労働時間の適正把握とは?
2024年9月に、厚生労働省より、改めて「労働時間を適正に把握し 正しく賃金を支払いましょう」という表題のパンフレットが公開されました。
労働基準法では、企業には労働者の労働時間を適正に把握し、それに基づいて賃金を計算・支払う義務があると定められています。この適正把握は、1日ごとの労働時間を正確に記録するだけでなく、労働者が実際に勤務した時間を切り捨てることなく支払うことが重要です。特に、1日の労働時間が一定の時間に満たない場合に一律に切り捨てる「丸め処理」が行われている場合、労働基準法違反にあたります。
労働時間を適正に把握する方法として、企業は始業・終業時刻を確認し、正確に記録することが求められます。基本的には、使用者が自ら労働者の就業状況を確認するか、タイムカードやICカード、パソコンの使用記録など、客観的な手段を使用することが適切です。やむを得ず自己申告制を利用する場合は、記録の適正さを保つための確認作業が必要です。
違法な端数処理が招くリスクと違法行為の例
労働時間の端数処理には厳格なルールが定められており、不適切な処理によって賃金未払いが生じると、労働基準法違反として罰則の対象になります。例えば、勤怠管理システムの設定で、1日の労働時間や残業時間が15分未満の端数を一律に切り捨てる「丸め処理」を行うことや、残業申請を30分単位でしか認めず、30分に満たない時間外労働を未申請にすることなどが問題となります。これらの方法では、実際に働いた時間分の残業代が支払われていないため、法的なリスクが高まります。
ただし、労働時間の端数処理には例外が認められるケースもあります。1か月の時間外労働や休日労働、深夜労働の合計において、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は、事務簡便を目的とし、労働者に不利益が生じない範囲で認められています。また、1日の労働時間を切り上げたうえで、その分の賃金を支払うことも許容されます。
労働時間の適正把握の具体例と企業における注意点
労働時間には、始業・終業の記録に加え、始業前や終業後の作業時間も含まれます。例えば、毎朝のタイムカード打刻前に行う制服の着替えや清掃、朝礼などはすべて労働時間としてカウントされなければなりません。これを労働時間と認めない場合、法的に問題が生じます。
適正な労働時間把握を実施することは、企業にとっても多くのメリットがあります。違法な賃金未払いを防ぎ、法令遵守を徹底することで、従業員からの信頼が得られると同時に、働きやすい環境づくりにつながります。特に、客観的な記録手段を用いることによって、企業と従業員の間で労働時間に関するトラブルを未然に防ぐことが可能です。
賃金台帳の正しい記載方法
労働時間を適正に把握し、賃金の計算が正確であっても、賃金台帳に正しい情報を記載しなければ、記録管理が不十分と見なされます。賃金台帳には、労働日数、通常労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを適切に記入しなければなりません。これにより、企業側は正確な記録が保持され、都道府県労働局や労働基準監督署からの指導リスクを減らせます。
労働時間を適正に管理し、記録を整えることで、法令に基づく適正な賃金支払いを実現し、従業員との信頼関係を築くことができます。また、賃金台帳の記載内容が適切であれば、企業の健全な運営にも貢献します。
まとめと企業が適正把握を行うべき理由
労働時間の適正な把握は、労働者の権利を守るために企業が遵守すべき基本的な義務です。労働基準法に基づいた適切な管理を徹底することで、賃金未払いリスクを回避し、従業員の労働意欲向上にもつながります。また、違法な端数処理や不適切な勤怠管理は、労働基準監督署からの指導や企業イメージの低下を招く可能性もあります。従業員の労働時間を正確に把握し、信頼性の高い管理体制を構築することが重要です。
専門家である社会保険労務士に相談することで、企業が法令遵守を徹底し、健全な職場環境の実現をサポートできます。