2026年春闘では、大手企業を中心に高い賃上げ水準が期待される一方で、中小企業や医療・介護分野では、同じペースで賃金を引き上げることの難しさが改めて浮き彫りになっています。厚生労働省による2025年の民間主要企業の集計では、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の企業390社の平均賃上げ率は5.52%となり、2024年の5.33%を上回りました。大企業の賃上げトレンドは、ここ数年かなり強い流れを維持しています。
これに対し、全労連系の国民春闘共闘委員会が2026年3月13日に公表した第1回集計では、321組合から回答が寄せられ、加重平均の賃上げ額は8,106円、引上げ率は2.74%でした。前年同期を上回るスタートではあるものの、大手の賃上げ率と比べると、なお大きな開きがあります。
とりわけ厳しい状況が見えるのが、医療・介護などのケア分野です。報道ベースでは、2026年春闘の第1回集計で、医療分野の賃上げ額は5,481円、社会福祉・介護分野は4,849円にとどまり、製造業の1万2,799円や卸売・小売業の1万1,362円と比べて差が目立っています。人手不足が深刻で、賃上げの必要性は高いにもかかわらず、価格転嫁や公定価格の制約が強く、現場の処遇改善が十分に進みにくい構造があると考えられます。
実際、厚生労働省の2025年度補正予算案では、「医療・介護等支援パッケージ」として1兆3,649億円が計上されています。国としても医療・介護分野の経営と処遇改善への支援を打ち出しているものの、現場での賃上げ実感につながるかは、配分方法や個々の事業所の経営状態に左右されます。
中小企業でも事情は似ています。全体として賃上げ機運は続いているものの、利益が出ている企業とそうでない企業の差がそのまま回答額の差になりやすく、企業間格差が拡大しやすい局面です。2026年春季生活闘争での連合の要求集計では、平均賃金方式による要求は全体で5.94%、300人未満の中小組合では6.64%となっており、中小側の要求水準そのものは高い状況です。もっとも、要求が高いことと、実際にその水準で妥結できることは別問題であり、資金力や価格転嫁力の弱い企業では対応に限界が出やすいといえます。
会社側の立場からすると、今年の春闘は「賃上げするか否か」の段階ではなく、「どの範囲まで、どの方法で、持続可能に賃上げするか」という局面に入っています。特に中小企業では、基本給の恒久的引上げだけでなく、手当の再設計、初任給や若年層賃金の重点是正、評価制度の見直し、非正規社員の時給レンジ再設定など、総額人件費と定着率を踏まえた制度設計が必要です。単年度の勢いで無理なベースアップを行うと、翌年以降の固定費増が経営を圧迫するおそれがあるためです。
医療・介護分野では、一般企業のように販売価格へ即時転嫁することが難しいため、賃上げ原資をどう確保するかが最大の論点になります。この分野の事業者は、診療報酬・介護報酬改定や補助金、補正予算の活用可能性を確認しつつ、採用費・離職コスト・残業コストも含めた人件費戦略を立てる必要があります。単純に「賃金を上げられない」で終わらせるのではなく、定着率向上や業務効率化と一体で考える視点が不可欠です。
2026年の予測としては、全体の賃上げ率は引き続き高めに推移する可能性がある一方、その成果は業種と企業規模によって大きく分かれると考えられます。連合の2026年方針資料では、ESPフォーキャスト調査を踏まえた2026年春季賃上げ率の予測が5.02%とされており、マクロでは5%前後の賃上げ継続が意識されています。
もっとも、この「5%前後」はあくまで全体平均のイメージです。実務上は、次のような流れが見込まれます。
第一に、大手企業や価格転嫁力のある企業では、今年も比較的高い回答が続く可能性があります。第二に、中小企業では、賃上げ実施企業と抑制企業の二極化が進みやすいと考えられます。第三に、医療・介護分野は政策支援があっても、全産業平均並みの賃上げには届きにくく、人材確保のために個別対応が続く公算が大きいでしょう。これらは、足元の回答状況、大企業の2025年実績、2026年の高い要求水準を総合すると、かなり現実的な見立てです。
2026年春闘は、賃上げそのものが珍しい時代ではなくなった一方で、「誰がどこまで上げられるか」の格差がより明確になる年になりそうです。大企業主導の高い賃上げ水準が続いても、中小企業や医療・介護の現場では、同じだけの引上げをそのまま実現するのは簡単ではありません。だからこそ、企業としては世間相場だけを追うのではなく、自社の支払能力、人材確保の必要性、制度の持続可能性を踏まえた賃金設計が求められます。