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作成日:2026/04/10
【理美容業界@】2026年10月施行・カスハラ対策が全事業主の義務に ─ 理美容サロンが今すぐ整備すべき「3つの柱」と現場対応フロー
カスハラ対策 × 理美容業

【2026年10月施行】カスハラ対策が全事業主の義務に
── 理美容サロンが今すぐ整備すべき「3つの柱」と現場対応フロー


公開日:2026年4月|社会保険労務士法人T&M Nagoya
📌 この記事の要点

・2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法によりカスタマーハラスメント対策が全事業主に義務化
・労働者が1人でもいれば対象。違反した場合は報告徴求、助言、指導、勧告、企業名公表のリスクあり
・理美容業は顧客との身体接触・長時間の密接なコミュニケーションを伴うため、カスハラリスクが特に高い
・「方針の明確化」「相談体制の整備」「事後対応」の3つの柱を中心に措置を講じる必要がある
・2026年9月末までの体制整備を目標に、就業規則の改定やマニュアル策定を今から進めるべき
「施術中にずっと体を触られた」「気に入らないと怒鳴られ、土下座を要求された」「施術後に何度もやり直しを求め、2時間以上拘束された」── 理美容サロンの現場では、顧客からの理不尽な言動によってスタッフが精神的に追い詰められるケースが後を絶ちません。

2025年6月4日、こうした状況を受けて改正労働施策総合推進法(通称:カスハラ対策法)が成立しました。2026年10月1日から、すべての事業主に対してカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられます。理美容サロンの経営者にとって、この法改正への対応は「従業員のメンタルヘルス保護」と「離職防止」の両面で最優先課題です。
1. カスタマーハラスメントの法的定義 ── 何が「カスハラ」に当たるのか
改正法では、「職場におけるカスタマーハラスメント」を、以下の3つの要素をすべて満たす行為として定義しています。
📋 カスタマーハラスメントの3要件

顧客等(顧客、取引先、施設利用者等)が行う言動であること
その言動が社会通念上許容される範囲を超えたものであること
労働者の就業環境を害するものであること


※正当なクレームや業務上の指摘は、直ちにカスハラに該当するものではありません。判断にあたっては、言動の内容・態様、経緯、業務との関連性などが総合的に考慮されます。
理美容サロンで想定される典型的なカスハラ行為としては、暴言・威圧的な態度(「こんなカットしかできないのか」等)、土下座や過剰な謝罪の要求、長時間の拘束(施術後に何度もやり直しを要求)、性的な言動(身体への不必要な接触・わいせつな発言)、SNS等での脅迫(「悪い口コミを書くぞ」)などが挙げられます。

一方で、「カラーの色味がイメージと違う」という正当な申し出や、「待ち時間が長い」という事実に基づいた苦情は、その表現が社会通念を逸脱しない限り、カスハラには該当しません。この境界線を明確にしておくことが、現場の混乱を防ぐ鍵となります。
2. 義務化される「雇用管理上の措置」── 3つの柱
改正法に基づき、事業主が講ずべき措置は、主に以下の3つの柱で構成されます。
🔷 柱@:方針の明確化と周知・啓発

カスハラを許容しない方針を明確にし、就業規則や服務規程に明記します。経営トップが「スタッフの尊厳を最優先する」という姿勢を社内外に表明することが第一歩です。

【理美容サロンでの実践例】
・就業規則にカスハラ対応方針を追記する
・スタッフミーティングで方針を共有し、「一人で抱え込まない」文化を醸成する
・レジ前やサービスカウンターに「お客様へのお願い」ポスターを掲示する
🔷 柱A:相談体制の整備

被害に遭ったスタッフが、心理的抵抗なく相談できる窓口を設置します。対面だけでなく、複数の相談手段を用意することが推奨されています。

【理美容サロンでの実践例】
・店長や管理者を相談窓口担当に指定し、スタッフに周知する
・小規模サロンでは外部の相談窓口(社労士事務所等)との連携も有効
・相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止する旨を明文化する
・相談者のプライバシー保護措置を講じる
🔷 柱B:事後の迅速かつ適切な対応

