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作成日:2026/04/06
【考察】「はま寿司」に是正勧告 ―「15分刻み」賃金切り捨ての法的問題と企業が今すぐ確認すべきポイント
労務管理・賃金   是正勧告

「はま寿司」に是正勧告 ―「15分刻み」賃金切り捨ての法的問題と企業が今すぐ確認すべきポイント

2026年4月3日|社会保険労務士法人T&M Nagoya

📌 この記事の要点

・大手回転寿司チェーン「はま寿司」が行田労基署から是正勧告を受けた(2026年4月2日判明)
・出勤時間を15分刻みで切り捨て、実働時間分の賃金が未払いに
・労基法24条「賃金全額払いの原則」に違反する運用
・全パート・アルバイトへの遡及払いを決定(総額・人数は算定中)
・自社の勤怠管理を今すぐ点検すべき理由を解説

1. 事件の概要 ― 何が起きたのか

2026年4月2日、大手回転寿司チェーン「はま寿司」(ゼンショーホールディングス傘下・本社:東京)が、埼玉県の行田労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが明らかになりました。

問題を公表したのは、当該アルバイト(19歳・男子大学生)が加入する外部労働組合「回転寿司ユニオン(首都圏青年ユニオン回転寿司分会)」です。はま寿司は取材に対して是正勧告の事実を認め、全パート・アルバイトへの未払い分支払いに応じる姿勢を示しています。

2. 問題の核心 ―「15分刻み切り捨て」とは

はま寿司では、出勤の打刻時間を15分刻みで管理する運用が行われていました。具体的には以下のような影響が生じていたと報じられています。

実際の出勤時刻 システム上の扱い 結果
18:00(定刻どおり) 18:00出勤 正常
18:01(1分遅刻) 18:15出勤扱い 14分間の賃金が消滅
18:14(14分遅刻) 18:15出勤扱い 1分遅刻と同じ扱い

つまり、1分でも遅刻すれば次の15分区切りまで丸ごとカットされ、その間の労働時間が「なかったこと」にされていた、という運用です。また、始業前10分から業務を開始しても始業時刻からしか賃金が支払われず、制服への着替えや手洗いの時間についても賃金不払いが指摘されています。

なお、退勤時は1分単位で計算されていたとされており、出勤時のみ15分単位で切り捨てるという片面的な運用だった点も問題です。

3. 法的問題点 ― なぜ違法なのか

📖 根拠法令

労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」

昭和63年3月14日 基発第150号(厚生労働省通達)
労働時間の端数処理について、原則として1分単位で算定すべきとの行政解釈が示されています。15分・30分単位での一方的な切り捨ては、賃金全額払いの原則に反すると解されます。

ここで重要なのは、「1か月の合計」で30分未満を切り捨て・30分以上を切り上げる処理(いわゆる月単位の丸め処理)は認められている一方、日々の出退勤で15分・30分単位の切り捨てを行うことは認められていないという点です。今回のはま寿司の運用は、まさにこの後者にあたります。

違反した場合のリスクは以下のとおりです。

リスク項目 内容
是正勧告 労基署による行政指導(今回該当)
未払い賃金の遡及払い 消滅時効3年分が対象(2020年4月施行の改正民法による経過措置)
刑事罰 30万円以下の罰金(労基法120条1号)
付加金 訴訟時に未払い額と同額の支払命令の可能性(労基法114条)
遅延損害金 在職中は年3%、退職後は年14.6%(賃確法6条)
レピュテーションリスク 報道・SNS拡散による企業イメージ毀損、採用難の深刻化

4. 問題発覚から是正勧告までの経緯

時期 出来事
2025年6月〜 東京・埼玉・北海道・長野のはま寿司で学生アルバイトが「回転寿司ユニオン」に加入
2025年6月30日 組合がはま寿司に「要求書及び団体交渉申入書」を送付
2025年8月27日 初の団体交渉を実施 → 会社側が「今年度中に1分単位化する」と回答
2025年9月19日 「回転寿司ユニオンはま寿司本部」を正式結成(厚労省で記者会見)
2025年12月1日 はま寿司、15分単位計算を廃止 → 完全1分単位化に改定
2026年(日付未詳) 過去分支払いを会社が拒否 → 組合員が行田労基署に申告
2026年4月2日 行田労基署が是正勧告を発出 → 会社が全パート・アルバイトへの遡及支払いを決定

注目すべきは、団体交渉によって「将来に向けた是正」(1分単位化)は実現したものの、過去の未払い分の精算については会社側が応じなかったため、労基署への申告という行政手続に至ったという流れです。支払時期は3月度または4月度給与(4月・5月振込分)とされていますが、総額・対象人数は現在算定中とのことです。

5. 飲食業界で繰り返される「時間切り捨て」問題

今回の問題は「はま寿司」だけの話ではありません。飲食・外食業界全体で、同様の端数切り捨て問題が次々と表面化しています。

企業名 問題の内容 対応
すかいらーくHD 5分未満切り捨て 2022年に1分単位に改正。パート・アルバイト約9万人に総額16〜17億円の遡及払いの方針を公表
スシロー 5分未満切り捨て 2024年1月に是正勧告。2022年9月に1分単位化済みだが、過去分の遡及払いについて全従業員に「相当額」の支払いを決定
はま寿司(今回) 15分刻み切り捨て 2025年12月に1分単位化。2026年4月に是正勧告 → 遡及払い決定

親会社ゼンショーホールディングスは、牛丼チェーン「すき家」においても2014年に深夜の一人勤務体制(ワンオペ)に起因する過重労働問題が社会問題化し、第三者委員会を設置して改善に取り組んだ経緯があります。グループ全体としての労務管理体制のあり方が改めて問われる事態といえます。

6. 経営者・人事担当者が今すぐ確認すべきこと

✅ 自社点検チェックリスト

□ 勤怠管理の打刻単位は「1分単位」になっているか
 → 5分・10分・15分・30分単位での「切り捨て」は、労基法24条違反のリスクがあります。

□ 始業前の着替え・準備時間を労働時間として算定しているか
 → 使用者の指揮命令下にある時間は、労基法上の「労働時間」です(三菱重工長崎造船所事件・最判平12.3.9)。

□ 「月単位の丸め処理」と「日々の切り捨て」を混同していないか
 → 1か月の合計で30分未満切り捨て・30分以上切り上げの処理は認められますが、日単位の切り捨ては認められません。

□ 勤怠管理システムの初期設定を確認したか
 → システムのデフォルト設定が「5分丸め」「15分丸め」になっている場合があります。導入時の設定を再確認してください。

□ 過去分に未払いリスクがないか試算したか
 → 未払い賃金の消滅時効は3年(経過措置・将来的に5年へ延長の可能性)。従業員数が多い企業ほど、遡及額は膨大になります。

7. 社労士としての視点 ― 「伴走」する労務管理のすすめ

今回の事案は、大企業であっても「長年の慣行」が違法状態を固定化させる典型例です。「業界ではよくあること」「昔からこうだった」という認識こそが最大のリスク要因といえます。

特に中小企業においては、勤怠管理システムの設定を導入時から見直していないケースや、パート・アルバイトの労働時間管理が属人的になっているケースが少なくありません。是正勧告を受けてからでは、遡及払いの金額的負担はもちろん、従業員との信頼関係の毀損、さらには採用力の低下にまでつながりかねません。

「問題が起きてから対処する」のではなく、「問題が起きる前に仕組みで予防する」ことが、経営者の皆さまにとって最もコストの低い選択です。労務管理の「健康診断」として、定期的な点検を強くお勧めいたします。

勤怠管理・賃金計算の無料相談はこちら →

初回ご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。

📚 根拠法令・参考情報

・労働基準法 第24条(賃金の支払)
・労働基準法 第114条(付加金の支払)
・労働基準法 第120条第1号(罰則)
・昭和63年3月14日 基発第150号(労働時間の端数処理に関する通達)
・賃金の支払の確保等に関する法律 第6条(遅延損害金)
・三菱重工長崎造船所事件(最判平12.3.9):労働時間該当性の判断基準
・共同通信 2026年4月2日配信記事
・弁護士ドットコムニュース 2025年9月19日配信記事
・回転寿司ユニオン公式サイト

※ 本記事は2026年4月3日時点の情報に基づくものであり、法的助言を目的とするものではありません。個別の事案については、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
※ 本記事中の事実関係は、共同通信配信記事、弁護士ドットコムニュース等の報道および回転寿司ユニオンの公表情報に基づいています。一部、詳細が未確認の情報を含む場合があります。

✍ 執筆者

三重 英則

社会保険労務士法人T&M Nagoya 代表社員
特定社会保険労務士 / 経営心理士 / 経営法曹会議賛助会員