2025年6月、東京都内のIT企業に勤務していた労働者が、賃金減額や転勤命令の違法性を訴えた裁判で、東京地方裁判所は企業側の処分を「人事権の濫用」であり「不法行為に該当する」として、慰謝料等計170万円の支払いを命じました。
◆ 判決の概要
(1) 年俸800万円→650万円→480万円と段階的に減額
(2) 異動先は遠隔地・福岡県、職種も未経験の営業へ変更
(3) 労働者の同意なく実施された処分を「無効」と判断
(4) 慰謝料110万円と未払賃金62万5000円の支払いを命令
◆ ポイント解説:本件の「人事権濫用」認定の理由とは?
1. 評価制度の客観性に欠如
ü 就業規則に賃金減額の具体的基準がなかった
ü 年俸を社内順位と連動させて決定していたが、基準や査定方法の説明が不十分
2. 転勤・職種変更の合理性がない
ü 採用時の目的(会計・財務面の中核人材としての期待)と大きく乖離
ü 福岡営業所への転勤+未経験営業職は「退職を狙った」とも受け取られかねない
3. 従業員の適応障害と休職につながった因果性
ü 人事処分後にメンタル不調により長期休職・自然退職に至った経緯を重視
◆ 企業への示唆と対応ポイント
今回の判決は、「評価・配置・処遇の一体運用」における透明性と説明責任の重要性を改めて示す内容です。以下のような対応が求められます:
(1) 賃金制度の根拠とル−ル(評価項目・減額基準など)を明文化
(2) 就業規則・雇用契約に基づいた人事処分の実施
(3) 転勤・職種変更の十分な説明(事案内容によっては本人同意確保も検討)
(4) メンタル不調時の対応記録と職場復帰支援体制の整備
◆ まとめ
高度な専門性を持つ人材に対し、十分な説明もなく処遇を変更することは、「人事権の濫用」として法的責任を問われかねません。企業としては、処遇変更の際の記録管理と社内体制の見直しが重要です。
三重総合社労士事務所では、こうした裁判例に即した実務対応のご相談を承っております。お困りごとがあれば、ぜひお問い合わせください。