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作成日:2026/04/07
【裁判例】シフト表に「公休」と書くだけでは休日振替にならない ──ヴィドウ事件(東京地判令6.9.17)が示した実務上の教訓
判例解説 シフト制・休日振替
シフト表に「公休」と書くだけでは休日振替にならない
──ヴィドウ事件(東京地判令6.9.17)が示した実務上の教訓
2026.04.06|社会保険労務士法人T&M Nagoya

「シフト表で公休を増やしているから、休日出勤しても割増賃金は不要だろう」──こうした認識のまま運用を続けていませんか?

2024年9月17日、東京地方裁判所はヴィドウ事件において、シフト制パーソナルトレーニングジムが行っていた休日の取扱いについて、適法な休日振替の要件を満たさないと判断し、時間外・休日割増賃金等の支払いを命じました。

シフト制を採用する企業にとって、「振替休日」と「代休」の区別は未払い賃金リスクに直結する重大な論点です。本記事では、本判決のポイントを整理し、経営者・人事担当者が取るべき実務対応をわかりやすく解説します。

📌 この記事の要点
・シフト表の「公休」欄だけでは、振替休日の日が特定されたとはいえない
・適法な休日振替には、@就業規則の根拠規定、A事前の振替日の特定、B労働者への適切な通知が必要
・要件を満たさない「振替休日」は法的には代休にすぎず、休日労働の割増賃金(35%以上)の支払い義務が発生
・付加金(同額の制裁金)を命じられるリスクもあり、経営への影響は甚大

1. 事案の概要
被告会社は、東京都内で予約制パーソナルトレーニングジムを経営していました。原告はトレーナーとして被告との間で雇用契約を締結し、就労していました。
🏢 事件の基本情報
事件名 ヴィドウ事件
裁判所・判決日 東京地方裁判所 令和6年9月17日判決
業種 予約制パーソナルトレーニングジム
原告の請求 時間外・深夜・休日労働に対する割増賃金等の支払い
被告の主張 就業規則に振替休日の規定あり、シフト表で振替日を指定済みだから休日振替は有効
結論 休日振替の要件を満たさず、割増賃金等+付加金の支払いを命令
原告は、時間外、深夜および休日労働に対する割増賃金が支払われていないとして、その支払いを求めました。これに対し被告は、振替休日に関する就業規則を整備し従業員に周知したうえ、日曜日の出勤を予定している原告に対し、振替休日となる日を明記したシフト表を事前に示していたのだから休日の振替が認められる、と反論しました。

本記事では、休日振替の争点に絞って解説します。

2. 判決のポイント──裁判所はなぜ「振替」を認めなかったのか
裁判所は、休日の振替が認められるためには以下の要件を満たす必要があるとしたうえで、被告の運用はいずれの要件も充足していないと判断しました。
⚖️ 裁判所が示した判断の枠組み
休日の振替が認められるためには、労働者に対し、あらかじめ振替休日の日を指定し特定の休日を労働日とする旨を通知することを要する。
そのうえで、裁判所は以下の3つの理由から被告の主張を退けました。
❶ 振替休日の日が特定されていない
被告が主張するシフト表の原告の欄には「公休」等の記載があるだけで、振替休日の日として指定されたと理解しうる記載が見当たらない。「公休」という記載が振替休日の日の指定を意味するものであることを裏付ける証拠もなかった。
❷ 労働日との対応関係が不明
仮に「公休」の記載が振替休日の日の指定だとしても、シフト表において「公休」と記載された日がどの労働日の振替休日であるのかを示す記載がなく、労働日となる特定の休日や振替休日の日が原告に適切に通知されていたのかは判然としなかった。
❸ 就業規則の周知の有無にかかわらず結論は同じ
被告の就業規則が従業員に周知されていたかどうかにかかわらず、上記の要件を満たしていない以上、休日振替は認められない。被告の主張は採用できず、休日振替の要件を満たすものとは認められない。
その結果、裁判所は原告の請求を一部認容し、時間外等割増賃金と同額の付加金の支払いも命じました(労基法第114条)。

