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2020.07.19

事務所通信

残業代 2700万円支払いを命令 変形時間制に不備 8時間超える部分が無効 東京地裁

1カ月単位の変形労働時間制が無効になった際、所定労働時間と賃金額がどのような影響を受けるかが争点となった裁判で、東京地方裁判所(伊藤由紀子裁判長)は所定労働時間のうち8時間を超える部分の契約を無効と判断し、ハイヤー事業を営む会社に付加金を含め残業代計2700万円の支払いを命じた。会社は契約が無効になったことで、所定労働時間が短くなれば、それに伴い賃金も減るため、すでに通常の労働時間の賃金は支払っていると主張した。同地裁は「月給制は所定労働時間と賃金が厳密な対応関係になく、月ごとの賃金額の契約は無効にならない」として、1.25倍の割増賃金が必要としている【令和2年6月25日、東京地裁判決】。

割増賃金支払いを命じられたのは羽田空港の航空会社の関係者を対象にハイヤー事業を行うイースタンエアポートモータース㈱(東京都大田区、藤原寛治代表取締役)。同社は大田区の本部のほか、羽田空港第2旅客ターミナルビル1階に羽田事業所を設けている。

就業規則には1カ月単位の変形労働時間制を規定していたが、日勤・夜勤などの勤務ごとの始業・終業時刻や休憩時間、勤務割表の作成手続き、周知方法などの記載はなく、法定の要件を満たしていなかった。

実際の運用では、勤務は日勤と夜勤の2種類で、日勤は1日11時間、夜勤は1日17.5時間を所定労働時間としていた。勤務割表は月末の2~3日前に示し、1カ月の所定労働時間を平均して1週当たり40時間になるようシフトを組んでいた。3人の労働者は羽田事業所で配送業務に従事していた。変形労働時間制に不備があり、割増賃金が支払われていないとして裁判を提起した。

裁判では、変形労働時間制が無効になると、所定労働時間と賃金額がどのような影響を受けるかが争点となった。同地裁は変形労働時間制が無効になった場合、所定労働時間は1日8時間に短縮されるとした。賃金額は労働基準法に定めがないため、契約の合理的な解釈によるとしている。

そのうえで、時給制や日給制の場合は賃金と所定労働時間が厳密に対応しているが、月給制は厳密な対応関係にないと評価。3人の労働者は月給制で働いているため、無効になるのは1日8時間を超える所定労働時間のみで、月ごとの賃金額は無効にならないと指摘し、日勤時は3時間分、夜勤時は9.5時間分の賃金の支払いが全くなく、通常の労働時間の賃金の1.25倍の割増賃金支払いが必要とした。

同社は、賃金はシフト表に定めた労働時間の対価で、通常の労働時間の賃金はすでに支払っていると主張した。所定労働時間が短くなった場合は、賃金もこれに応じて減るのが契約の合理的な解釈で、支払いが必要なのは0.25倍の割増部分だけと訴えている。

これに対し、同地裁は「無効な合意に基づき法律上の原因なく支払われた金員が、割増賃金の有効な一部弁済になるとの解釈は、契約当事者が通常想定するものとは認めがたい」と強調。同社の主張を退けた。

付加金については、就業規則の不備な状況に照らし、割増賃金と同額の請求を認めた。計2753万8532円の支払いを命じている。

(2020.07.16【労働新聞】より。)

★ 変形労働時間制の適用要件を満たさず、実務において実施している企業は、少なからず確認されます。過去にも同様な裁判例は存在しており、制度を有効とするにはいくつかの要件を満たす必要があります。変形労働時間制の適用要件を満たさないと、上記東京地裁の判決内容の様に、制度適用そのものが否認され、労基法第32条に定める1週40時間・1日8時間の法定労働時間である原則論の適用とされ、それらを超えた部分が全て時間外労働等に認定されてしまうリスクが存在することになります。導入する際は、専門家に意見を求め、適正導入・運用を実現することをお勧めします。
  

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