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📌 この記事の要点 ・東京高裁が「1年間の有期雇用契約」を実質的に 試用期間付き無期労働契約 と認定 |
「最初の1年は契約社員として様子を見て、問題がなければ正社員登用します」
「正社員として募集をかけたが、採用決定の段階で1年の有期雇用契約として提示する」
中小企業の採用現場では、こうした運用がいまなお広く行われているのが実態です。正社員としての雇用を約束する前にお互いの適性を確認したい、いきなり無期で採用するのはリスクが大きい――経営者のこうした気持ちは十分に理解できます。
しかし、その「1年間の契約社員」という制度設計は、本当に会社の思惑どおりに機能するでしょうか。
東京高裁は2025年4月10日、広告大手TBWA HAKUHODOの事件で「1年間の有期雇用契約は、実質的には試用期間にすぎず、本件労働契約は期間の定めのない無期労働契約である」との判断を示しました(TBWA HAKUHODO事件・東京高判令和7年4月10日/労働判例1338号5頁)。
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🔖 当法人のスタンス 結論から申し上げると、当法人は「正社員募集をしながら、試用目的で有期労働契約を締結する」という採用手法を、基本的にはおすすめしておりません。理論上は適法に運用する余地があるとしても、本件のような紛争が実際に発生している実態を踏まえれば、会社が負うリスク・コストに見合うだけのメリットは乏しいと考えるためです。本稿では、なぜ当法人がこのスタンスを採るのか、その理由と、それでも試用目的の有期契約を運用する場合に最低限押さえるべき要件を、判例を踏まえて解説します。 |
以下では、本判決の事実関係と裁判所の判断を正確に整理したうえで、経営者・人事担当者が今すぐ着手すべき実務対応について、名古屋の社会保険労務士法人として解説します。
Y社は、マスメディアを通じた広告・宣伝業務を手がける広告代理店です。Xは人材紹介会社を通じて、Y社の翻訳・通訳チームの求人に応募しました。Y社は従前、正社員として採用する者についても、原則として最初の1年間は契約社員(有期雇用)として採用し、適性が認められた者についてのみ期間の定めのない労働契約を締結するという採用方法を取っていました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 令和3年12月 | Xが人材紹介会社を通じてY社の求人に応募 |
| 令和4年2月16日 | オファー面談:人事局長Cが「長めの試用期間のようなものと考えていただければ。来年には正社員です」等と説明。提示資料に試用期間の記載なし |
| 令和4年2月17日 | 内定通知書兼労働条件通知書を交付(試用期間に関する記載なし) |
| 令和4年2月18日 | Xが内定を受諾 |
| 令和4年3月1日 | 就業開始。雇用契約書を作成。契約期間は「1年間」、かつ第6条には「入社発令日から3か月間の試用期間を設ける」と明記 |
| 令和5年1月頃 | Y社がXに対し、さらに1年間の有期労働契約として契約更新を申し入れ。しかしXは「正社員登用されないのは不当」としてこれを拒否 |
| 令和5年3月1日以降 | 1年の雇用期間満了後もXはY社で就業を継続。Y社から毎月37万5000円の賃金を受領 |
| 令和5年4月12日 | Xが東京簡易裁判所に民事調停を申立て |
| 令和5年7月10日 | 調停不成立。Y社は同日、Xに対し翌日以降の勤務を控えるよう告知 |
| 令和5年7月22日 | Xが期間の定めのない労働契約上の地位確認等を求めて訴訟提起 |
| 令和6年9月26日 | 第一審(東京地裁)判決。Xの請求を認容 |
| 令和7年4月10日 | 控訴審(東京高裁)判決。一審判断を補充のうえほぼ維持。Y社は上告・上告受理申立て中 |
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▶ ここが重要:「雇止めされた労働者」の事案ではない 本件は「会社が雇止めを強行した」という事案ではありません。Y社は令和5年1月にむしろ有期労働契約としての更新を申し入れており、これを拒否したのはX側(正社員登用を求めたため)です。しかし裁判所は、そもそも1年の期間の定めが「試用期間」である以上、Y社の更新申入れが期間満了の労働契約の「更新」ではなく、留保解約権の行使(実質的な本採用拒否)にも当たらないとして、無期労働契約の存続を認めました。 |