3. 改めて確認──「振替休日」と「代休」の決定的な違い
本判決の解説者である牛嶋勉弁護士(経営法曹会議)は、本件で当事者が「振替休日」という名称を使用しているものの、法律的には代休であり、しかも代休を取得していなかった事案であると指摘しています。

この区別は、割増賃金の要否に直結するため、正確に理解しておく必要があります。
区分 振替休日(休日の振替) 代休
タイミング 事前に休日と労働日を入れ替える 休日労働を行った事後に別の日を休みにする
法的効果 元の休日は「労働日」に変わる→休日労働にならない 休日労働の事実は消えない→休日労働として扱われる
割増賃金 法定休日の35%割増は不要
※週をまたぐ場合で40時間超の場合の時間外割増は必要
法定休日の35%割増が必要
要件 @就業規則の根拠規定
A事前に振替日を特定
B労働者への通知
C法定休日(週1日/4週4日)の確保
就業規則上の根拠規定(代休付与の場合)
本件のように、シフト表に「公休」と記載するだけで、どの労働日と対応する振替なのかが不明確な場合、法的には振替休日とは認められません。名称だけ「振替休日」としていても、実態が要件を満たしていなければ「代休」扱い(あるいは代休すら付与されていない休日労働)となり、割増賃金の支払い義務が生じます。

4. 休日振替の要件──行政通達の整理
休日の振替に関しては、古くから行政通達が要件を示しています。本判決の理解を深めるため、主要な通達を整理します。
通達 内容
昭23.4.19 基収1397号
昭63.3.14 基発150号
就業規則に休日振替の規定を設け、あらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えた場合は、当該休日は労働日となり、休日に労働させることにはならない
昭23.7.5 基発968号
昭63.3.14 基発150号
就業規則等においてできる限り休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定することが望ましい。振替日はできる限り近接した日が望ましい
昭22.11.17 基発401号
昭63.3.14 基発150号
休日振替により当該週の労働時間が法定労働時間(週40時間)を超えるときは、その超えた時間は時間外労働となり、36協定および割増賃金の支払いが必要
本判決は、これらの通達が示す「あらかじめ振り替えるべき日を特定」「労働者への通知」という要件を厳格に適用した結果、シフト表に「公休」と記載するだけでは不十分と判断したものです。

5. 実務上の留意点──シフト制企業が今すぐ確認すべきこと
本判決を踏まえ、シフト制を採用する企業が確認すべき実務対応を整理します。
✅ 休日振替の適法チェックリスト
就業規則に休日振替の根拠規定があるか
「業務の都合により、あらかじめ休日を他の日と振り替えることがある」等の規定が必要です。
振替日を「事前に」かつ「具体的に」特定しているか
「○月○日(日曜)を労働日とし、代わりに○月○日(水曜)を休日とする」のように、どの休日とどの労働日を入れ替えるのかが明確でなければなりません。
労働者に適切に通知しているか
シフト表への一般的な記載だけでなく、対象の労働者に対し、振替の事実と振替日が明確にわかる形で通知する必要があります。少なくとも前日の勤務終了時刻までに通知することが求められます。
法定休日(週1日or4週4日)が確保されているか
振替を行った結果、法定休日の基準を下回ることは許されません。
週またぎの場合、時間外割増の処理ができているか
振替が異なる週にまたがる場合、振替先の週の労働時間が40時間を超えれば、その超過分に対して25%以上の時間外割増賃金の支払いが必要です。

6. シフト表の改善例──「公休」だけでは足りない
本判決は、シフト表の記載方法に具体的な示唆を与えています。以下に、改善前・改善後の記載例を示します。
✕ 改善前(本件のような記載)
氏名
Aさん 9-18 公休 9-18 公休 9-18 9-18 9-18
→「公休」がどの労働日との振替なのか不明。振替休日として認められない可能性が高い。

