イントロダクション
団体交渉は、労使双方が対等な立場で議論を行う場であり、時には激しい言葉が飛び交うことも珍しくありません。しかし、交渉相手の言動が不穏当であると感じた際、即座に交渉を打ち切ることは法的リスクを伴います。本記事では、組合側の荒い言葉遣いを理由に交渉を中断した行為が「不当労働行為」と認定された最新の命令事例を詳説します。この記事を通じて、実務担当者が「誠実交渉義務」を維持しつつ、安全な交渉環境を確保するための客観的な判断基準を理解できることを目指します。
主要ポイント
今回の事案において重要となるのは、以下の4つの視点です。
展開パート
緊迫する交渉現場と「十数秒」の決断
熊本県労働委員会(村田晃一会長)が令和7年11月20日に出した命令は、団体交渉における「拒絶の正当理由」を厳格に判断した内容となっています。事案の舞台となったのは、運営する短大の廃止を巡る第5回団体交渉の場でした。
この交渉中、組合側の執行委員長が「おい、ちゃんと聞かんかい」「ちゃんと顔見んかい」といった、お世辞にも穏やかとは言えない言葉を発しました。これを受け、法人の代理人弁護士は出席者の安全確保が困難であると判断し、発言からわずか十数秒後に交渉の打ち切りを宣言しました。結果として、その日の交渉は約9分という極めて短い時間で終了することとなりました。
労働委員会が示した「危険性」の解釈
法人側は、これらの発言が暴力行為を示唆するものであり、安全確保のために終了は不可避であったと主張しました。しかし、労働委員会はこの主張を退けました。委員会は、組合側の発言が交渉態度として必ずしも是認されるものではないと釘を刺しつつも、以下の事実を指摘しています。
これらの事実から、弁護士が発言を受けて十数秒で終了させた判断は、「緊急的に終了しなければならないほどの危険性が迫っていた」とは認められないと結論づけられました。
不当労働行為の認定とポストノーティス
結論として、労働委員会は法人側の行為を「正当な理由のない団体交渉の拒否」および「支配介入」に該当する不当労働行為であると認定しました。その救済措置として、法人の行為が不当労働行為であったことを認め、再発防止を誓約する文書を掲示する「ポストノーティス」を命じています。
この命令は、たとえ相手の言葉遣いが不適切であったとしても、それが直ちに「安全を脅かすもの」とは同義ではないことを明確にしています。使用者側には、まずは冷静に警告を発し、それでもなお交渉が不可能な場合に初めて中断を検討するという、段階的な対応が求められているといえます。
まとめとアクション
本件は、団体交渉の場における感情的な対立が、いかに容易に法的紛争へと発展するかを物語っています。組合側の言動が不快であったとしても、客観的な危険性や混乱がない中での即時中断は、不当労働行為とみなされる可能性が高いのが実情です。
実務担当者が取るべきアクション:
労使交渉の場を「戦いの場」ではなく「合意形成の場」として維持するために、どのような状況下でも理性的な手続きを優先することが、結果として企業を守ることに繋がります。
出典・参考情報
今回のように、現場での咄嗟の判断が後の法的紛争を左右するケースは少なくありません。団体交渉の進め方や、特定の言動への対応策について、より具体的なシミュレーションやアドバイスが必要な場合は、いつでもお知らせください。