実際にカスハラが発生した際、事実関係を正確に把握し、被害者へのケアと再発防止措置を行います。悪質な場合は弁護士や警察と連携した対応も視野に入れます。

【理美容サロンでの実践例】
・被害スタッフへの速やかなヒアリングとメンタルケアの実施
・必要に応じた特別休暇やカウンセリングの提供
・悪質な加害者に対する出入り禁止措置の発動
・対応記録の作成と保管
3. サロン現場で使える「エスカレーション対応フロー」
サロン現場では、顧客の要求が「正当なクレーム」なのか「カスハラ」なのかの判断が難しいケースも少なくありません。以下のような段階的な対応フローを明確にし、スタッフ全員が共有しておくことが重要です。
段階 状況判断のポイント 推奨されるアクション
初期対応 言動の態様が社会通念を逸脱し始めた 冷静に対応し、必ず他のスタッフを呼んで2名以上で対応する
責任者交代 暴言や土下座要求、5分以上の拘束 現場スタッフを即座に引き離し、店長・責任者が対応を引き継ぐ
組織的警告 警告に従わない迷惑行為の継続 「本日のサービス提供は中止します。必要に応じて警察へ通報します」と毅然と宣告する
事後ケア 精神的ショックの有無の確認 速やかなヒアリングと、必要に応じた特別休暇やカウンセリングの実施
このフローのポイントは「スタッフ一人で抱え込ませない」ことです。初期段階から複数人で対応し、状況が悪化すれば速やかに責任者に引き継ぐ仕組みが不可欠です。また、レジ前やカウンターに基本方針をポスター掲示することは、悪質な要求を躊躇させる抑止力として有効に機能します。
4. 施行までのロードマップ ── 今から始める準備スケジュール
時期 取り組むべきこと
2026年4〜6月 カスハラの実態把握(過去の事例の棚卸し)、基本方針の策定、厚労省の指針・マニュアルの確認
2026年7〜8月 就業規則の改定(カスハラ対応方針の明記)、相談窓口の設置と運用ルール策定、対応マニュアルの作成
2026年9月 スタッフ向け研修の実施(ロールプレイング含む)、ポスター等の掲示物の設置、体制の最終点検
2026年10月1日 改正法施行 ── 措置義務の開始
5. カスハラ対策は「守り」ではなく「攻め」の人材戦略
カスハラ対策の義務化は、一見すると事業主にとっての「負担増」に映るかもしれません。しかし、少子高齢化が進み、理美容業界の有効求人倍率が極めて高い水準にある現在、「安心して働ける職場環境」の整備は、もはや最も強力な採用・定着戦略です。

求職者が企業を選ぶ際、給与や福利厚生だけでなく、「カスハラから守ってもらえる職場かどうか」が重要な判断材料になりつつあります。先んじて対策を講じ、その姿勢を発信できるサロンこそが、人材獲得競争で優位に立てるでしょう。

カスハラ対策は「義務だからやる」ではなく、「スタッフを大切にする姿勢を内外に示す」ための経営上の武器です。
📖 根拠法令・参考情報

・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正労働施策総合推進法)第33条
・2025年6月4日成立、2026年10月1日施行予定(施行期日政令による)
・厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2026年2月26日告示)
・政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容」
・厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月)
※本記事は2026年4月時点の情報に基づいて作成しています。指針の詳細や具体的な運用については、今後追加・変更される可能性があります。自社のカスハラ対策の整備にあたっては、社会保険労務士や弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。
カスハラ対策の体制整備、お気軽にご相談ください →
執筆者
三重 英則(みえ ひでのり)
社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士/経営心理士/経営法曹会議賛助会員

「経営者と共に歩き、最善の解を導き出す」をミッションに、企業の労務管理体制の構築から就業規則の整備、ハラスメント対策まで幅広くサポートしています。カスハラ対策の就業規則改定・マニュアル策定についても、お気軽にお問い合わせください。