作成日:2026/04/20
【実務】専門業務型裁量労働制を徹底解説 ― 対象20業務の具体的範囲・ 経営者が知るべき実務上の落とし穴 ―
| 労務解説 裁量労働制 |
専門業務型裁量労働制を徹底解説 ― 対象20業務の具体的範囲・2024年改正・ 経営者が知るべき実務上の落とし穴 ― |
| 2026年4月16日|社会保険労務士法人T&M Nagoya |
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📌 この記事の要点
● 専門業務型裁量労働制は、労基法38条の3に基づく「みなし労働時間制」。対象は省令・告示で限定列挙された20業務のみ ● 2024年4月改正で@本人の同意が必須化 A健康・福祉確保措置の拡充 BM&Aアドバイザリー業務の追加 C既存導入企業も手続きやり直しの4点が変更 ● 対象業務の該当性は部署名や資格ではなく「業務の実態」で判断される。誤適用は未払い残業代請求リスクに直結 ● みなし労働時間制であっても深夜・休日割増賃金は別途発生し、労働時間の客観的把握義務は免除されない |
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「裁量労働制を導入したいが、自社の業務が対象に当たるのかわからない」「2024年4月の改正で何が変わったのか、まだ対応できていない」――そんな声を経営者・人事担当者の方からよく伺います。
裁量労働制は、業務の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ね、あらかじめ定めた「みなし労働時間」で賃金を算定する制度です。専門業務型(労基法38条の3)と企画業務型(同法38条の4)の2類型がありますが、本記事では専門業務型裁量労働制に焦点を絞り、対象20業務の具体的な範囲、2024年改正の実務対応、そして「知らないと危険な落とし穴」まで、社労士の視点から徹底的に解説します。 |
| 1. 専門業務型裁量労働制とは ― 制度の基本を正確に理解する |
■ 「みなし労働時間制」の一種
専門業務型裁量労働制とは、労働基準法が定める「みなし労働時間制」の一種です。実際に何時間働いたかに関係なく、労使であらかじめ定めた時間(みなし労働時間)を労働したものとみなして賃金を計算します。
たとえば、みなし労働時間を「1日8時間」と定めた場合、実際の労働が6時間でも10時間でも、賃金計算上は8時間働いたものとして扱います。ただし、これはあくまで所定労働日の法定労働時間帯の賃金計算の話であり、以下の割増賃金は別途発生する点が極めて重要です。 |
⚠ 裁量労働制でも発生する割増賃金
❶ みなし時間が法定労働時間(8時間)を超える場合 → 超過分に25%以上の時間外割増(毎月固定で発生) ❷ 深夜労働(22時〜翌5時) → 実労働時間に基づき25%以上の深夜割増 ❸ 法定休日労働 → 実労働時間に基づき35%以上の休日割増 ❹ 週の法定労働時間超過 → 例:みなし8時間×週6日出勤=48時間の場合、40時間超の8時間分に時間外割増 |
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■ 他の制度との混同に注意
裁量労働制は、よく似た名前の制度と混同されがちです。フレックスタイム制は始業・終業時刻を自由に決められる制度ですが、実労働時間に基づいて賃金を計算する点が異なります。固定残業代(みなし残業代)制は残業代の支払い方を固定しているだけで、労働時間の算定方法を変える制度ではありません。高度プロフェッショナル制度(労基法41条の2)は年収1,075万円以上の特定高度専門職を対象に労働時間規制自体を適用除外にする制度であり、裁量労働制とは根本的に異なります。 |
| 2. 対象20業務の一覧と「該当しない業務」の具体例 |
専門業務型裁量労働制の対象は、「業務の性質上、遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務」として、厚生労働省令(労基法施行規則24条の2の2第2項)および大臣告示(同項第6号)で限定列挙された20業務のみに適用できます。
この20業務に該当しなければ、専門業務型裁量労働制は一切適用できません。以下、各業務の具体的な範囲と「該当しない」ケースを解説します。 |
| ■ 省令で定める業務(労基法施行規則24条の2の2第2項第1号〜第5号) |
| No. |
対象業務 |
具体的範囲・該当しないケース |
| @ |
新商品・新技術の研究開発、人文科学・自然科学に関する研究 |
研究開発部門が対象。× 既存製品の品質管理・検査業務は該当しない |
| A |
情報処理システムの分析又は設計 |
ニーズ把握から要件定義・設計を主体的に行う業務。× 仕様書どおりにコーディングするだけの業務は該当しない(プログラマーの全てが対象ではない) |
| B |
新聞・出版の取材・編集、放送番組制作の取材・編集 |
記者・編集者が対象。× 校正のみの業務、印刷工程管理は該当しない |
| C |
衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザインの考案 |
クリエイティブな「考案」が要件。× テンプレートに沿ったバナー作成等、裁量性の低い制作作業は該当しない(裁判例あり) |
| D |
放送番組・映画等の制作のプロデューサー・ディレクター |
× AD(アシスタントディレクター)やカメラマン等は該当しない |
