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作成日:2025/07/16
【36協定の無効に関する解説】無効な36協定下で残業させ書類送検〜岩国労基署の事例を踏まえて

20256月、岩国労基署は、無効な36協定を基に従業員に時間外労働を強制したとして、企業を送検しました。この事例は、36協定を適正に締結しないことのリスクを改めて企業に警鐘を鳴らすものです。この記事では、36協定の適正な運用と、従業員代表者の選任方法に関する実務対応について解説します。

 

事案の概要

本件では、外国人技能実習生に時間外労働を行わせたとして、プラスチック製品製造業の葛、立プラスチック(山口県岩国市)が36協定を締結する際、従業員代表者の選任方法を適切に行わなかったとして、労働基準法第36条に基づく時間外労働の認可が無効とされました。その結果、労働者に時間外労働を行わせたことが違法と認定され、この企業は書類送検されました(令和7626日送検)。

 

36協定は、労働基準法第36条に基づき、時間外・休日労働を行わせるために労使で結ぶ必要がある協定ですが、その協定が無効である場合、企業は労働時間の上限を超えて従業員を働かせることができません。

 

 労基署の判断

本件で問題となったのは、従業員代表者の選任方法に関する不備でした。具体的には、次の点が指摘されました。

Ø  従業員代表者の選任手続きが不適切:従業員代表者は、労働者の全体の同意を得る形で選任されなければならないが、その過程が不透明だった。

Ø  協定の無効性:労使で締結した36協定が、従業員代表者選任の手続きが不適切だったため、無効とされました。

 

 適正な従業員代表者選任方法

従業員代表者(労働者代表)の選出方法は、労働基準法において「適切な手続きにより選出された者」でなければならないとされており、具体的には「民主的な方法」が求められます。会社が一方的に指名したり、特定の地位にある者が自動的に代表になったりすることは認められません。

以下に、有効な選出方法をいくつかご紹介します。

1.投票による選出

最も民主的で公正な方法とされています。

  •    無記名投票: 候補者を立て、従業員が秘密裏に投票し、多数の票を得た者が代表となります。候補者が1名の場合は、信任投票を行います。匿名性が保たれるため、従業員が安心して意思表示しやすい方法です。
  •    電子投票: 社内ネットワークやメールを活用し、オンラインで投票を行う方法です。時間や場所を問わず参加できる利便性があります。

【ポイント

  •  事前に、選出の目的(例:36協定の締結のため、就業規則の意見聴取のためなど)を明確に周知します。
  •  立候補者を募る期間を設け、広く参加を呼びかけます。
  •  投票用紙や電子投票システムなど、投票の公平性を確保する仕組みを整えます。

 

2.挙手による選出

従業員が集まる場で、候補者への支持を挙手で表明してもらう方法です。

【ポイント

  •  全員が出席する場で行い、その場で支持の有無が明確にわかるようにします。
  •  匿名性はないため、従業員が自由に意思表示できる雰囲気づくりが重要です。
  •  投票に比べて手軽に実施できるメリットがあります。

 

3.回覧による選出

文書を回覧し、信任・不信任の意思表示を署名や押印で集める方法です。

【ポイント

  •  選出の目的、候補者名、信任・不信任を表明する欄などを明記した文書を作成します。
  •  紙媒体だけでなく、社内メールや社内システムを活用することもあります。
  •  回覧によって、従業員の過半数の支持が得られたことを明確にする必要があります。

 

4.推薦・互選による選出

立候補者がいない場合や、より適任な人物を選びたい場合に有効な方法です。

  •  推薦: 従業員から代表者として適任な人物を推薦してもらい、その推薦された候補者に対して、投票や挙手などで信任を問います。
  •  各部門・部署の代表者による互選: 各部門や部署で代表者を選出し、その代表者が集まって従業員全体の代表者を互選する方法です。

【ポイント

  •  推薦や互選の場合でも、最終的には従業員の過半数の支持を得ていることを民主的な手続きで確認する必要があります。
  •  企業が従業員に「立候補してもらえないか」「推薦してほしい」と打診することは問題ありませんが、その後の選出プロセスは民主的に行われる必要があります。

 

◆選出全般における重要な注意点

ü   民主的な手続きの徹底: 最も重要な点は、労働者の過半数が代表者の選任を支持していることが明確になる「民主的な手続き」を踏むことです。会社が一方的に指名したり、特定の地位にある者を自動的に代表とすることは無効です。

ü   管理監督者でないこと: 従業員代表者は、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者であってはなりません。

ü   使用者の意向に基づき選出された者でないこと: 会社が選出プロセスに不当に介入したり、特定の候補者を推薦したりすることは認められません。あくまで従業員が自主的に選ぶことが求められます。

ü   全従業員への機会提供: 正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイトなど、事業場に属するすべての労働者に選出に参加する機会が与えられなければなりません。

ü   目的の明確化と周知: 何の目的で従業員代表を選出するのか(例:36協定の締結、就業規則の意見聴取など)を従業員に事前に明確に伝えておくことで、従業員代表者が行う内容が明確になり、理解を得られやすくなります。

ü   記録の保管: 選出過程に関する記録(選出方法、候補者、結果など)を適切に保管しておくことが、労務トラブル防止のためにも重要です。

ü   不利益取扱いの禁止: 使用者は、従業員が従業員代表になろうとしたこと、または従業員代表になったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはなりません。

 これらの選出方法の中から、自社の規模や状況に合った適切な方法を選択し、公正かつ民主的な手続きで従業員代表者を選出することが重要です。

 

◆社労士としてのアドバイス

36協定を適切に締結するためには、従業員代表者選任手続きの適正化と、協定の内容が法的に有効であることを確認する必要があります。また、定期的に36協定を見直し、従業員に十分な情報を提供することで、労働条件の改善やトラブル回避にもつながります。

 

三重総合社労士事務所では、36協定の適正運用や従業員代表者選任方法に関するサポートを提供しています。労働基準法や労使協定の遵守に関してお悩みの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

  

📌参考資料

[厚生労働省『時間外労働上限規制わかりやすい解説』] ( https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf)