2025年6月4日、顧客などによるカスタマハラスメント(以下「カスハラ」)への対策を、全ての事業主の「雇用管理上の措置義務」として明記する方向で、労働施策総合推進法の改正案が参議院で可決・成立しました。施行は公布後1年6か月以内、早ければ2026年10月頃と見込まれています。
1.制度化の背景
カスハラは、従来、刑法や軽犯罪法などの範囲での個別規制にとどまり、横断的な法整備がありませんでした。
東京都が2024年10月に全国初の「カスハラ防止条例」を制定・施行(2025年4月1日)、法整備の追い風となっています。
組合・労働現場からの声を背景に、2025年6月4日に国会での法整備が実現しました。
2.改正法の主な規定と対応すべきポイント
改正項目 |
内容のポイント |
企業(事業主)の対応 |
@ 雇用管理上の措置義務化 |
従業員が就業中にカスハラにさらされないよう、 相談対応・抑止策など必要な仕組み整備を義務化(法33条1項) |
相談窓口・対応体制の整備、 マニュアル化・文書化、報告 ・記録体制構築 |
A 不利益取扱禁止規定 |
カスハラ相談等を理由とする解雇・不利益な扱いを禁止(法33条2項) |
不利益取扱い防止の啓発、 処分実施時の客観的記録と 根拠整理 |
B 協力義務(努力義務) |
他の事業主や国の啓発活動への協力義務(法33条3項・34条) |
協力姿勢の明文化、研修・ 広報体制の整備 |
C 国の指針整備 |
厚労大臣が措置義務の実効性確保のための指針を策定(法33条4項) |
指針に基づく体制構築、 社内展開と周知 |
D 労働者・顧客の努力義務明記 |
関心と理解を促進し注意を払うよう求める(法34条) |
研修に顧客対応含む、 社内掲示・広報に活用 |
3.カスハラとは?
「社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害する顧客等の言動」と法律上定義されます。例として:
l 返品や交換を強要
l 従業員への暴言・身体的嫌がらせ(唾・物の投げつけなど)
l 土下座や長時間の威圧的叱責など
4.今後のスケジュル
(1)2025年6月4日:改正法成立
(2)2026年10月頃まで:政令で施行日指定(公布後1年6か月以内)
今後:厚労省の指針策定、社内マニュアル公開、研修コンテンツの充実、運用状況の内部検証が必要です。
5.企業に求められる対応(早期取組例)
(1)社内方針の策定・周知(トップメッセジ・社内掲示)
(2)相談窓口と対応フロの整備・文書化
(3)対応マニュアル・報告様式の整備
(4)管理監督者・社員向け研修の実施
(5)記録・調査体制の構築(事実確認と対応履歴)
(6)指針発出後の体制再点検と反映
6.まとめ
今回の改正は、従来の条例やマニュアルだけでは不十分とされたカスハラ対策を、国として義務化したものであり、事業主には責任と体制整備が強く求められます。特にBtoC業務を行う企業にとっては、早期対応が重要です。2026年施行に向け、今のうちから相談窓口やマニュアル、研修体制などの整備に着手されることをおすすめします。
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