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作成日:2025/06/05
【労働基準法「労働者性」40年ぶりの見直し──プラットフォーム時代における企業と社労士の新たな責任】

弁護士ドットコムニュースさんで、濱口桂一郎先生の記事が公開されていました。その内容を要約し、また社労士としての意見を交えて、お伝えします。

 
「労働基準法の「労働者性」、40 年ぶり⾒直しで何が変わるか 濱⼝桂⼀郎⽒に聞く」

2024年、日本の労働制度にとって大きな転換点となる議論が進められています。厚生労働省の研究会において、実に約40年ぶりとなる「労働基準法上の労働者性」の見直しが始まったのです。

 

この見直しは、単なる制度の改正ではありません。それは、テクノロジーと多様化する働き方の中で、「誰を労働者として保護すべきか」という本質的な問いに向き合うものです。実務に携わる社労士として、この動きには非常に大きな意義を感じています。

 

背景にある「プラットフォームワーカー」の台頭

 この議論が始まった最大の背景には、いわゆる「プラットフォームワーカー」の急増があります。ウーバーイーツやクラウドワークス、ランサーズなど、スマホアプリを介して仕事を受けるスタイルは、特に若年層や副業層を中心に浸透しています。

 これらの働き手は、形式上は業務委託契約を結び「フリーランス」とされているものの、実態としてはかなりの制約下で働いており、「雇用」との境界が極めて曖昧です。海外ではすでにこの実態に対して司法判断や法整備が進んでおり、スペインの「ライダー法」やEUの新指令では、プラットフォームワーカーも労働者として保護する方向が明確に示されています。

 

指揮命令の「再定義」──AIが上司となる時代に

 労働者性の判断基準の中核は、「指揮命令関係」の有無です。この考え方自体は1985年にまとめられた労基法研究会報告から大きく変わっていません。しかし、AIやアルゴリズムによる業務指示が行われる時代に入り、「誰が命令しているのか」が一層不透明になっています。

 たとえば、配達ルートや勤務時間、評価制度が全てシステムで管理されているケースでは、「人間の上司がいないから労働者ではない」と言えるでしょうか。研究会ではこの「AIによる指示」が指揮命令に該当するのかという、新たな判断枠組みの検討が進められています。

 

この視点は、企業の側にも大きな示唆を与えます。たとえ人を雇っていない感覚であっても、アルゴリズム的な統制を加えている場合、それが「労働者性」として判断される可能性があるということです。

 

■“フリーランスの再定義と企業のリスク

 また、昨年施行された「フリーランス新法」では、あくまで自律的に働く者を念頭に置きつつ、労働者性が認められた場合には労基法による保護が適用されると明記されています。

 つまり、「うちは業務委託契約だから関係ない」と考えている企業も、実態に応じては労働者としての保護義務が生じる可能性があるのです。特に、自社の指示で行動し、時間や成果に厳格な管理が行われているようなケースでは要注意です。

 私はこれまでIPOを目指す企業の労務監査を多数手がけてきましたが、こうした形式と実態の乖離はしばしば見受けられます。契約書の整備だけではなく、実際の働き方やマネジメントスタイルも含めて見直すことが、今後ますます求められるでしょう。

 

制度の狭間にいる「中間的な働き手」への対応

 注目すべきは、「労働者」とも「自営業者」とも言い切れない中間層の存在です。たとえば、建設業の一人親方、委託配送の運転手、美容・接客業の個人事業主など、一定の指示を受けながらも形式上は自営業者として扱われる人々は数多く存在します。

 こうした働き手に対しても、近年は労災保険の特別加入制度の拡充や、労働安全衛生法の対象拡大といった、段階的な保護措置が進められています。制度の見直しが進めば、こうした「実態は労働者に近いが形式はフリーランス」の層に対しても、さらなる保護が及ぶ可能性があります。

 

企業と社労士に求められる予防的視点

 今回の見直しは、いきなり法律が変わるわけではありません。まずは厚労省による「指針」が示され、それが行政や司法の現場での判断基準として活用されるようになります。

 これは企業にとって、裁判に至る前の段階で、自社の契約や労務体制が法的に問題ないかをチェックする重要な材料となるでしょう。裏を返せば、指針を無視した運用を続けていれば、トラブル時に「合理的配慮を怠った」と見なされる可能性も高まるということです。

 私自身、「労働者性」や「契約リスク」に関するご相談を受ける際は、契約書と同時に実態調査とヒアリングを行い、リスクマップを可視化することを大切にしています。形式と実態のズレは、たとえ善意の運用であっても、後に企業にとって深刻な法的リスクとなり得るからです。

 

「人を大切にする経営」の基盤づくりへ

 最後に、企業にとってこの議論がもたらす最大の意義は、「人を大切にする経営」への転換を後押しするという点です。テクノロジーが進化し、働き方が多様化する中で、いま求められているのは効率性だけではありません。納得感持続可能性のある働き方こそが、企業の成長を支える土台となります。

 私たち三重総合社労士事務所では、こうした制度の動向を踏まえた就業ルール整備、業務委託の適正化、IPOを見据えた労務監査など、企業のフェーズに応じた伴走支援を行っています。見直し前の今こそ、労務の棚卸とリスク点検に取り組む好機です。

 

変わりゆく労働のカタチに備え、企業と働き手がともに安心できる環境づくりを、ぜひ一緒に進めてまいりましょう。