| コラム |
社労士は本当に稼げるのか?
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2025年|社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員 三重英則 |
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「社労士は食えない」「AIに仕事を奪われる」──SNSや掲示板では、こうした声がよく聞かれます。 |
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しかし、2024年11月に全国社会保険労務士会連合会が発表した大規模実態調査(回答者25,408人)は、こうした悲観論とはまったく異なる現実を示しています。 |
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本記事では、このデータを紐解きながら、私自身が20年以上にわたり年間350件以上の労務相談を手がけてきた実務家の視点で、「社労士は本当に稼げるのか」という問いに正面から答えます。同時に、AI・DXが急速に進む時代を生き抜くためのキャリア戦略を、経営者に伴走し続ける社労士として提言します。 |
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1. 社労士の収益実態──平均1,658万円は本当か |
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まず、データの概要を見てみましょう。 |
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▼ 開業社労士の年間売上分布(2024年度調査) |
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出典:全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」(回答者25,408人) |
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「平均値は一部の高収入者が押し上げているのでは?」──そう感じる方もいるかもしれません。たしかに1億円以上の事務所が2%(推定約550事務所)存在します。しかし注目すべきは、年収1,000万円以上が全体の3割を超えているという事実です。 |
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さらに重要なのは、収入の「安定性」です。 |
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平均33.2社の顧問契約が売上の約7割を占める。この「継続収入」の厚みこそが、社労士ビジネスの真の強みです。単発の案件に一喜一憂するのではなく、クライアントと長期的な関係を築くことで、収入の安定性と事業の持続性が担保されます。 |
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私自身の信念でもありますが、社労士の仕事は「点」ではなく「線」です。一度の相談で終わるのではなく、経営者と共に歩き続けることで初めて、本当の意味での価値が生まれます。このデータは、まさにその考え方を裏付けています。 |
勤務社労士の実態 |
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開業だけではありません。勤務社労士も高い評価を受けています。管理職率は55.5%(うち役員7.2%、部長12.8%)、大企業勤務率は53%、平均従事年数は11.3年。20〜30代では賃金面のメリットや転職時の強みを実感する声が多く、管理職層ではキャリア形成における優位性が高く評価されています。 |
2. 年代別キャリアモデル──30歳/40歳/50歳開業のリアル |
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「何歳から始めても遅くない」──これは単なる励ましではなく、データが証明する事実です。 |
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【30歳開業モデル】5年で600万円→2,800万円 |
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30代で開業した場合、5年で4人体制への組織化と2,800万円の高収益化を実現する成長パターンが確認されています。 |
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【40歳開業モデル】安定的に1,800万円達成 |
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40代開業は、前職の人脈や経験を活かした堅実な成長モデル。爆発力よりも着実さで1,800万円台に到達しています。 |
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【50歳開業モデル】定年後も1,200万円のセカンドキャリア |
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50代開業でも10年で1,200万円に到達。定年後も「働き続けられる専門職」としての価値が裏付けられています。 |
3. 「AIに仕事を奪われる」は本当か?──需要増71.5%の真実 |
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▼ 過去5年間の業務別需要変化 |
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出典:2024年度社労士実態調査 |
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すべての業務分野で、需要増加が需要減少を上回っています。助成金業務を除けば、その差は歴然です。 |
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特に注目すべきは、AIによる代替が困難な「相談業務(71.5%)」「規程作成(66.2%)」「コンサル業務(57.7%)」の急激な需要拡大です。これらはまさに、人間の専門家にしかできない「判断」と「伴走」が求められる領域です。 |
なぜAI時代でも社労士の需要が増えるのか |
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私が日々の実務で強く感じているのは、労務問題の本質は「法律の正解」ではなく「その企業にとっての最善解」を見つけることだ、ということです。 |