裁判所は、試用期間の法的性質について「解約権留保付の労働契約」とした最高裁大法廷判決(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)を踏まえたうえで、「形式上は有期雇用契約であっても、その実質が適性評価のための試用であれば、試用期間付き無期労働契約と解するのが相当」という従来の判例法理に従って判断を行いました。
裁判所は、以下の3点を重視して「本件の1年間の期間の定めは、契約の存続期間ではなく試用期間である」と判断しました。
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【根拠@】社内の採用運用実態 Y社では従前、正社員として採用する者に対しても、原則として最初の1年間は契約社員として有期雇用契約を締結し、この期間が経過した時点で適任と認められた者に限り、期間の定めのない労働契約を締結するという採用方法が社内運用として定着していた。 |
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【根拠A】オファー面談での説明内容 オファー面談において、人事局長Cが、本件労働契約における1年間の期間の定めが試用期間を設けるものであり、1年後には正社員となる旨を説明していた。 |
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【根拠B】労働者の契約意思の前提 X自身、こうした採用運用や面談時の説明を前提として内定を受諾し、本件労働契約を締結した。 |
Y社は訴訟において、「雇用契約書第6条には入社発令日から3か月間の試用期間を設けることが明記されており、もし1年間の期間の定めも試用期間だとすれば、試用期間中にさらに試用期間が設けられることになり不自然かつ不合理である」と強く反論しました。
しかし裁判所は、書面上の契約期間の体裁(1年の有期+3ヶ月試用)よりも、採用に至る経緯と社内の運用実態の方を重視しました。雇用契約書に機械的に記載された文言よりも、採用面談で実際に説明された内容・社内の採用フロー全体が、契約の真の趣旨を示すものとして採用された形です。
本判決は、雇用契約書に「雇用期間:1年間」と明記され、さらに別途「試用期間3ヶ月」の規定まで置かれていたにもかかわらず、1年の期間の定め自体を「試用期間」と認定しました。これは、書面の記載形式だけで有期雇用の有効性を確保できるという一般的な実務感覚を根本から揺るがすものです。
「長めの試用期間のようなもの」「来年には正社員」という採用担当者の発言が、雇用契約書の記載を事実上無力化しました。採用現場でごく自然に使われる言い回しが、後に数百万円の賃金支払義務を発生させる法的リスクを孕んでいるということです。
近年、中途採用の実務では「まず1年の有期雇用で働いてもらい、適性を見てから正社員登用する」という運用を採る企業が増えています。この運用そのものが、裁判所に「試用期間付き無期労働契約」と認定されるリスクを内包していることを本判決は明確に示しました。
冒頭で述べたとおり、当法人としては「正社員募集+試用目的の有期契約」という採用手法そのものを推奨しません。本章で紹介するスキーム要件を満たせば理論上は適法に運用できる余地があるとしても、以下のような理由から、経営者の負担・リスクに見合わないと考えるためです。
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⚠️ 当法人が推奨しない理由 @ 紛争に発展した実例が現実に存在する:本件TBWA HAKUHODO事件が示すとおり、運用がわずかでも不徹底であれば、実際に裁判所に持ち込まれ、数百万円規模の賃金支払命令が下されます。 |
したがって、本章の内容は「このスキームを積極的に推奨する」ものではなく、「すでにこの運用を行っている企業が、当面の紛争リスクを最小化するために最低限押さえるべき要件」として参照していただきたいものです。その上で、最終的には次章以降で提案する「通常の試用期間付き無期雇用への切り替え」をご検討いただくことを強く推奨します。
試用目的の有期契約の法的性質について基点となるのは、神戸弘陵学園事件(最判平成2年6月5日民集44巻4号668頁)です。同最高裁判決は次のように判示しました。
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「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」 |
つまり、適性判断のための有期契約は原則として「試用期間」と解釈されるが、「特段の事情」が認められれば真の有期契約と扱われるということです。実務上は、この「特段の事情」をいかに立証できる形で構築するかが勝負となります。
