近年、大手企業を中心に「賞与の給与化」へ踏み切る動きが目立っています。ソニーグループは賞与の一部を月給に組み入れる制度改定を進め、大和ハウス工業やバンダイといった企業も同様の流れに乗っています。背景には、物価上昇に伴う従業員の生活安定の確保、そして優秀な人材確保競争の中での待遇改善が挙げられます。また、ヤフーニュースにおいてこの内容の記事が賑わっているようで、当職なりの見解をお伝えさせていただきます。
経営者としては、この動きが単なる報酬制度の改定にとどまらず、「人材戦略」や「企業競争力」に直結する重要な施策であることを認識する必要があります。
経営者が検討すべき法的・経営的視点
1. 従業員の安心感と採用力向上
2. 法的リスクの整理
3. 税務・社会保険への影響
4. 同一労働同一賃金への対応
5. モチベーション管理と制度設計
賞与の給与化 ― 経営者が押さえるべき経営リスクと回避策
「賞与の給与化」は従業員の収入安定や採用力向上に資する一方で、経営上のリスクも内在しています。以下に主要なリスクと、その回避策を整理します。
1. 経営リスクと回避策
(1)不利益変更リスク
(2)モチベーション低下リスク
(3)同一労働同一賃金リスク
(4)社会保険料・コスト増加リスク
従業員への説明用FAQ(想定問答集)
制度改定時には従業員から多くの質問が寄せられることが想定されます。以下は想定FAQ例です。
Q1. 賞与が減るのではないですか?
A1. 賞与の一部を毎月の給与に組み替えるため、トータルの年収水準は変わりません。むしろ、毎月の収入が安定することで生活設計を立てやすくなることを目的としています。
Q2. 今後、業績が良くても報酬が増えないのでは?
A2. 賞与の給与化は「生活の基盤を安定させる」ことが狙いです。一方で、業績連動的な報酬や成果評価に基づくインセンティブ制度は引き続き導入・運用します。努力や成果は正当に評価される仕組みを残します。
Q3. なぜ今この制度を導入するのですか?
A3. 物価上昇など社会環境の変化により、従業員の生活安定を重視する必要が高まっています。同時に、安定した収入を約束することは、優秀な人材を確保するうえでも不可欠です。経営戦略の一環として実施します。
Q4. 非正規社員や契約社員には適用されないのですか?
A4. 制度の対象範囲は職務内容や雇用形態に応じて決定します。ただし、不合理な差が生じないよう、法令に沿って適切な設計を行います。
Q5. 社会保険料は増えるのですか?
A5. 毎月の給与額が増えるため、社会保険料は年間を通じて一定額が発生します。ただし、これは将来の年金受給額や社会保障の充実につながるものでもあります。
経営者への提言
「賞与の給与化」は、従業員の安定収入を実現し、企業の採用力や定着力を高める有効な手段となり得ます。しかし同時に、労働基準法・労働契約法・社会保険制度など多岐にわたる法的要素を含み、不利益変更や待遇差別のリスクも内在しています。
経営者にとって大切なのは、「短期的なコスト抑制」や「流行への追随」ではなく、自社の経営戦略や人材戦略との整合性を図りながら報酬制度全体を再設計することです。
経営者としては、法的リスクの回避・財務シミュレーション・従業員への丁寧な説明を三本柱として、制度設計を進めることが望ましいと思料いたします。