トップ
事務所案内
お問合せ
労務コンテンツ一覧
サービス案内
人事労務ニュース
リーフレット
リンク先
裁判例紹介・ブログ
作成日:2025/09/11
二度と同じ悲劇を繰り返さないために――D-UP社員自殺事件から学ぶパワハラの本質と企業の責任

20259月、化粧品小売企業「D-UP」に勤務していた新卒女性社員の自殺について、東京地裁において会社側が15000万円の調停金を支払うことで調停が成立し、同社社長のパワーハラスメントが原因であったことが明らかになりました。

本件は、被害者が社長からの人格を否定する発言を繰り返し受け、うつ病を発症し、自殺に至ったという極めて深刻な労災認定事案です。
ヤフーニュース

 

【この事案に思うこと】

企業のトップによる言動が、若い社員の命を奪うほどの影響を与えたという事実は、極めて重く受け止める必要があります。特に、被害者は将来の夢に向かって努力していた最中の出来事であり、その命が失われたことの社会的損失は計り知れません。

また、遺族が望んだのは単なる金銭的補償ではなく、「謝罪」と「再発防止」であったことに、深い意義を感じます。

 

【問題であったと考える点】

  1. 社長自らが加害者であったことの深刻さ

 一般従業員のパワハラであれば社内での是正が可能な余地もありますが、社長自らが加害行為を行ったとなれば、組織内での救済ルートが絶たれていた可能性が高く、社員が孤立無援になる危険性があります。

  1. 人格を否定する暴言の常習性

 「野良犬」「力のない犬ほど吠える」といった発言は、労働施策総合推進法が定めるパワハラの「精神的な攻撃」に該当する可能性が高い言動です。

  1. 社内のハラスメント通報体制の欠如または機能不全

 事案の進行を見る限り、内部通報や相談ルートが機能していなかった可能性があり、早期対応や抑止ができていなかったことが問題です。

 

【再発防止のために企業が持つべき視点】

本件のような悲劇を繰り返さないために、企業が取るべき視点は以下の通りです。

  • 経営陣へのハラスメント研修の徹底

 パワハラ加害者が管理職であるケースは少なくなく、特に中小企業では経営者自身がその意識を持つことが最重要です。

  • 社内通報制度の実効性確保(第三者窓口含む)

社長など経営層によるハラスメントにも対応できる第三者委託型の内部通報制度や外部労務顧問の活用が不可欠です。

  • 早期警戒システムの構築

 メンタル不調の兆候(遅刻・欠勤・表情の変化など)をキャッチし、本人に無理をさせない体制を整えることが重要です。

  • ハラスメント調査・処分ガイドラインの整備

 ハラスメントが発生した場合、被害者保護・加害者処分・再発防止の一連の対応が迅速に行えるようルール整備が求められます。

  • 企業文化の見直し

 成果主義や精神論が過度に強調される風土のなかで、社員の尊厳や多様性が軽視されていないか、経営層は常に内省すべきです。

 

【最後に】

労務の専門家として、本件を単なる「他社の出来事」として片付けてはならないと強く思います。中小企業であっても、ハラスメントが起きるリスクは常に存在し、特に経営層の言動が職場風土に与える影響は絶大です。

企業は、従業員の命と尊厳を守る社会的責任を負っています。人材確保が困難な時代においてこそ、働きやすさ・安全性を担保した職場づくりが企業価値の源泉になることを、あらためて社会全体で共有していく必要があると感じています。

 

本記事は、報道内容(Yahoo!ニュース配信記事)をもとに、一般論として労務リスクと対策を論じたものであり、特定企業に対する断定的評価を意図するものではありません。