| ■ 大臣告示で定める業務(施行規則24条の2の2第2項第6号・厚生労働大臣指定) |
| No. |
対象業務 |
具体的範囲・該当しないケース |
| E |
コピーライター(広告等の文章案の考案) |
キャッチコピー・広告文案の考案。× 商品説明文の定型的な作成は該当しない |
| F |
システムコンサルタント |
情報処理システムに関する助言・相談。Aの「分析・設計」とは区別される |
| G |
インテリアコーディネーター |
室内装飾の企画・助言。× 家具の販売・営業のみの業務は該当しない |
| H |
ゲーム用ソフトウェアの創作 |
ゲームの企画・シナリオ・プログラム創作。× デバッグ(テスト)のみの業務は該当しない |
| I |
証券アナリスト |
有価証券の分析・投資助言。× 単純な株式売買の事務処理は該当しない |
| J |
金融工学等を用いた金融商品の開発 |
デリバティブ等の金融商品設計。× 既存商品の販売・営業は該当しない |
| K |
大学における教授研究(主として研究に従事するもの) |
× 専ら講義のみを担当する場合や、大学以外の教育機関は該当しない |
| L |
銀行又は証券会社におけるM&Aアドバイザリー業務 (2024年4月追加) |
顧客のM&Aに関する調査・分析およびこれに基づく考案・助言。× コンサルティング会社・PEファンド・M&A仲介会社は対象外。また「調査・分析」と「考案・助言」を1人で両方行うことが要件(分業は不可) |
| M〜S |
公認会計士 / 弁護士 / 建築士(一級・二級・木造) / 不動産鑑定士 / 弁理士 / 税理士 / 中小企業診断士 |
いずれも当該資格に基づく専門業務に従事していることが要件。× 資格を持っていても、専ら当該資格業務以外の業務(一般管理業務等)を行う場合は該当しない |
⚠ 最重要ポイント:「対象業務と非対象業務の混在」は原則不可
厚生労働省Q&A(Q4-4)では、対象業務と非対象業務を混在して行う場合、たとえ非対象業務が短時間であっても、それが予定されている場合は全体として専門業務型を適用することができないと明確にされています。
例外として、臨時的に非対象業務に従事した場合は、対象業務の部分のみなし労働時間と非対象業務の実労働時間を合計した時間がその日の労働時間となります。
→ 「SEだから裁量労働制」「デザイナーだから裁量労働制」という安易な適用は極めて危険です。業務の実態を個別具体的に判断する必要があります。 |
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| 3. 2024年4月改正の4つのポイント ― 何が変わったのか |
改正@:専門業務型でも「本人の同意」が必須に
改正前は企画業務型にのみ求められていた本人の同意が、2024年4月以降は専門業務型にも義務化されました。同意は書面・電子メール等の記録に残る方法で取得が必要です。
さらに重要な点として、以下が定められています。 ▶ 同意に先立ち、制度の概要(みなし労働時間を含む)、賃金・評価制度、不同意の場合の配置・処遇を明示したうえで説明すること ▶ 同意の撤回手続きを労使協定に定めること(撤回を認めない旨の定めは不可) ▶ 同意しなかった労働者・撤回した労働者への不利益取扱いの禁止 ▶ 同意・撤回の記録を協定有効期間中+満了後3年間保存 |
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改正A:健康・福祉確保措置の拡充
全員対象の措置(勤務間インターバル、深夜労働回数制限等)から1つ以上、個々の状況に応じた措置(医師面接指導、制度適用の解除等)から1つ以上を実施することが望ましいとされています。
単に「措置を講じます」と書くだけでは不十分で、「月の在社時間が200時間を超えた場合は翌月に医師面接を実施する」等の具体的な発動基準まで落とし込む必要があります。 |
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改正B:M&Aアドバイザリー業務の追加 / 改正C:既存導入企業も手続きやり直し
改正B:20番目の業務として銀行・証券会社のM&Aアドバイザリー業務が追加(前述のとおり対象は銀行・証券会社に限定)。
改正C:2024年3月末時点で既に導入済みの事業場でも、改正後の要件を反映した新しい労使協定の締結と届出が必要でした。「うちはもう導入済みだから問題ない」という認識は危険です。まだ対応が完了していない場合は、速やかに新協定の締結と届出を行ってください。
なお、労使協定の自動更新は認められていません。有効期間は3年以内とすることが望ましいとされています(厚労省Q&A 8-3)。 |
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| 4. 導入に必要な手続き ― 労使協定の必須記載事項 |
専門業務型裁量労働制を導入するには、労働者の過半数で組織する労働組合(またはそれがない場合は過半数代表者)と書面による労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
2024年改正後の労使協定に定めるべき事項は以下のとおりです。 |
| No. |
記載事項 |
ポイント |
| 1 |
対象業務の範囲 |
20業務のうち自社で適用する業務を具体的に特定 |
| 2 |
みなし労働時間 |
