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作成日:2026/03/26
【裁判例】あおぞら銀行事件・東京高裁逆転判決から考える−内部通報者保護と企業が今すぐ始めるべき実務対応−



2026年1月22日、東京高裁はあおぞら銀行の行員に対する約3年3か月間の隔離配置について「組織的なパワーハラスメント」と認定し、一審判決を覆す逆転判決を言い渡しました。本記事では、判決の概要と、2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法の要点を整理したうえで、企業が今から取り組むべき実務対応を社労士の視点から解説します。

1. あおぞら銀行事件の概要

本件は、あおぞら銀行の不動産信託部門に勤務していた50代の男性行員が、同僚による顧客の相続業務に関する不適切な処理を発見し、上司への改善要求を経て社内の内部通報窓口に通報したことに端を発します。

通報後、銀行側は当該行員に「10項目の問題行為」があるとして懲戒処分を行い、管理職から非管理職への降格を実施。さらに、従来の業務フロアではなく来客用フロアにある約8畳の応接室への配置転換を命じました。

報道によれば、この応接室にはPCモニター・キーボード・マウスのみが設置され、ゴミ箱も置かれない環境であったとされています。書類の廃棄(シュレッダー使用)にはその都度人事部長の許可が必要であり、全職員が記載される災害時緊急連絡網からも除外されていたとのことです。この状態は2021年から2024年7月まで、実に約3年3か月にわたって継続しました。

時期 出来事
2020年6月頃 行員が同僚の不適切処理を発見、上司に改善を求めるも改善なし
同時期 銀行の内部通報窓口に通報
通報後 「10項目の問題行為」を理由に懲戒処分・降格
2021年〜2024年7月 約8畳の応接室での隔離勤務(約3年3か月)
2023年 行員が東京地裁に損害賠償等を求めて提訴
2025年3月 一審・東京地裁が行員の請求を全面棄却
2026年1月22日 東京高裁が逆転判決、約847万円の支払いを命令

2. 東京高裁の判断のポイント

一審の東京地裁は、銀行側の主張を全面的に採用し、行員の請求を退けていました。しかし控訴審の東京高裁(佐藤哲治裁判長)は、一審の判断を大きく変更しました。報道各社の情報を総合すると、高裁の判断の要点は以下のとおりです。

論点 高裁の判断
隔離配置の評価 長期間の隔離配置は業務上の合理的な理由が認められず、パワハラ6類型のうち「人間関係からの切り離し」に該当すると認定。東京都労働委員会・東京都労働局もこの職場環境を問題視していた点を重視
業務内容 従前の経験・能力とは無関係な業務に従事させたものであり、「退職に追い込むために誰でも遂行可能な業務」であったと指摘
組織性 個人ではなく「組織としての決定」であった点を認定し、組織的パワーハラスメントと評価
懲戒処分・降格 10項目のうち一部は根拠が不十分であり、当該部分の懲戒処分は無効。降格についても人事権の濫用と判断
賠償額 慰謝料110万円+降格に伴う差額賃金等約737万円=合計約847万円

なお、報道によれば双方が最高裁に上告受理を申し立てており、本判決は現時点では確定していません。今後の最高裁の判断が注目されます。

【実務上の示唆】

本判決は、たとえ「配置転換」「業務命令」という形式を取っていても、その実態が合理性を欠き、従業員を孤立させるものであれば組織的パワハラと認定され得ることを示しています。企業においては、内部通報後の人事異動については特に、その業務上の合理性を客観的に説明・記録できる体制を整備することが不可欠です。

3. 2026年12月施行 改正公益通報者保護法の主要改正点

本事件の背景には、現行の公益通報者保護法が十分な実効性を持っていなかったという課題があります。現行法では、通報を理由とした不利益取扱いを禁止してはいるものの、違反に対する直接の刑事罰がなく、通報と不利益取扱いとの因果関係の立証責任は通報者側にありました。

2025年6月11日に公布された改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号)は、2026年12月1日に施行されます。主な改正点は以下のとおりです。

改正項目 内容 企業への影響
刑事罰の新設
改正法21条・23条
通報を理由とした解雇・懲戒処分を行った個人に対し、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金。法人には3,000万円以下の罰金(法人重科) 従来の民事責任に加え、刑事責任が問われる。懲戒手続の厳格化が急務
立証責任の転換
改正法3条3項
通報から1年以内の解雇・懲戒処分は「通報を理由として行われた」と推定。立証責任が企業側に転換 通報者への処分を行う際は、通報と無関係であることを証明する客観的証拠の事前準備が必須
通報者探索の禁止
改正法11条の2
通報者を特定しようとする行為(いわゆる「犯人探し」)を法律上明確に禁止。違反した合意等は無効 通報者情報へのアクセス管理の厳格化、従事者指定の見直しが必要
行政権限の強化 消費者庁に立入検査権・命令権を付与。命令違反・検査拒否には刑事罰(30万円以下の罰金) 体制整備義務(従業員300人超)の形骸化は許されなくなる
通報主体の拡大 フリーランス新法のフリーランスにも公益通報者保護を拡大 業務委託先との関係においても通報者保護体制の整備が必要