明治安田生命保険事件(東京地判令和5年2月8日労働判例1327号97頁)は、「特段の事情」が認められて試用目的の有期契約が真の有期契約として扱われた近時の重要判例です。
同事件では、生命保険会社が採用した営業職員について、第1期間(1か月)と第2期間(1か月を上限2回更新)の「アドバイザー見習嘱託契約」という終期が明確に定まった有期契約を締結していました。見習契約終了後に採用基準を満たせば、「MYライフプランアドバイザー」としての別の無期労働契約を新たに締結するという二段構えの仕組みです。
東京地裁は、「労働者の適性を把握するために有期労働契約を締結すること自体は許容されている」としたうえで、「本件見習契約においてはその終期が明示的に定まっている以上は、これを試用期間と解することはできない」として、神戸弘陵学園事件の射程を明確に否定しました。
福原学園(九州女子短期大学)事件(最判平成28年12月1日労判1156号5頁)は、1年契約を上限3年で運用していた短大講師について、雇止めを有効とした最高裁判例です。
最高裁が重視したのは、@契約職員規程に「更新限度は3年」「無期化は短大が必要と認めた場合」と明確に規定されていたこと、A労働者も規程の内容を十分に認識した上で契約を締結していたこと、B過去に3年満了後に無期化されなかった契約職員が複数存在したことです。これらの事情から「当然に無期化する合意があったとは認められない」と判断されました。
上記3つの判例を総合すると、試用目的の有期契約が「試用期間付き無期契約」と認定されないための要件(=「特段の事情」を立証できる契約設計)は、以下のように整理できます。
| # | 要件 | 具体的設計 |
|---|---|---|
| @ | 終期の明示と「当然終了」条項 | 契約書に契約期間の始期・終期を明記し、「契約期間満了により本労働契約は当然に終了する」旨の条項を設ける |
| A | 有期契約と無期契約の完全分離 | 試用目的の有期契約と、その後の無期契約を「全く別個の契約」として設計。採用基準を満たした場合に「新たに」無期労働契約を締結する形式(更新ではない) |
| B | 登用基準・判断手続きの規程整備 | 就業規則または登用規程に「有期契約満了時の無期転換は会社が必要と認めた場合に限る」「勤務成績・適性等の判断基準」を明文化 |
| C | 採用時の明確な認識合致 | 採用前に労働者に対し、@〜Bの契約内容を書面で明示し、署名・押印を受ける。「無期化は会社の判断であり、当然のものではない」ことの認識確認を行う |
| D | 説明内容の完全な整合性 | 採用面談・内定通知書・労働条件通知書・雇用契約書・就業規則のすべてにおいて、「試用期間のようなもの」「1年後には正社員」等の発言・記載を一切しない |
| E | 運用実態の統一 | 過去の運用において、全員を自動的に無期化しているのではなく、基準を満たさない者は実際に無期化していない実績を有する。正社員と有期契約社員の処遇差を明確にする |
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⚠️ 正社員募集→有期契約提示の落とし穴 「正社員として求人を出しておきながら、採用決定の段階で1年の有期契約を提示する」という運用は特に危険です。求職者は正社員採用を期待して応募しており、面接等で「将来正社員になる前提」の発言が少しでもあれば、神戸弘陵学園事件と同じ構図で「試用期間」認定されるリスクが極めて高くなります。求人票の段階から「試用目的の有期契約社員として採用し、成績・適性を判断のうえ無期登用の可能性がある」旨を明示することが最低限の出発点となります。 |
以上のスキーム要件と、TBWA HAKUHODO事件の事実関係を対比させると、Y社の運用がなぜ否定されたかが明確になります。
| 要件 | TBWA HAKUHODO事件のY社 | 判断 |
|---|---|---|
| @終期明示・当然終了条項 | 雇用契約書には1年の期間明記あり | △ 不十分 |
| A有期と無期の契約分離 | 有期→正社員の「更新」としての運用 | ✕ |
| B登用基準の規程整備 | 契約社員就業規則11条は「3ヶ月」の試用期間のみ規定 | ✕ |
| C採用時の明確な認識合致 | 面談提示資料・内定通知書に試用期間・登用基準の記載なし | ✕ |
| D説明内容の整合性 | 面談で「長めの試用期間」「来年には正社員」発言 | ✕ 致命的 |
| E運用実態の統一 | 「原則として最初の1年は契約社員」という全員適用運用 | ✕ |
要件のほぼすべてを満たしていなかったことが、裁判所の判断を決定づけた構図と言えます。逆に言えば、これら6つの判断要素を真摯に整備すれば、試用目的の有期契約を適法に運用する余地は十分に残されています。
