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作成日:2024/12/17
副業・兼業に関する事例考察と主な対策について

ヤフーニュースで、次の記事に目がとまり、朝の報道番組でも取り上げられた内容でした。

兼業で過労自殺、労災認定 名古屋北労基署、初事例か (12/16(月) 11:46

岐阜大の研究者と測量会社の技師を兼業していた愛知県の男性=当時(60)=が自殺したのは二つの職場での心理的な負担が重なったのが原因だとして、負担を総合的に判断し、名古屋北労基署が労災認定していたことが16日、関係者への取材で分かった。2020年改正の労災保険法は労災認定について、複数の勤務先での労働時間や心理的な負担を合算し、総合判断できるようにした。過労自殺への初適用例とみられる。  
厚労省によると、この運用を適用し、
23年度までに17件労災認定された。うち4件が死亡事案で、いずれも脳や心臓の疾患によるものだった。  
代理人弁護士によると、男性は
1912月ごろから、岐阜大の研究員と航空測量会社「パスコ」(東京)の技師を兼業していた。精神障害を発症し、215月に自ら命を絶った。  
岐阜大では准教授からパワーハラスメントを受けており、パスコでは橋梁調査の業務全般を
1人で担当するなどしていた。労基署はそれぞれの職場での心理的負荷強度は「中」だったが、総合的に検討すれば「強」に当たると指摘した。


副業・兼業においては、労働時間通算の管理の煩わしさ、人材流出の可能性等々、リスクや問題点はこれまでも言われていましたが、今回、この記事にもあるとおり、もう一つのリスク論として言われていましたが、主たる会社と副業・兼業先の企業、双方に精神障害に伴う賠償リスク論の内容に繋がる事例と思います。
以下、考察とそれぞれの場面での主な対応策をお伝えしたいと思います。

要約:兼業・副業による労災認定(上記事例)

愛知県の男性(当時60歳)が、岐阜大学の研究者測量会社の技師の兼業をしていた際に、2つの職場での心理的負担が原因となり自殺しました。このケースに対し、名古屋北労働基準監督署は労災認定を行いました。

  • 背景
    • 岐阜大学では准教授からのパワーハラスメントが発生。
    • 測量会社では、橋梁調査の業務全般を1人で担当するなど過重な業務が続いた。
  • 労災認定のポイント
    • 複数の勤務先の心理的負担が「中」と評価されたものの、**総合的に判断して「強」**と認定された。
    • 2020年の改正労災保険法により、複数の勤務先の負荷を合算して労災認定する運用が初めて過労自殺に適用された事例とみられる。

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」から見る企業の注意点

厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を通じて、働き方の柔軟化を推進しつつも、労働者の健康管理や労働時間の管理に対する企業の責務について示しています。このガイドラインに基づいて考えられる、企業が注意すべき点と主な対策は以下の通りと考えます。


1. 労働時間の通算管理

注意点:労災認定において、複数の職場での労働時間は合算されるため、過重労働のリスクが高まります。企業側が「自社のみの労働時間管理」を行い、兼業先での労働時間を把握していない場合、労働者の健康が害される可能性があります(なお、この労働時間通算管理については、今後、その取扱いが変更される可能性があります)。

対策

  • 労働時間の報告義務

労働者に対して、兼業先での労働時間や業務内容を報告するルールを明確にし、定期的に確認する仕組みを構築します。

  • 時間外労働の制限

企業が副業・兼業を認める場合、自社での時間外労働の上限を厳格に設定し、労働者が過剰に働かないよう管理します。

  • 健康管理の強化

労働者の健康診断の実施やストレスチェックを活用し、心身の不調を早期に発見・対応します。


2. 労働者の健康確保措置

注意点

兼業・副業による長時間労働や心理的負担の増加により、健康障害や精神的な不調を引き起こすリスクが高まります。今回の事例でも、心理的負荷が「中」と評価されながら、総合的に「強」と判断されました。

対策

  • 健康管理体制の整備

兼業・副業を行う労働者に対して、労働時間だけでなく心身の健康状態についても適切に把握し、必要な休息や勤務時間の調整を行います。

  • メンタルヘルス支援

カウンセリング制度や相談窓口を設置し、労働者が心理的負担を相談しやすい環境を整えます。

  • 労働者への教育

労働者自身に対して、兼業・副業を行う場合の自己管理や健康維持の重要性を啓発する研修を実施します。


3. 職場におけるハラスメント対策

注意点

今回の事例では、岐阜大学でのパワーハラスメントが心理的負担の一因とされました。ハラスメントが労災認定につながるケースは増加しており、企業はその防止と対策を徹底する必要があります。

対策

  • ハラスメント防止規程の整備

職場におけるハラスメント防止のためのガイドラインや社内ルールを策定し、全従業員に周知します。

  • 相談窓口の設置

労働者がハラスメントを受けた場合に相談できる窓口を設置し、早期対応と解決を図ります。

  • 管理職の教育

管理職に対して、発達障害や特性を持つ労働者への適切な対応を含め、ハラスメントを未然に防ぐための研修を実施します。


4. 就業規則への明記と管理体制の構築

注意点

副業・兼業を許可する際に、労働条件や健康管理のルールが曖昧な場合、労務トラブルが発生する可能性があります。

対策

  • 副業・兼業に関する就業規則の整備

就業規則において、副業・兼業の許可条件、労働時間の管理方法、健康管理体制などを明確に定めます。

  • 管理体制等の構築

労働者が副業・兼業を行う際には、企業が労働条件や健康確保措置について事前に条件や管理体制を構築することが重要です。


まとめ:企業に求められる対応

今回の事例は、兼業・副業における労働時間と心理的負担が合算され、労災認定に至った初めての過労自殺ケースとして紹介されています。これを受け、企業は以下の対応を徹底することが求められます。

  1. 労働時間の通算管理:兼業先も含めた労働時間を把握し、過重労働を防止する。
  2. 健康管理の強化:ストレスチェックや健康診断の対象者を広げて、法律上の基準外の労働者の心身の状態も確認する。
  3. ハラスメント対策の徹底:職場でのハラスメントを防止し、健全な労働環境を整える。
  4. 就業規則の整備:副業・兼業に関するルールを明確にする。

副業・兼業を推進する動きが加速する中で、労働者の健康と安全を守るために企業が果たすべき責任はますます大きくなっています。社労士の専門知識を活用しながら、労務管理の体制を強化することが、労働者の働きやすさと企業の持続的成長につながるでしょう。