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AIは一般的な法律論を整理することは得意です。しかし、その企業の労使関係の歴史、経営者の人柄、組織の文化、業界特有の商慣行──これらを踏まえたうえで「この会社には、今、何が最善か」を判断することは、AIにはできません。 |
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加えて、法改正への継続対応(2025年育児介護休業法改正、2026年雇用保険法改正など)、経営判断に直結するIPO準備やM&A労務DD、そして何より、孤独な経営判断を迫られる経営者への「共感」と「信頼関係の構築」──これらはすべて、人間の専門家だからこそ提供できる価値です。 |
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4. AI時代を生き抜く5つのキャリア戦略 |
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AI・RPAが得意とするのは定型業務です。だからこそ、私たち社労士は「判断を伴う相談業務」にシフトすべきです。就業規則の作成は「経営理念を反映した組織づくり支援」へ、給与計算代行は「人件費最適化・賃金制度設計」へ、手続代行は「採用・定着・育成の人事戦略立案」へ。相談業務の需要増加率71.5%という数字は、この方向性が正しいことの証左です。 |
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士業におけるAI利用調査では、ChatGPT等の使用経験がある社労士は約60%に達する一方、日常的に活用しているのは約10%未満。ここに大きな差別化のチャンスがあります。「AIが仕事を奪う」のではなく、「AIを使える社労士が、使えない社労士のシェアを取る」時代です。当法人でも、AIを活用した法令調査や就業規則ドラフト作成を実務に取り入れ、クライアントへの回答スピードと品質の両立を図っています。 |
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全方位型ではなく、特定領域の第一人者を目指す戦略です。IPO労務監査、M&A労務デューデリジェンス、外国人雇用、建設業・運送業といった業種特化、ハラスメント対応など。当法人が「高難度の労働問題」に特化してきたのも、まさにこの考え方に基づいています。専門特化した事務所ほど高単価・高収益を実現している傾向は、実態調査でも確認されています。 |
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AIは既知の情報を整理することは得意ですが、「答えのない問題」に対して仮説を立て、調査し、検証する力は持ちません。判例・通達の横断検索と実務適用、同業他社のベストプラクティス調査、行政窓口への直接ヒアリング、法改正の立法趣旨や国会答弁の読み込み──こうした地道な「調査力」こそが、AI時代の社労士にとっての差別化ポイントです。 |
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今後、AIが企業の労務部門を一部代替する「AIエージェント」の時代が来るとも言われています。その時、社労士の役割は「作業者」から「AIの監督者・戦略設計者」へと進化します。AI労務システムの導入支援、AIが出した回答の妥当性検証、AI活用を前提とした労務体制設計──こうした視点を今から持つことが、次の10年を決めるでしょう。 |
5. 「経営パートナー」への転換──T&M Nagoyaが実践する伴走型支援 |
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ここまでデータと戦略を見てきましたが、最後に私自身の考えをお伝えさせてください。 |
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当法人のミッションは「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」です。私は弁護士事務所で約7年間、使用者側・労働者側双方の労働紛争を手がけてきました。その経験から確信しているのは、労務問題は「法律の正解を伝える」だけでは解決しないということです。 |
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経営者は孤独です。問題社員の対応、ハラスメントの通報、労働組合との交渉──こうした局面で、「法的にはこうです」と一般論を述べるだけでは、経営者の助けにはなりません。その企業の歴史、経営者の思い、従業員との関係性を理解したうえで、「今、何をすべきか」「どの順序で動くべきか」を一緒に考え抜く。それが私たちの考える「伴走」です。 |
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年間350件以上の労務相談に対応し、20年以上にわたる紛争解決経験を積んできた中で、私が最も大切にしてきたのは「あの人に相談すれば何とかなる」と経営者に思っていただける存在であり続けることです。AIがどれだけ進化しても、この「信頼」だけは決して代替されません。 |
6. 若手社労士が今すぐ始めるべき3つのアクション |
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7. まとめ──2025年、社労士は「稼げる」し「将来性がある」 |
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25,408人の大規模調査が示した結論は明確です。 |
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「社労士は食えない」「AIに仕事を奪われる」──こうした声は、データを見れば根拠がないことが分かります。 |
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ただし、漫然と「手続屋」を続けていれば淘汰される時代が来ることも事実です。重要なのは、「手続屋」から「経営パートナー」へ、「AI被害者」から「AI活用者」へと、自分自身をアップデートし続ける意志を持つことです。 |
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私たちT&M Nagoyaは、「経営者と共に歩き続ける」という信念のもと、高難度の労務問題に挑み続けています。この記事が、社労士というキャリアを戦略的に設計するきっかけになれば幸いです。 |
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【参考】全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」(回答者25,408人、2024年11月発表) |