上記6tの判断要素をすべて満たす運用は、中小企業にとって現実的に重い負担となります。また、運用の一部でも形骸化すれば、たちまち「試用期間付き無期契約」と認定されるリスクが復活します。当法人は、こうした不安定な運用を続けるよりも、最初から「試用期間付き無期雇用契約」として採用し、試用期間中の本採用拒否を適切に運用するほうが、はるかに堅実な経営判断であると考えます。
| 比較項目 | ✕ 試用目的の有期契約 | ◯ 試用期間付き無期契約 |
|---|---|---|
| 求人票との整合性 | 「正社員募集」と齟齬が出やすい | 正社員募集と整合する |
| 適性判断の実効性 | 1年間(長すぎて短期判断できない) | 3〜6ヶ月で機動的に判断可能 |
| 本採用拒否の可否 | 期間満了の「雇止め」は労契法19条の制約あり | 客観的合理的理由があれば本採用拒否可能(三菱樹脂事件) |
| 書類整備の負担 | 6要件すべての整備が必要(重い) | 就業規則への試用期間規定で足りる |
| 紛争リスク | 運用不徹底で即座に「試用期間認定」 | 判断基準が判例上確立しており予測可能 |
| 求職者への訴求力 | 「契約社員スタート」で応募減の懸念 | 「正社員採用」で応募増が期待できる |
中小企業が人材獲得に苦戦する現在、「正社員募集」という条件そのものが強力な採用競争力になっています。そこであえて「1年契約社員からスタート」という運用を採ることは、採用競争力を自ら削ぎつつ、法的紛争リスクも抱え込むという、二重に不利な選択と言わざるを得ません。
「採用のミスマッチが怖い」という経営者の気持ちは十分理解できます。しかし、その解決策は試用目的の有期契約ではなく、@採用選考段階でのミスマッチ防止(丁寧な面接・職場見学・リファレンスチェック)、A就業規則への試用期間規定の整備、B試用期間中の観察・指導・記録の徹底、C問題があれば試用期間中に毅然と本採用拒否を行う運用、という王道のアプローチで十分対応可能です。
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✓ 実務チェックリスト □ チェック@ 採用面談・オファー面談での説明マニュアルを整備しているか? □ チェックA 「1年後には正社員」「試用期間のようなもの」という趣旨の発言を禁止する運用になっているか? □ チェックB 「有期雇用」と「試用期間付き無期雇用」のどちらの制度を採用しているのかが社内で統一的に理解されているか? □ チェックC 雇用契約書の記載と、就業規則・採用運用実態との間に齟齬がないか? □ チェックD 採用担当者向けの法的リスク研修を実施しているか? |
そもそも、適性評価のために利用できる制度には、法的性質の異なる2類型があります。
| 制度 | 法的性質 | 期間満了時の処理 |
|---|---|---|
| 試用期間(無期雇用) | 留保解約権付き無期労働契約 | 本採用拒否には「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要(解雇権濫用法理が修正適用) |
| 有期労働契約 | 期間の定めのある労働契約 | 期間満了で終了が原則。ただし労働契約法19条の雇止め法理の適用あり |
本事件の最大の問題は、「有期雇用契約」と表示しつつ、実態として「試用期間」のように運用し、採用面談でも「試用期間のようなもの」と説明していたという、制度設計の二重性にあります。どちらの制度を利用するのか、社内で一本化することが必要です。
前章で述べたとおり、当法人としては試用目的の有期契約自体を推奨しませんが、現にこの運用を行っている企業が、移行期間中に紛争リスクを最小化するためには、採用面談での説明スクリプトを判例スキームと整合させることが必須です。オファー面談での発言は、後日の紛争時に労働者にとって最重要の証拠となります。
以下の対比表は、「試用期間付き無期」と認定されないための最低限の説明設計です。自社の採用面談マニュアルの点検にご活用ください。
| ✕ やってはいけない説明(試用期間認定リスク) | ◯ 適切な説明(「特段の事情」を立証) |
|---|---|
| ・「最初の1年は様子見のようなもの」 ・「1年後には正社員になれます」 ・「試用期間のようなものだから、問題なければ正社員です」 ・「長めの試用期間と思っていただければ」 ・「問題なく働いてもらえれば自動的に正社員」 |
・「本契約は1年間の有期労働契約であり、期間満了により労働契約は当然に終了します」 ・「無期労働契約(正社員)への登用は、本契約の『更新』ではなく、新たな契約の締結です」 ・「登用は当社の登用規程に基づく評価で判断し、基準を満たさない場合は無期化しません」 ・「過去にも基準未達で無期化に至らなかった事例があります」 |