◎ 改善後(振替関係を明示)
氏名
Aさん 9-18 振休
(日→火振替)
9-18 振休
(日→木振替)
9-18 9-18 出勤
(振替労働日)
→どの休日とどの労働日が入れ替わったのかが一目で分かる。別途、書面通知や記録の保存も行うとより安全。

7. 経営者が押さえるべきリスクと対応策
本判決を「小規模ジムの話だから自社には関係ない」と捉えるのは危険です。シフト制を導入している飲食業、小売業、介護・医療、フィットネス業界など幅広い業種に共通するリスクを含んでいます。
⚠️ 放置した場合のリスク
@ 未払い割増賃金の遡及請求:賃金請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払日が到来する分について当面3年(労基法第115条、附則第143条第3項)。従業員数や期間次第では数百万円規模になることもあります。

A 付加金:裁判所は未払い金と同額の付加金の支払いを命じることができます(労基法第114条)。実質的に請求額が倍になるリスクです。

B 労基署の是正勧告:1人の申告をきっかけに全従業員分の調査・是正が求められる可能性があります。

C レピュテーションリスク:労働判例として公表されれば、採用活動にも悪影響を及ぼしかねません。

📋 今すぐ取り組むべきアクション
STEP 1 就業規則の休日振替条項を確認・見直す。振替事由と手続きが具体的に規定されているか。
STEP 2 シフト表のフォーマットを改善する。振替元(労働日化する休日)と振替先(休日化する労働日)の対応関係を明記する欄を設ける。
STEP 3 振替の通知方法を確立する。書面やメール等の記録が残る方法で、対象の労働者に事前通知を行い、通知日時を記録として保存する。
STEP 4 賃金台帳・勤怠記録を点検する。過去の「振替休日」が本当に要件を満たしていたか確認し、不備があれば早期に精算を検討する。
STEP 5 管理者教育を行う。シフト作成権限を持つ店長・現場リーダーに対して、振替休日と代休の違いを周知し、適法な運用を徹底させる。

8. まとめ
ヴィドウ事件は、シフト制における休日振替の運用について、名称ではなく実態で判断されるという原則を改めて確認した重要判例です。

「公休を増やしているから大丈夫」は通用しません。

適法な休日振替には、@就業規則の根拠規定、A事前の振替日の具体的特定、B労働者への適切な通知──この3要件を確実に満たすことが求められます。

私たち社会保険労務士法人T&M Nagoyaは、「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をMISSIONに掲げ、シフト制の労務管理の見直しから就業規則の改定、過去の運用リスクの洗い出しまで、トータルでサポートしています。

「うちの振替休日の運用は大丈夫だろうか?」と少しでも不安を感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。

シフト制の労務管理を見直したい方はこちら

📖 根拠法令・関連通達
・労働基準法第35条(休日)
・労働基準法第37条第1項(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
・労働基準法第89条第1号(就業規則の作成及び届出の義務)
・労働基準法第114条(付加金の支払い)
・労働基準法第115条(時効)
・昭23.4.19 基収1397号、昭63.3.14 基発150号(休日振替の要件)
・昭23.7.5 基発968号、昭63.3.14 基発150号(振替日の特定・近接)
・昭22.11.17 基発401号、昭63.3.14 基発150号(振替と割増賃金)

📚 出典・参考文献
・「ヴィドウ事件(東京地判令6・9・17)シフト制で休日出勤、公休増やせば割増不要か 適法に振り替えたといえず」労働新聞社、令和8年3月16日第3537号14面掲載(解説:牛嶋勉弁護士・経営法曹会議)
・厚生労働省 各行政通達
・連合「労働相談Q&A 21.休日振替と代休」

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別具体的な事案に対する法的助言を行うものではありません。実際の労務管理や法的対応にあたっては、社会保険労務士、弁護士等の専門家にご相談ください。
※記載内容は2026年4月時点の法令・判例に基づいています。

執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員