【注意】配置転換は刑事罰の対象外

今回の改正で刑事罰や立証責任転換の対象となるのは「解雇」と「懲戒処分」に限定されています。不利益な配置転換や嫌がらせ等は刑事罰の対象外です。あおぞら銀行事件のような配置転換による排除は、改正法の下でも刑事罰の直接の適用は困難であり、引き続き民事上の救済(損害賠償請求等)によって争うことになります。この点は改正法の残された課題として指摘されています。

4. 企業が今すぐ取り組むべき実務対応

あおぞら銀行事件の判決と改正法を掛け合わせて考えると、企業に求められるのは内部通報制度の「形式から実質へ」の転換です。以下の5つのポイントを優先的に進めることをお勧めします。

No. 対応項目 具体的な内容
1 通報者情報の厳格な管理体制(ファイアウォール) 公益通報対応業務従事者を最小限に限定し、守秘義務を書面で確認。通報者情報と人事権者の間に情報遮断の仕組みを構築する
2 懲戒手続・人事異動の記録体制強化 立証責任転換に備え、処分の検討経緯・根拠資料を時系列で記録する仕組みを整備。通報との無関係性を客観的に説明できるようにする
3 社内規程・内部通報規程の改訂 通報者探索の禁止、不利益取扱いの禁止(配置転換・嫌がらせを含む)を就業規則・内部通報規程に明記。違反時の懲戒処分も規定する
4 管理職・経営層への研修実施 報復的人事が個人の刑事責任(拘禁刑・罰金)と法人の巨額罰金につながることを、管理職・役員に対し繰り返し周知する
5 外部通報窓口の設置・見直し あおぞら銀行事件では社内窓口に通報した結果、通報者が不利益を被った。企業から独立した外部窓口(弁護士事務所・社労士事務所・第三者機関等)の設置により、通報者の匿名性と心理的安全性を確保する

5. まとめ

あおぞら銀行事件は、内部通報制度が「声を上げた人を守る仕組み」ではなく「声を上げた人を特定し排除する装置」として機能してしまった場合に、企業が負うことになるリスクの大きさを如実に示しています。

2026年12月の改正公益通報者保護法の施行により、通報者への報復的な解雇・懲戒には刑事罰が科されることになり、立証責任も企業側に転換されます。通報窓口を「設置しただけ」の状態から、実際に機能する制度へと育てていく必要があります。

重要なのは、通報制度を「リスク管理のコスト」ではなく「組織の不正を早期に発見・是正するための経営インフラ」として位置づけることです。通報を適切に受け止め、迅速に対応できる体制を構築することが、結果として企業のレピュテーションと持続的な成長を守ることにつながります。

改正法への対応、内部通報規程の整備はお早めに

社会保険労務士法人T&M Nagoyaでは、改正公益通報者保護法に対応した内部通報規程の策定・見直し、就業規則の改訂、管理職向け研修の実施をサポートしています。「通報窓口はあるが実際に機能しているか不安」「改正法に対応した社内体制を整備したい」といったご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

【出典・参考情報】

・朝日新聞デジタル「3年3カ月応接室で1人業務は『パワハラ』 あおぞら銀行に賠償命令」(2026年1月22日付)

・読売新聞オンライン「同僚からの隔離は『パワハラ』、あおぞら銀行に840万円支払い命令…東京高裁が逆転判決」(2026年1月22日付)

・弁護士JPニュース「内部通報したら『8畳の部屋で3年3か月独り勤務させられ』…あおぞら銀行員が逆転勝訴」(2026年1月23日付)

・日経ビジネス「あおぞら銀行『パワハラ』判決の波紋」(2026年3月25日付)

・企業法務ナビ「あおぞら銀行、内部通報した行員の長期隔離配置は違法 ー東京高裁」

・森・濱田松本法律事務所「改正公益通報者保護法の概要と実務上の対応」(2025年7月3日)

・長島・大野・常松法律事務所「公益通報者保護法改正を見据えた『不利益な取扱い』の認定について」

・BUSINESS LAWYERS「2026年12月施行!公益通報者保護法改正の概要と企業への影響」(2026年1月16日)

・東京弁護士会 公益通報者保護特別委員会「公益通報者保護法が改正されました」

・日本公益通報サービス株式会社「あおぞら銀行逆転判決と内部通報者を守る外部相談窓口の必要性」(2026年3月13日付)
 https://jwbs.co.jp/column/あおぞら銀行逆転判決と内部通報者を守る外部相/

・消費者庁 公益通報者保護制度ウェブサイト

※本記事は2026年3月時点の情報に基づいて作成しています。法的判断は個別事案の具体的事情により異なりますので、実際の対応にあたっては弁護士・特定社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

※本判決は2026年3月時点で双方が上告受理を申し立てており、確定していません。