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作成日:2026/03/20
【IPO】上場直前に発覚する「簿外債務」の正体 ーーIPO準備企業が今すぐ見直すべき労務管理ーー
IPO労務対策 2026年版

上場直前に発覚する「簿外債務」の正体
IPO準備企業が今すぐ見直すべき労務管理

「財務諸表と事業計画を整えれば、上場審査は通る」——そう考えていませんか。
実際には、上場直前の労務デューデリジェンス(労務DD)で数千万円〜数億円規模の未払い残業代が発覚し、上場延期に追い込まれる企業が後を絶ちません。本記事では、これまで多くのIPO準備企業を支援してきた経験をもとに、2026年の法改正動向も踏まえた「労務ガバナンス戦略」の全体像をお伝えします。
N-2
期からの着手が
最低ライン
3年
未払い賃金の
遡及請求期間(当面)
3大
IPO審査で
頻出する労務リスク
101人
2026年4月改正
公表義務の拡大基準
SECTION 01 なぜ今、IPO準備に労務管理が問われるのか

投資家は今や財務数値だけでなく、「人と組織の健全性」を企業価値の根拠として評価します。J-Adviser(上場適格性を調査する資格者)が重視するのも、形式的な制度整備ではなく、実態として法令遵守が機能しているかという点です。さらに2026年4月には、複数の重要な法改正が施行されています。

改正女性活躍推進法 改正労働安全衛生法 ストレスチェック義務化
公表義務が常時雇用労働者101人以上の企業に拡大。男女間賃金差異・女性管理職比率の開示が必要(旧:301人以上) 個人事業者等への安全衛生対策の推進。高年齢労働者への配慮義務が新設 50人未満の事業場にも段階的に義務化予定(公布後3年以内に施行・最長2028年5月まで)
IPO審査において、これらの法定義務を遵守できているかは「ガバナンスの最低ライン」です。クリアできていなければ、そもそも審査の土俵に立てません。労務コンプライアンスは、単なる義務履行を超え、企業価値を高める戦略的要素として捉える必要があります。
SECTION 02 IPO審査で頻出する「3大労務リスク」

私がこれまで労務DDを行ってきた経験から、最も頻繁に指摘される問題は以下の3つです。いずれも「気づいたときには手遅れ」になりがちな共通点があります。

@ 未払い残業代
自己申告制・固定残業代の不適切運用・管理監督者の範囲の誤認識が主な原因。現行法では原則として過去5年分(当面3年)の遡及請求が可能。数千万〜数億円規模の簿外債務リスクがあります。
 
📋
A 36協定違反
時間外・休日労働に関する労使協定の締結・届出が未実施、または実態が協定内容を超過しているケースが非常に多く見られます。
 
👔
B 名ばかり管理職
「部長」「マネージャー」という肩書だけで管理監督者と判断し、残業代を不払いにしているケース。労基法上の要件は非常に厳格で、多くの場合は該当しません。

未払い残業代の遡及期間:見落としがちなポイント

区分 内容 留意事項
原則 5年(賃金請求権の消滅時効) 2020年4月改正労働基準法により設定
現行
(経過措置)
3年(当面の間) 施行後5年(2025年4月以降)目途に見直し予定。将来的に5年へ延長の可能性あり
⚠ 重要:経過措置の見直し予定 現行の「3年」という時効期間は経過措置です。施行後5年(2025年4月以降)を目途に見直しが予定されており、将来的に5年へ延長される可能性があります。早急な対応が求められます。
SECTION 03 IPO労務ガバナンスの「3本柱」

IPO準備企業が構築すべき労務ガバナンスは、以下の3本柱で構成されます。それぞれが独立した課題ではなく、相互に連関した体制として整備することが重要です。

01
労働時間の客観的把握と未払い残業の根絶
PCログ・入退室記録による客観的な記録。固定残業代の適正運用。管理監督者要件の再確認。
 
02
メンタルヘルス対策と安全配慮義務の履行
ストレスチェックの実施。休職者対応フロー。復職支援プログラム。ハラスメント防止研修。
 
03
社会保険の適正加入
業務委託契約の実態確認。短時間労働者の加入要件チェック。2024年10月以降の適用拡大(51人以上)への対応。
特に「柱@」の労働時間記録は過去に遡っての修正が困難です。「上場が決まってから整備しよう」では手遅れになります。体制構築は早ければ早いほど、リスクを低減できます。
SECTION 04 実務ロードマップ:いつ、何をすべきか
よくある誤解 「IPO準備はN-1期から始めれば間に合う」——これは特に労務面では大きな誤解です。最低でもN-2期からの着手が必要です。
N-2期〜
フェーズ1:現状把握(労務デューデリジェンス)
  • 専門家(社会保険労務士等)による監査の実施
  • 潜在リスクの可視化・未払い残業代の概算算出
  • 就業規則・労使協定・各種契約の点検
N-2〜N-1
フェーズ2:制度整備
  • 法改正に対応した就業規則の改定
  • 36協定の適正な締結・届出
  • 固定残業代制度の見直し・社会保険加入手続の実施
N-1〜N期
フェーズ3:運用の定着・モニタリング
  • 月次での労働時間管理・チェック体制の確立
  • ハラスメント研修の実施・内部通報制度の運用
  • PDCAサイクルによる継続的改善
SECTION 05 TPMからグロース市場へ:最初から高い基準で構築する

TOKYO PRO Market(TPM)への上場を「ゴール」とせず、その先の一般市場を見据えるなら、最初からグロース市場基準で労務管理を構築しておくことが合理的です。

一度定着した不適切な労務慣行を後から修正するには、多大なコストと組織的混乱を伴います。たとえば、これまで残業代を支払っていなかった管理職に「今後は支払います」と伝えれば、給与体系全体の見直しが必要となり、現場は混乱します。

逆に、最初から適正な労務管理を行っていれば、ステップアップ時の追加対応は最小限で済み、経営陣は事業成長に集中できます。

今すぐ確認すべき5つのポイント

N-2期からの着手——労働時間記録は過去に遡っての修正が困難。早期の体制構築が必須。
3大リスクの解消——未払い残業代・36協定違反・名ばかり管理職を優先的に点検。
労働時間の客観的把握——自己申告制からPCログ・入退室記録への移行を検討。
2026年4月改正法への対応確認——女性活躍推進法・労安衛法改正の影響を自社で整理。
専門家への早期相談——労務DDは社会保険労務士に依頼し、リスクを早期に可視化。

貴社の労務、本当に大丈夫ですか?

IPO準備における労務リスクの洗い出しから、制度整備・運用定着まで、
社会保険労務士法人T&M  Nagoyaが伴走でサポートします。

まず相談する →
※ 本記事は、公開情報をもとに2026年3月時点の情報を整理した一般的な解説です。個別案件への適用については、必ず弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。法令の解釈・適用は個別の事情により異なる場合があります。