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💡 説明チェックリスト(面談時に労働者から書面確認を取るべき5項目) □ 契約期間の終期と、期間満了により当然終了することの認識 |
雇用契約書には「1年の有期雇用」と書きつつ、面談では「実質的に試用期間」と説明する―このような運用は、本判決により明確に否定されました。雇用契約書・内定通知書・労働条件通知書・オファー面談資料・就業規則のすべてにおいて、契約の性質と将来の処遇についての説明が一貫していることを確認する必要があります。
有期雇用から正社員への登用制度を運用するのであれば、就業規則または登用規程において、登用の判断基準・評価期間・手続き・時期等を明文化することが望ましい対応です。制度として明確化することで、「事実上は試用期間」と認定されるリスクを軽減できます。
本件のような紛争は、採用担当者の「悪意のない一言」から生じます。採用に関わるすべての社員に対して、発言一つひとつが法的効果を持ちうることを理解させる研修体制の整備が不可欠です。
TBWA HAKUHODO事件が実務に投げかけたメッセージは明確です。雇用契約の性質は、契約書の文言だけでなく、採用経緯・説明内容・社内運用実態を総合して判断される、ということです。
確かに、明治安田生命保険事件・福原学園事件で示されたとおり、試用目的の有期契約そのものが違法というわけではありません。適切なスキーム設計と一貫した運用があれば、「特段の事情」を立証して真の有期契約として機能させることは理論上可能です。しかし、本件のように紛争が現実に発生している実態を踏まえれば、そのリスク・コストは中小企業にとって決して軽いものではありません。
当法人が中小企業の経営者の皆様に推奨する採用設計は、次のようなシンプルなものです。
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✓ T&M Nagoyaが推奨する採用設計(王道) @ 求人票・採用時から「正社員(試用期間3〜6ヶ月付き)」として明示する この王道の設計のほうが、採用競争力・法的安定性・経営者の心理的負担のいずれの観点からも、試用目的の有期契約より優れていると当法人は考えます。 |
Y社は現在、本判決に対し上告・上告受理申立てを行っており、最高裁の動向にも注目が集まります。しかし、最高裁の判断を待つまでもなく、経営者・人事責任者の皆様には、今すぐ自社の採用フローを「王道」に整え直すことを強くお勧めします。
社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、試用期間付き無期雇用への移行支援、就業規則・採用関連書類の整備、採用担当者向けの法的リスク研修、試用期間中の本採用拒否判断のサポートまで、採用に関わる労務リスクを一貫してサポートいたします。経営理念「顧客のために」のもと、経営者と共に歩き、最善の解を導き出すことを使命としています。「ウチはずっと1年契約社員からスタートでやってきた」「正社員募集なのに有期契約を提示している」――少しでも思い当たる節がある経営者様は、手遅れになる前に、ぜひ一度ご相談ください。
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【本件判決】 【参照判例】 【根拠法令】 |
本記事は、TBWA HAKUHODO事件(東京高判令和7年4月10日)について、執筆時点で公表されている情報に基づき作成したものであり、一般的な情報提供を目的としています。本件は最高裁における上告・上告受理申立てが係属中であり、最高裁の判断によっては結論が変更される可能性があります。個別具体的な事案への対応については、必ず社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた行為の結果について、当法人は一切の責任を負いかねます。
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AUTHOR 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員 名古屋を拠点に、IPO労務監査・M&Aデューデリジェンス・休職制度設計を強みとする社会保険労務士法人。経営者に寄り添い、「顧客のために」最善の解を共に導くことを理念としています。採用時の雇用契約設計、就業規則整備、労働トラブル対応まで、労務に関するあらゆるご相談を承ります。 |