします
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| 【判例】 ●三菱UFJ銀行事件・東京地判令和6年9月20日(労働経済判例速報2579号15頁)/東京高判令和6年12月(上告なく確定) ●滋賀県社会福祉協議会事件・最二小判令和6年4月26日 【参考条文】 ●労働契約法第16条(解雇権濫用法理) ●民法第1条第2項・第3項(信義則・権利濫用) 【参考資料】 ●日本経済新聞「ジョブ型社員、解雇は容易? 三菱UFJ判決が示した『新条件』」(2025年11月) ●労働新聞社「三菱UFJ銀行事件(東京地判令6・9・20)」 ●弁護士 師子角允彬「三菱UFJ銀行事件」(労働経済判例速報2579号15頁解説) |
| 【免責事項】本記事は2026年5月4日時点の情報に基づき作成しております。判決の解釈・実務対応については個別事情により異なりますので、具体的事案については当法人または専門家にご相談ください。本記事の利用により生じた損害について、当法人は責任を負いかねます。 |
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