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作成日:2026/05/04
【裁判例】シフト表に「公休」と書くだけでは休日振替は無効 ― ヴィドウ事件(東京地判令和6年9月17日)が示したシフト運用の落とし穴
最新労働裁判例

シフト表に「公休」と書くだけでは休日振替は無効
― ヴィドウ事件(東京地判令和6年9月17日)が示したシフト運用の落とし穴

2026年5月1日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

📌 本記事の要点

東京地裁は、シフト制で勤務するパーソナルトレーニングジムのトレーナーに対し、シフト表に「公休」とだけ記載していた事業者の運用について、休日振替の要件を満たさないと判断し、休日労働分の割増賃金(3割5分以上)の支払いを命じました。シフト制を採用する事業所にとって、シフト表の記載方法と振替手続を抜本的に見直す契機となる重要判例です。

そもそも「振替休日」と「代休」はどう違うのか

本判例を理解する前提として、混同されやすい「休日の振替(振替休日)」と「代休」の違いを整理します。両者は法的効果が大きく異なります。

区分 振替休日(事前振替) 代休(事後付与) 割増賃金
手続のタイミング 休日労働を行う前に、休日と労働日を入れ替える 休日労働を行った後に、代償として別日に休ませる
法的効果 当初の休日が「労働日」に変わる→休日労働は発生しない 休日労働は発生済み(消えない)
法定休日労働の
割増賃金(3割5分)
不要 必要 労基法37条
必要な手続 就業規則等の根拠規定+事前の特定+通知 就業規則等の根拠規定(法令上は付与義務なし)

1. 事案の概要

被告会社(Y社)は、東京都内で予約制パーソナルトレーニングジムを経営する株式会社です。原告(X氏)はトレーナーとしてY社に雇用され、顧客のトレーニング指導業務に従事していました。

Y社の就業規則では、所定休日は「業務のシフトに準ずるものとする」と規定され、振替休日に関する規定も整備されていました。Y社は、原告に対して事前にシフト表を交付し、その中に「公休」「労」等の記載で勤務日と休日を指定していました。

【判例情報】

事件名 ヴィドウ事件
裁判所 東京地方裁判所
判決日 令和6年(2024年)9月17日
出典 労働判例1340号80頁/労働判例ジャーナル157号36頁
判決の方向性 原告労働者の請求を一部認容(割増賃金等の支払を命令)

2. 争点

本件で原告は、日曜日その他の所定休日に勤務した日について、Y社が休日労働の割増賃金(3割5分以上)を支払っていないと主張しました。これに対しY社は、シフト表で振替休日を指定していたため、当該日曜日の労働は休日労働に当たらない(休日振替が成立している)と反論しました。

本件の中心的な争点は、「シフト表に『公休』と記載することによって、労働基準法上の休日振替が適法に成立したといえるか」という点です。

3. 裁判所の判断

東京地裁は、休日振替が認められるためには、「労働者に対し、あらかじめ振替休日の日を指定し、特定の休日を労働日とする旨を通知することを要する」との判断枠組みを示したうえで、Y社のシフト表について次のように述べ、休日振替の効力を否定しました。

▼ 判決理由(要旨)

被告が主張するシフト表の原告の欄には、「公休」等の記載があるだけで、振替休日の日として指定されたと理解しうる記載が見当たらない。仮に「公休」の記載が振替休日の日を指定したものであるとしても、シフト表において「公休」と記載された日がどの労働日の振替休日であるのかを示す記載がなく、労働日となる特定の休日や振替休日の日が原告に適切に通知されていたのかは判然としない。したがって、シフト表に基づく被告の休日の取扱いは、休日の振替に関する要件を満たすものとは認められない。

裁判所は、就業規則に振替休日の規定があり、シフト表が事前に交付されていたとしても、シフト表の記載自体が「振替の対応関係(どの労働日と振り替えた休日なのか)」を明示していない以上、休日振替の要件を満たさないと判断しました。

4. 休日振替が有効に成立するための要件

判例・行政解釈(昭和23年4月19日基収1397号、昭和63年3月14日基発150号)が要求する、休日振替の有効要件は以下のとおりです。

✓ 休日振替の有効要件(4点セット)

@ 就業規則・労働協約等に休日振替の根拠規定があること
A 振替の対象となる「元の休日」と「振替先の労働日(新たな休日)」が事前に特定されていること
B 振替先の休日が、振替前と近接した期間内にあること(4週4休等の法定休日の確保)
C 振替の事実が事前に労働者に通知されていること

ヴィドウ事件で問題となったのは、特に要件A(特定)と要件C(通知)です。シフト表に「公休」と書いただけでは、それが「いつの労働日の振替なのか」が示されません。労働者は自分の休日と労働日がどのように入れ替わったのかを認識できません。判決はこの「対応関係の不明確さ」を厳しく問題視したものといえます。

5. シフト表運用:NG例とOK例

本判決を踏まえ、シフト制を採用する事業所のシフト表運用を、NG例と推奨される運用(OK例)で比較します。

❌ NG例(ヴィドウ事件のような運用) ✓ OK例(推奨される運用)
シフト表の記載例:
5月10日(日):労
5月15日(金):公休
5月20日(水):労

→ どの労働日とどの公休が振替の対応関係にあるか不明
シフト表の記載例:
5月10日(日):労(5/15と振替)
5月15日(金):振替公休(元5/10)
5月20日(水):労