「1日○時間」の形式で設定(週・月単位は不可)。実態との乖離は無効リスク |
| 3 |
具体的指示をしないこと |
業務遂行の手段・時間配分について使用者が具体的指示を出さない旨を明記 |
| 4 |
健康・福祉確保措置 |
具体的な措置内容と発動基準を明記。2024年改正で拡充 |
| 5 |
苦情処理措置 |
苦情の申出先・処理方法を定める |
| 6 |
本人の同意と同意撤回の手続き (2024年改正で追加) |
個別に同意を取得する手続き・撤回手続きを定める。撤回不可の定めは認められない |
| 7 |
不利益取扱い禁止 (2024年改正で追加) |
同意しなかった・撤回した場合の不利益取扱いをしない旨を定める |
| 8 |
記録の保存 |
同意・撤回の記録を有効期間中+満了後3年間保存(電磁的記録も可) |
| 9 |
協定の有効期間 |
3年以内が望ましい。自動更新は不可。有効期間ごとに同意を再取得 |
落とし穴❶ 「打刻は不要」と周知してしまう 裁量労働制であっても、労働安全衛生法66条の8の3により労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務があります。タイムカード、ICカード、PC使用時間記録等が必要。「裁量労働制だから打刻は不要です」は完全な誤りです。 |
落とし穴❷ 深夜・休日の割増計算を失念する 「みなし労働時間でカバーされている」と思い込み、深夜割増や休日割増を支払っていない。これは未払い残業代請求につながる典型パターンです。深夜帯・休日の労働は実労働時間ベースで別途計算が必要です。 |
落とし穴❸ みなし時間と実態の乖離を放置する みなし8時間なのに、在社時間が恒常的に10時間超 → 労使協定の有効性自体が問われるリスクがあります。定期的に在社時間を分析し、必要に応じてみなし時間の見直しや業務量調整を行うことが不可欠です。 |
落とし穴❹ 対象外の業務を「対象業務」として適用してしまう 裁判例では、風俗ポータルサイトのバナー制作業務が「広告等のデザインの考案」に該当しないと判断された事例があります。部署名や肩書ではなく業務の実態で判断されるため、導入前に必ず専門家に確認してください。 |
| 6. まとめ ― 適正な運用で企業と労働者双方にメリットを |
専門業務型裁量労働制は、正しく運用すれば企業にとっては人件費の予測可能性向上と成果ベースの働き方推進、労働者にとっては業務遂行の自律性確保という双方にメリットをもたらす制度です。
しかし、要件を満たさない適用、労働時間管理の不備、みなし時間と実態の乖離は、未払い残業代の請求や労基署の是正勧告につながりかねません。
まずは以下の3点から着手することをお勧めします。 |
✅ 専門業務型裁量労働制 セルフチェックリスト
| ☐ 自社の対象業務は20業務のいずれかに該当するか、業務実態で確認したか |
| ☐ 対象業務と非対象業務の混在がないか確認したか |
| ☐ 2024年改正に対応した新しい労使協定を締結・届出済みか |
| ☐ 対象労働者本人から個別に同意を取得し、記録を保存しているか |
| ☐ みなし労働時間は業務の実態に即した水準か(乖離が常態化していないか) |
| ☐ 深夜・休日労働の実労働時間を客観的に把握し、割増賃金を支払っているか |
| ☐ 健康・福祉確保措置の具体的な発動基準を協定に定めているか |
| ☐ みなし時間が8時間超の場合、36協定を締結・届出済みか |
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| ※ 初回相談は無料です。労使協定の作成・届出代行、就業規則の見直しも対応しています。 |
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📖 根拠法令・参考資料
・労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条の3 ・労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第24条の2の2 ・厚生労働大臣の指定する業務(平成9年労働省告示第7号、令和5年厚生労働省告示第115号による改正後) ・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8の3 ・厚生労働省「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」(令和5年8月作成、同年11月追加) ・厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」(令和6年4月版) ・施行通達:基発0802第7号(令和5年8月2日) |
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| ※ 本記事は上記の法令・行政資料および公開情報に基づき、経営者・人事担当者の皆様への情報提供を目的として作成しています。裁量労働制の対象業務への該当性判断や具体的な労使協定の作成については、個別事案ごとの検討が必要です。導入にあたっては社会保険労務士または弁護士にご相談ください。 |
執筆者 三重 英則(みえ ひでのり) 社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員 特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員 |