東京地裁はキャバクラ店で勤務するキャストが「業務委託契約」で働いていたものの、実態としては労働基準法上の「労働者」に該当すると認定し、店舗が行っていた源泉徴収・社会保険料控除を違法と判断しました(令和7年6月25日、東京地裁判決)。
本判決は「諾否の自由」の有無を労働者性判断の重要な要素と位置付け、契約形態と実態の不一致が企業に重大なリスクをもたらすことを示しています。
この判決のポイントを解説するとともに、厚生労働省のガイドラインや実務上のリスク管理の観点から、企業が取るべき対応策を社労士の視点で提言します。
【事案の概要】
原告は、キャバクラ店のキャストとして勤務し、店側と形式的には「業務委託契約」を締結していました。しかし、実態としては次のような状況が確認されました。
u 勤務シフトの決定は店舗側の裁量
u 接客方法や服装、サービス内容への具体的な指示
u 報酬は店舗の売上に応じて決定され、他店舗での勤務は実質的に不可能
原告は、これらの実態をもとに「労働者」としての地位を主張し、店舗が行っていた税金や社会保険料の控除の違法性を訴えました。
【東京地裁の判断ポイント】
1. 諾否の自由の有無
本件の核心は「諾否の自由」、すなわちキャストが業務を断る自由が実質的にあったか否かです。裁判所は次の点を重視しました。
l シフトの欠員補充を求められ、実質的に勤務を断れない状況
l 出勤を拒否した場合、報酬が得られず経済的依存が強い
形式的には自由があるとされても、実態として断る自由がなければ「諾否の自由は制約されている」と判断され、労働者性を補強する要素となります。
2. 使用従属性
l 勤務時間・場所が店舗側によって指定
l 接客方法・服装についての具体的な指示や監督が存在
3. 経済的従属性
l 報酬は店舗の管理下でのみ得られる
l 独立して事業を営む経済的基盤がない
4. 控除の違法性
労働者性が認定されたため、店舗側による源泉徴収や社会保険料控除は違法と判断されました。
【現在の「労働者性」判断基準】
厚生労働省のリーフレットおよび過去の最高裁判例によると、労働者性は形式的な契約形態ではなく、実態に基づき総合判断されます。
判断基準 |
内容 |
使用従属性 |
指揮命令下で労務を提供しているか |
諾否の自由 |
業務の依頼を断る自由が実質的にあるか |
報酬の労務対価性 |
成果ではなく労務提供そのものに対する報酬か |
経済的従属性 |
報酬を得るため他社との契約が困難な状況か |
事業者性の有無 |
独自の事業としての顧客管理・設備・広告等があるか |
【 社労士視点:企業が取るべき対応策】
論点 |
実務上の対応策 |
契約形態の整合性 |
実態が雇用なら業務委託契約を形式的に用いない |
諾否の自由の確保 |
業務依頼を断る権利を真に保障し、不利益を課さない |
社会保険適正対応 |
労働者性リスクを踏まえ加入義務の有無を検討 |
労務管理の見直し |
シフト管理・業務指示のあり方を再検証 |
特に、夜間接客業などで多い「自由業務委託」形式は、実態次第で労働契約と認定されるリスクが高いことを認識する必要があります。
【まとめ】
本件判決は、契約書の「業務委託」表記があっても、実態として企業の管理下で労務提供が行われていれば「労働者」と認定されるリスクがあることを示しました。特に「諾否の自由」が実質的に存在しない場合、労働者性の判断で不利になります。
三重総合社労士事務所では、契約形態診断・労働者性リスクの洗い出し・就業規則の見直しを通じて、事業主様のリスク低減をサポートしています。接客業や業務委託契約を多用する業種の皆様は、ぜひ一度ご相談ください。
📌 参考資料
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf