厚生労働省ホームページにおいて、「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」の結果が公表されております。
この調査は、労働災害防止計画の重点施策を策定するための基礎資料および労働安全衛生行政運営の推進に資することを目的として、周期的にテーマを変えて調査が行われているものです。
その調査の中でも、メンタルヘルスに関する事項を、ここでも確認してみたいと思います。
(1)メンタルヘルス不調による休業者等
過去1年間(2022年11月1日から2023年10月31日)にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%(前年調査13.3%)、このうち、連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.4%(前年調査10.6%)、退職した労働者がいた事業所の割合は6.4%(前年調査5.9%)でした。
そのうち、休業した労働者が多い上位5業種について見てみましょう。
1. 情報通信業
- メンタルヘルス不調者の割合: 32.4%
- 連続1か月以上の休業者: 28.9%
- 退職者: 14.7%
2. 学術研究,専門・技術サービス業
- メンタルヘルス不調者の割合: 23.4%
- 連続1か月以上の休業者: 22.2%
- 退職者: 5.1%
3. 電気・ガス・熱供給・水道業
- メンタルヘルス不調者の割合: 23.3%
- 連続1か月以上の休業者: 23.3%
- 退職者: 2.0%
4. 金融業,保険業
- メンタルヘルス不調者の割合: 22.3%
- 連続1か月以上の休業者: 17.2%
- 退職者: 10.0%
5. 教育,学習支援業
- メンタルヘルス不調者の割合: 20.8%
- 連続1か月以上の休業者: 16.2%
- 退職者: 7.9%
この結果から考察してみると、
1.情報通信業: 情報通信業はメンタルヘルス不調者の割合が最も高く、特に連続1か月以上の休業者が多く、これは、IT関連業務のプレッシャーや長時間労働が原因となっている可能性が考えられます。技術の急速な進歩や変化に伴い、従業員が常に最新の知識を求められる環境もストレスの一因となるのでしょう。対策として、業務時間の適正化やリモートワークの推進、定期的なメンタルヘルスチェックの実施が有効と考えます。また、リフレッシュスペースの設置や、リラクゼーションプログラムの導入も検討する価値があります。従業員がリラックスできる環境を整え、ストレスを軽減する取り組みを強化することも効果があるかもしれません。
2.学術研究,専門・技術サービス業: 高い割合でメンタルヘルス不調者が見られる一方、退職者は比較的少ないです。専門職の高いストレスやプレッシャーが影響していると考えられます。特に、研究や技術開発に従事する従業員は、長時間労働や厳しい成果要求にさらされることが多いです。対策として、 メンタルヘルスサポートの充実や、ストレスマネジメントの研修を実施することで、従業員の負担軽減を図ることも効果があると考えます。また、業務の進捗管理を透明化し、無理のないスケジュールを組むことも効果的です。成果主義のバランスを取るために、適切な評価制度の導入も検討することも有益と考えます。
3.電気・ガス・熱供給・水道業: メンタルヘルス不調者の割合は高いものの、退職者は非常に少ないです。安定した職場環境がある一方で、業務のストレスが影響していると考えられます。特に、インフラに関わる業務は社会的責任が重く、プレッシャーが大きいです。対策としては、ストレスチェックの定期実施や、メンタルヘルスケアに関する研修を行い、早期に問題を発見・対応する体制を整えることが大切でしょう。また、適切な休暇取得を推進することも効果的です。従業員がリフレッシュできる環境を整え、業務の負担を軽減する取り組みを強化することも考えることができます。
4.金融業,保険業: メンタルヘルス不調者が多く、退職者も多いです。金融業界の高いプレッシャーや責任感が影響していると考えられます。特に、顧客対応や市場の変動に迅速に対応する必要があるため、ストレスが大きくなります。対策としては、メンタルヘルスサポートの充実や、心理カウンセリングの提供が考えられる一つの対策でしょう。また、業務の効率化やワークライフバランスの改善を図るための取り組みを推進することが求められます。従業員がストレスを感じた際に気軽に相談できる環境を整えることも有益と考えます。
5.教育,学習支援業: メンタルヘルス不調者の割合が高いですが、退職者はそれほど多くありません。教育現場のストレスや長時間労働が影響していると考えられます。特に、教職員は生徒や学生への対応、授業準備、保護者対応など、多岐にわたる業務を抱えており、負担が大きいと推測されます。対策としては、教育現場では、メンタルヘルスケアの重要性を認識し、ストレスマネジメントの研修を実施することが必要でしょう。また、適切な業務分担や休暇取得を促進することで、労働環境の改善を図ることが重要です。教職員同士のサポート体制を強化し、相互に助け合う文化を醸成することも有効と考えます。
以上を纏めると、上位5種の産業では、それぞれの特性に応じたメンタルヘルス対策が必要です。情報通信業や学術研究、金融業、教育業などでは特にメンタルヘルス対策が重要であり、各産業に応じた取り組みを行うことが求められます。メンタルヘルスケアの充実は、従業員の健康を守り、企業の持続可能な成長を支えるために不可欠です。