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作成日:2026/03/30
【裁判例】労組が設置した立看板の撤去は不当労働行為か?─ 京都大学ほか事件(京都地判令7・6・26)
判例解説|不当労働行為|施設管理権|組合活動
【判例解説】労組が設置した立看板の撤去は不当労働行為か?
── 京都大学ほか事件(京都地判令7・6・26)から読み解く施設管理権のポイント
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員 三重英則
特定社会保険労務士・経営心理士|紛争解決経験20年以上
大学のキャンパスに長年設置されてきた労働組合の立看板を、大学が一斉撤去──。
この撤去行為は「不当労働行為」にあたるのでしょうか?

本稿では、京都地裁令和7年6月26日判決(京都大学ほか事件)を素材に、施設管理権と組合活動の権利が衝突する場面で、使用者が押さえるべき実務ポイントを解説します。

※本件は控訴審(大阪高裁令和8年2月26日判決)でも一審判断が維持されています。組合側は上告予定。
📋 判決の概要
事件名 京都大学ほか事件
裁判所・日付 京都地裁 令和7年6月26日判決(齋藤聡裁判長)
原告 京都大学の教職員で構成される労働組合
被告 国立大学法人京都大学 / 京都市
請求額 計550万円の損害賠償
結論 請求棄却(組合側の全面敗訴)
控訴審(大阪高裁R8.2.26)も一審維持
1|事案の経緯
京都大学の教職員組合は、少なくとも1960年代からキャンパスの外構部分に立看板(通称「タテカン」)を設置し、組合の存在や活動内容を周知してきました。
2017年11月 京都市が京都大学に対し、キャンパス周辺の立看板が京都市屋外広告物条例に違反しているとして行政指導を実施。
2018年5月 大学が立看板規程を制定。指定場所以外の立看板に撤去通告を貼付後、組合の看板を含め一斉撤去
2020年6月 組合が改めて看板を設置 → 大学が約3時間後に撤去
2021年4月 組合が京都大学・京都市を被告として提訴。計550万円の損害賠償を請求。
2025年6月 京都地裁、組合側の請求を全面棄却。
→ 2026年2月 大阪高裁も控訴を棄却し、一審を維持。
2|3つの争点と裁判所の判断
本件では、大きく3つの争点が審理されました。各争点について、裁判所の判断を整理します。
争点@  条例・行政指導の憲法適合性
【組合の主張】
屋外広告物条例を京都大学に適用することは、表現の自由(憲法21条)を侵害し違憲である。
【裁判所の判断】
条例は過度に広範な規制を課すものとはいえず、違憲との主張は採用できない。行政指導にも違法性はない。
争点A【核心】  撤去行為は不当労働行為か?
【組合の主張】
看板設置は長年の「労使慣行」であり、大学が一方的に規程を制定して撤去することは組合活動を妨害する不当労働行為(労組法7条3号)にあたる。
【裁判所の判断】
大学には施設管理権に基づく裁量があり、組合に看板設置の権利は当然には認められない。事実上の黙認は法的な「労使慣行」とは評価できない。撤去は条例適合が目的であり、組合活動の妨害目的は否定
争点B  撤去は許されない「自力救済」か?
【組合の主張】
裁判等の法的手続を経ずに実力で撤去したことは、許されない自力救済にあたる。
【裁判所の判断】
敷地管理権に基づく正当な行為であり、自力救済には該当しない。
3|判決の論理構造 ── なぜ「不当労働行為」は否定されたのか
裁判所の判断の骨格を図式化すると、以下のようになります。
前提 ── 大学は敷地の管理権を有する
立看板の設置を認めるか否かは大学の裁量
判断@ ── 組合に看板設置の「権利」は認められない
施設管理権者に対して設置を求める権利は当然には発生しない
判断A ── 長年の黙認 ≠ 法的な「労使慣行」
不特定多数の団体が入れ替わり設置していた事実は、大学による積極的承認と評価できない
判断B ── 撤去の目的は「条例違反の是正」
組合を狙い撃ちした撤去ではなく、全体の条例適合のための行動
結論 ── 不当労働行為(労組法7条3号)の成立を否定
4|企業実務への示唆 ── 4つのポイント
本判決から、経営者・人事労務担当者が汲み取るべき実務上のポイントを整理します。
1 施設管理権の行使には「客観的根拠」が必要
本件で大学が認められた最大の要因は、条例適合という客観的根拠に基づいて行動した点です。「なぜ撤去するのか」を明確にし、文書で通知したうえで行動することが重要です。感情的・恣意的な撤去は不当労働行為と評価されるリスクがあります。
2 「黙認」を「慣行」にしない管理を
本判決は事実上の黙認が直ちに労使慣行にはならないと判示しましたが、あくまで本件の個別事情に基づく判断です。「許可していないが黙認している」という曖昧な状態を放置すれば、将来的に労使慣行と認定されるリスクが高まります。施設利用のルールは明文化し、定期的に見直すことが予防法務の基本です。
3 撤去した物品は「廃棄せず保管・通知」が鉄則
本件で大学は撤去した看板を組合の事務所に届けています。撤去物は廃棄せず保管し、組合に引取りを通知する対応が、紛争拡大を防ぐうえで有効です。
4 施設管理権の行使と団交義務は「両立」させる
施設管理権があるからといって、組合との交渉を拒否してよいわけではありません。団体交渉の申入れには誠実に応じつつ、施設管理権を行使する——この二つを両立させることが、リスクを最小化する要諦です。
5|まとめ ── 適法な施設管理権行使の3条件
本判決の教訓を、実務で使えるチェックリストとして整理します。

目的の
正当性


法令遵守・安全確保等
客観的な根拠があるか

手続の
適正性


事前通知・説明の実施
撤去物の保管・通知

組合差別の
不存在


組合を狙い撃ちに
していないこと
正当な目的に基づき、適正な手続を踏んだ施設管理権の行使は、
不当労働行為には該当しない。
── ただし、目的の合理性や手続の適正さを欠く場合は、不当労働行為と評価される可能性がある。
関連法令
・憲法21条(表現の自由)
・憲法28条(団結権・団体交渉権)
・労働組合法7条3号(支配介入の禁止)
・屋外広告物法
・京都市屋外広告物等に関する条例
・労働判例 令和8年3月23日第3538号14面
「まだ問題が起きていない段階」こそ、相談のベストタイミングです。
私たち社会保険労務士法人T&M Nagoyaは、「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションに掲げ、施設管理権と組合対応の両面から経営者の皆さまに寄り添い続けます。

組合対応、施設管理ルールの整備、団体交渉への備え、就業規則の見直しなど、お気軽にご相談ください。

年間相談件数350件以上 / 紛争解決経験20年以上 / 法律事務所との連携体制
VALUES:誠・Think more・伴走
※本稿は判決の概要を解説するものであり、個別の法律問題については弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
※本件は上告審が予定されており、今後の展開により判断が変わる可能性があります。