→ 振替の対応関係が一目で明確
通知方法:
シフト表交付のみ。振替の事実を別途明示せず。

→ 通知の事前性・特定性が不十分
通知方法:
シフト表+振替命令書(書面)を事前交付。労働者の確認署名を取得。

→ 後日紛争時の証拠としても有効
結果:
休日振替が無効と判断され、休日労働として3割5分の割増賃金支払義務が発生
結果:
休日振替が有効に成立。所定休日の労働は通常労働として処理可能

6. 経営者・人事担当者が今すぐ確認すべき5つのポイント

STEP 1 就業規則の振替規定を確認

「業務上の必要があるときは、所定休日と労働日を振り替えることができる」旨の根拠規定が就業規則に存在するかを確認します。規定がない場合、振替の根拠を欠くため、まず規定整備が必要です。

STEP 2 シフト表の様式を見直す

「労」「公」とだけ記載する従来様式は、ヴィドウ事件の判旨に照らし無効と判断されるリスクが高い運用です。「振替元」と「振替先」の対応関係を明示する備考欄を追加するなど、シフト表の様式を改訂します。

STEP 3 振替命令書の発行を制度化

シフト表とは別に、「振替元の休日」「振替先の労働日」「通知日」「労働者の確認」を明記した振替命令書を書面・電子データで発行・保管する運用を制度化します。後日の紛争予防に有効です。

STEP 4 法定休日の確保を確認

労働基準法35条は週1日(または4週4日)の法定休日を求めています。週をまたぐ振替を行うと、ある週に法定休日が存在しなくなる事態が起こり得ます。振替先の労働日選定時に法定休日が確保されているかを必ずチェックします。

STEP 5 振替と代休の使い分けを整理

事後的な「休んでもらう」運用は、振替ではなく代休として処理することを基本とします。代休であれば、休日労働は休日労働として処理し、3割5分の割増賃金を発生させたうえで別途代休を付与する形が、労務管理上はむしろシンプルです。

7. シフト制業種に潜む過去にさかのぼってのリスク

ヴィドウ事件の判旨は、シフト制を採用する以下のような業種に直接の影響があります。

フィットネス・スポーツジム(パーソナルトレーニングジム、ヨガスタジオ、整体院)、美容・理容業(美容室、ネイルサロン、エステサロン)、飲食業(レストラン、居酒屋、カフェ)、小売業(コンビニ、スーパー、アパレル)、医療・介護業(病院、診療所、介護施設)、宿泊業(ホテル、旅館)など、定休日を設けず年中無休でシフト運用を行っている事業所では、シフト表の記載方法が適法な振替の要件を満たしているかの点検が急務です。

⚠ 賃金請求権の消滅時効に注意

労働基準法115条により、賃金請求権の消滅時効は本則5年、当分の間は3年とされています(令和2年4月施行)。退職した労働者から3年分の未払割増賃金を請求された場合、企業が負担する金額は事業規模によっては経営に重大な影響を及ぼします。さらに、労基法114条の付加金(裁判所が命じた場合は同額が上乗せ)が認められれば負担はさらに増加します。

8. まとめ ― シフト表の運用は「事務処理」ではなく「法務」

ヴィドウ事件が示した最大のメッセージは、「シフト表の作成は単なる事務処理ではなく、労働基準法に直結する法的行為である」という認識を経営者・人事担当者に求めるものです。

「とりあえず別日に休ませればよい」「シフト表に公休と書いておけば法的にも休みとして扱われる」――こうした感覚的な運用が、退職者からの未払割増賃金請求として顕在化する事例は今後も増加することが予想されます。退職代行サービスの利用拡大、SNSでの労務情報の流通、労働基準監督署へのオンライン申告制度の整備といった環境変化により、労働者が自身の権利を行使しやすくなっているためです。

本日5月1日はメーデー(労働者の日)です。本判決を契機として、自社のシフト運用を一度棚卸しし、「振替は事前・特定・通知の3要素を満たして初めて有効」という基本原則に立ち返った運用へとアップデートすることを強くおすすめします。

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【根拠法令・行政解釈】

労働基準法第35条(休日)、第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、第114条(付加金の支払)、第115条(時効)/昭和23年4月19日基収1397号、昭和63年3月14日基発150号(休日振替に関する行政解釈)/昭和23年7月5日基発968号(振替日の近接性に関する行政解釈)

【免責事項】

本記事は、執筆時点における裁判例・法令・行政解釈に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な事案への法的助言を行うものではありません。実際の労務管理・労使紛争への対応にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆者

三重 英則(みえ ひでのり)

社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員

特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員
「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションとし、シフト制業種の労務管理、就業規則整備、労使紛争予防に注力。

【出典・参考文献】

・労働判例1340号80頁/労働判例ジャーナル157号36頁 ヴィドウ事件(東京地判令和6年9月17日)
・労働新聞社「ヴィドウ事件 東京地判令和6・9・17 シフト制で休日出勤、公休増やせば割増不要か 適法に振り替えたといえず」
・厚生労働省「シフト制労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項」
・行政解釈:昭和23年4月19日基収1397号、昭和63年3月14日基発150号、昭和23年7月5日基発968号